第63話 再戦
学校を卒業してから一年が過ぎた。
相も変わらず修行は続けている。最近魔道袋の新しいものを買ったので、持ち運べる量が増えた。
悩んだ末に結局、今まで使っていた魔道袋と同じように、入口よりも大きなものが入れられるタイプのものにした。
容量も今までのものよりも増えたので、もっとたくさんのものが入れられるようになった。
おかげで『魔物の沼』付近に居続ける時間も増え、修行も捗る。
そしてたまにガリナに戻ってみたら、またエルフたちから手紙が来ていた。
「まだ中央大陸かあ」
どうやら未だに問題は解決していないらしい。一年以内に移動ができないかもしれないと書かれている。
一体何をしているんだろう。そうなると、ひとまず向かう先は中央大陸になるのかな。
「最近あそこでの修行も飽きてきたんだよね……」
『魔物の沼』から比較的近いあそこは、魔物を探しに行かずともすぐに出会えるほど多い。修行場としてはとてもいいのだが、最近は同じ魔物ばかりで飽きてきた。
何事も楽しくないのは良くない。それに、手応えも減ってきた。
新しい場所を探して……とかするよりも、いっそ旅に出てしまった方が修行になると思うんだよねえ。
「別に旅に出てもいいかな。父に勝てば許可は下りるわけだし」
どうしても成人してからじゃなきゃダメってわけじゃないし。ないよね? 別にいつ行こうとも私の自由だ。もちろん父には勝ってから行くけれど。
どちらにせよ、まずは父に勝てなきゃ始まらない。
近々チャレンジしてみるかな。今の私で勝てなきゃ正直見込みがないと思うけど。
魔法の使えないお父さんは剣一本でCランクまで上り詰めた。お父さんの剣術は言わば努力と勝利の結晶だ。
それを相手に、私みたいな高々数年程度の剣術で勝てって言うのも……だいぶんムリだなぁ? 勝たせる気あるのかな?
しかも魔法禁止って……これで魔道具まで禁止されてたら絶対勝てない気がする。存分に魔道具を使ってやろう。
「よし、早速準備をしよう。装備を整えたら父にチャレンジだ」
たった数年の努力で父の今までの積み重ねを超えるのは至難の業だけど、父より強くならないと、安心して送り出せないよね。
私のためにも両親のためにも、負けるわけにはいかない。
「久しぶりだね。勝てる見込みができたのかな?」
「いろいろ頑張ってはみたよ」
外で父と木剣を構えて対峙する。
長期戦は不利だ。やるなら速攻。新しい力に適応される前に倒す。
やることはいつもと変わらない。絶対に勝つ!
「いくよ」
「いつでもおいで」
脚に魔力を通し、急接近。正面ではなく、横にずれるようにしながら腹に一突き。
父は半歩位置をずらし、最小限の動きで避ける。でも想定内だ。
ここで躱されたまま行き過ぎた片足に力を込め、地面を思い切り踏み抜く!
ドゴォォン!!
ギリギリまで魔力を込めた脚で地面を踏めば、割れる。父がバランスを崩すのが見えた。
そのままその脚を軸に回転しながら剣を振り回す。
「ぐ、う!」
避けられた! 微かにしゃがんだ父の頭上を剣が通り過ぎる。
まだ! 反対側の足に重心を移し、追撃する。
下から父の剣が近づいてくるが、バランスが悪いせいか、力が入っているようには見えない。
これなら押せる! 腕の魔道具に全力で魔力を込め、思いっきり振り下ろした。
バキィン
父と私の木剣がぶつかり合い、共に砕けた。
驚いている父を――思いっきり蹴り飛ばした。
「がは!」
防具の上からだから、そんなにダメージはないはずだ。それでも数メートルは吹っ飛んだが。
「お父さんが参ったって言うまでやめない」
そういいながら脚を使って再度接近、殴り合いに移行しようとして……。
「ま、参った!」
父が負けを認めた。
「いやぁ……びっくりしたよ。身体強化の魔道具かい?」
「そうだよ。作ったの」
脚のは直接刻んであるけどね。腕は自作だから嘘ではない。
「すごいなリアは……うん。負けたよ」
「……いいの?」
正直、技術というよりも力業のゴリ押しでしかなかった。あの時木剣が割れてなかったら勝てていたかもわからない。
それに父的には、私と殴り合いはできなかったのかもしれない。結局、父は過保護なんだもの。
まあ正面から切り結んで勝てるわけがない、という判断の元に取った行動だけど。剣術だけで勝つ? 無茶言うな。
「いいんだよ。力も技術もちゃんとあるってわかってるから」
そう言いながら、父は私の頭を撫でる。ゴツゴツした硬くて大きな手だ、この人がたくさん努力してきた証。
「行っておいで。広い世界をたくさん見ておいで。でも、たまには大きくなった姿を見せに帰って来てくれよ? 僕もお母さんも寂しいからね」
「お父さん……」
父が、私を認めてくれた。ああ、ダメだ。ここは泣くところじゃない。
父にキチンと向き直り、目を見つめる。
「――うん。ありがとう、お父さん」
偉大な父が安心して送り出せるように、堂々としていよう。
あの後、二人で家に帰って母に父との試合に勝ったことを告げた。
母は優しく微笑んで、私のことを抱きしめながら「頑張ったわね」と褒めてくれた。涙腺が緩むのをひたすら我慢しながら、母にもお礼を言った。
この素晴らしい両親の下に生まれてきたことはきっと、途轍もない幸福なのだと思う。
ここを選んでくれた女神様に、心から感謝しよう。




