第67話 自宅訪問
引き続き工場見学をさせてもらっていると、ガストンさんが思い出したように話しかけてくる。
「弟夫婦、ライラの両親もリアちゃんに会いたがっていたんだが」
確かにご両親にも一度くらい挨拶をしておくべきかな。この人は伯父さんだもんね。
「そうですね……時間が合えば挨拶に行こうかと思います」
「そういえば、リアちゃんはどこに泊まっているんだ?」
「宿ですよ」
一応宿の名前を告げる。高くもなく安くもなく、見た目が綺麗な宿だ。
あんまり安い宿はセキュリティに不安があるので、短期間の滞在でも安宿を選ぶのは良くない。特に、私は見た目だけはかなり良いので、そういうところは気を付けないといけない。
「リアちゃんが良ければ、夕食でもどうかと言っていたが」
基本的に夕食はその辺のお店で済ませている。宿で食事が出るわけでもない。
誘われているというのなら、この機会に挨拶させてもらおうかな。
「特に予定はありませんし、私は構いませんよ」
「そうか。じゃあ夕方頃ライラと一緒に家に向かってくれ」
あ、今日なのね。別に構わないけど。
「わかりました」
ライラのご両親か……どんな人だろう?
邪魔にならないように工場見学をさせてもらい、学校だけでは得難い勉強をさせてもらった。
服作りの参考になるからと、ライラに身体のサイズを測られたので、ついでに私に合う服でも作ってくれないかな。服作りってどれくらい時間がかかるんだろう。
夕方になると工場も稼働を止め、従業員も帰り支度を始める。
「ライラ。今日夕食にお邪魔するね」
「今初めて知ったんだけど?」
「そんなこと言われても」
ご両親からガストンさんへ、そこから私へと話が行ったので、ライラは事情を知らなかったという事実。
それを私に言われても困る。もう来るつもりで準備しているはずだとガストンさんが言っていたので、行かないわけにもいかない。
「はあ、じゃあ行くよ」
溜息を吐きながらも案内してくれるライラについて工場を出た。
ライラの後ろを歩きながら、なんだか不安になって聞いてみる。
「嫌?」
「ううん」
突然の自宅訪問、嫌がられているかと心配していたけど、そうじゃないみたいで良かった。
前を歩くライラの表情は見えないけど、後ろ姿はなんだか楽しそうだ。少しでも喜んでいてくれていると思っていいのかな。
「ライラの家族ってどんな人?」
「普通だよ。お父さんとお母さんと、あとお兄ちゃんがいる」
「お兄さんいるの?」
ライラの家族構成は聞いたことがなかったけど、お兄さんいたんだね。
今世の私は兄弟姉妹がいないんだよね。いたらどんな生活を送っていただろう。
四歳の時点で精神年齢が二十歳だったからなぁ。いたらいたで色々苦労しそう。私も両親も。
「うん、三つ上。一時期冒険者になる! って騒いでたけど、今は普通に働いてる」
「冒険者って憧れの職業なのかね?」
実際には便利屋でしかないんだけどね。
魔物討伐をすれば格好良いかもしれないけど、他にも街中で重たい物を運んだり、清掃作業をしたりといった雑務の依頼も多いよ。ランクが上がればそういうのも減るけど。
「漠然と格好良いと思う人は結構いるんじゃないかな」
特に深い理由もなく、お兄さんは冒険者になりたいと言っていたらしい。本当にそうなのかな? まあ今普通に働いているんだったら、大した理由もなかったんだろう。
「ここ」
しばらく歩いてようやくライラの家にたどり着いた。なんだか少し緊張してきたな。
「すー……はー……」
「何深呼吸してんの」
「だってなんか……ねぇ」
「普通にしてていいから」
緊張している私のことなど知ったことかと言わんばかりに、自宅の玄関を開けるライラ。
ちょいちょい冷たいところ変わってないね。
「ただいまー。リア連れてきたよ」
「お邪魔しまーす……」
ドキドキしながら玄関のドアを潜る。
ライラの家はよくある一軒家。玄関で少し室内を見渡してみるけど、これといって無駄なものもない、綺麗なお家だ。
「あらあらあらあら、あなたがリアちゃんね。いらっしゃい」
声が聞こえたからか、女性が一人出迎えてくれる。母親かな? ちょっとライラに似ている気がする。
「初めまして。リアです」
「噂通り可愛い子ね~。ライラの母のランよ」
噂通りとは?
ライラは親御さんにどんな話をしたんだろうか。
「突然お邪魔してしまい申し訳ありません」
「呼んだのはこっちなんだからいいのいいの! そんなに畏まらなくても大丈夫よ。さ、上がって」
お言葉に甘えて上がらせてもらう。
すぐに夕食ができるそうなので、座って待っていてと言われたので、ライラと一緒に大人しく待つ。
「何か食べられないものはある?」
「いえ、大丈夫です」
楽しそうにしながらキッチンに向かうランさん。それとは対照的に、さっきから恥ずかしそうにしながら無言なライラ。
うん、まあ、親の浮かれた様子って友達とかに見られると恥ずかしいよね。わかるわかる。
私も初めて幼馴染たちに父親の様子を見られた時、めっちゃ恥ずかしかったもの。
「元気なお母さんだね」
「もおぉぉぉ……恥ずかしいぃぃぃ……」
「あっはっは」
私からすると、ライラも含めて面白くて楽しいです。
何気に今世初かな、友達の家で夕食なんて。
今も恥ずかしそうに俯き気味なライラと話をしながら、夕食ができるまで待った。
クリスマスだから特別編でも書こうかな、なんて思ってたけど、いつの間にかクリスマスが終わってました。
まあ異世界だからね。クリスマスは無いんです。




