第65話 一年
「へぇー。旅に出るんだ」
次の日、ライラにセディフを案内してもらい、人気の食事処で昼食を食べながら近状報告だ。
「そう。その前にライラに会っとこうかなーって思って」
「来るなら言ってくれればいいのに。急なんだから」
この世界の連絡手段って手紙しかないからなあ。手紙送って返事を待って……ってするより、来ちゃった方が早いんだもの。
「一人で行くの?」
「別の大陸に仲間がいるから、そこまでは一人かもしれない」
「仲間?」
「王都で会ったでしょ、エルフ三人」
「ああ!」
あの美人さんたちねーと言いながら食事をパクリ。私も食べる。人気処とあってなかなか美味しい料理だと思う。
「良かったねー。美人さんと旅なんて」
「ドキドキしてるよ」
「仲間内恋愛してギクシャクしないように……相手にされてないんだっけ?」
「まるで振られたみたいな言い方やめて」
まだ! 何も! 始まってないよ! いやそんなつもりはないけども!
年の差があり過ぎて子供扱いから抜け出せる日は……無さそうだし。いいんだ、恋人になんてならなくて。
「いいのもう。お友達になれただけで十分だから」
「またそんなこと言って。子供みたいに意地を張るんだから」
「失敬な」
我儘な子供を見る目で私を見ないで。
ライラとは一つしか違わないし、精神年齢は私の方が上だよ。
自分が子供っぽい自覚はあるけど。
「もう諦めたからいいの」
私の中で、別れ際のエルシーナの行動は親愛行動の一種だと理解したから。きっと友人相手になら全員にやっている行動であって、特別な意味なんて無いんだと思うの。
前世でだって女子同士で別れ際に抱き合ったりしたし、そんな感じでしょう。手を握られるくらい普通だ。
私が恋をしたところで、誰も幸せにはできないだろうから、恋人なんて作らないのだ。
「旅をしていれば、何かしら進展もあるよ」
「そうかもね」
私とエルシーナの仲が、とは限らないけどね。
私に進展させる気がないんだもの。エルシーナが私以外の誰かと幸せになる、そんな覚悟でも決めておこう。自分で言ってて凹むという謎。
「後悔はしないようにね」
「気を付けるよ」
私の幸福を願ってくれているライラには悪いけど、上手くいくとは思えないんだよね。
近くにいない状態で色々考えてもどうしようもないか。会いに行けば何か変わるかね。
会いに行ったら恋人がすでにいた……とかになってたらどうしよう。心へのダメージが大きすぎるかもしれない。
やめよう、自分で自分にダメージ負わせてるわ。妄想で。
「ライラは結婚は?」
「今のところそういう話はないかな」
ライラはもう世間的には成人だ。結婚の話の一つや二つ、来ているかと思っていたけど、さすがにまだだったか。
「好きな人もいないんだ」
「そうだねー。まだあと五年くらいはいいかな。まだ働き始めたばっかりだし」
確かに、学校を卒業して一年、働き始めて一年しか経ってないのに、結婚は早すぎるね。まだまだこれから色々やりたいことができてくるときだろうし。
「まあ、結婚以外にも道はあるんだし、好きに生きればいいと思うよ」
「そうだね、リアも好きに生きていきなよ」
「好きに生きてるよ。旅にも出るし」
これ以上ないくらい好きに生きてると思うよ私。むしろ自由過ぎるんじゃないかと心配している。周りに迷惑かけてそう。
「恋愛面でもね」
「んんんんん……善処します」
蒸し返さないでくれ……。
でも、いつかライラにも良い報告ができる日が来ればいいなとは、思ってるよ。
「落ち着いたら手紙送るね」
「旅先に手紙って送れるのかな?」
長期滞在できれば大丈夫だろうけど、突然夜逃げみたいにいなくなったりしないとも限らない。いや、犯罪者になる予定はないけど。
「どこか長期滞在する場所ができたら手紙送るよ」
「待ってる。わたしはセディフから出る予定ないし」
「魔道具士として頑張ってるんだよね。どんな感じ?」
「そうだねぇ」
一年ぶりの親友との再会。一年は短いようで長い。私たちの会話は尽きることなく続いていく。楽しい。最近こういう時間は減っていたから、なんだか癒される。
その日はずっとライラと遊んだ。日が暮れるまで話し込んでも足らないくらいだった。
明日は、ライラは工場でお仕事だけど、ガストンさんが工場見学に来てもいいって言ってたと告げられる。
いいね、ライラの仕事姿も見られるし、魔道具を作っているところを見られるかもしれない。
ライラ的には恥ずかしいので来ないでほしいみたいだけど、是非見に行かせてもらおう。




