第60話 強くなる
「ここが禁足地、のちょっと手前ね」
王都の北。『魔物の沼』がある禁足区域のすぐ近くにやってきた。
この辺りはまだ草木が生えているけれど、禁足地の奥まで行くと荒れ地のようになっているらしい。ここからではわからないけど。
そんな場所に何をしに来たかというと。
「いるねいるねー」
聞こえるのは魔物の唸り声。危機察知に反応する敵意。
私はここに、修行をしにきたのだ。
「うーん。いろんなのがいますね。ジャイアントベアーやビッグボアなんかも、ここから生まれてるのかな」
熊とか猪とか、他にもあの豚もいる。そのうち蛇も出てくるかな。
すでに私に狙いをつけている魔物もいる。私も剣を構えて臨戦態勢になる。
「ここで生き残れなければいつまでも弱いままだよね」
やれるだけの準備はしてきた。
欲しいのは強さ。そのためにはひたすらに実戦あるのみ!
「頑張れ、ね」
言われた通り、頑張って見せましょう。
誰にも負けないくらい強くなってやる!
「まだまだぁ!」
たくさんの魔物を次から次へと倒していく。
この修行のためによく斬れる剣を買い、火の中級杖を買い、一応よく斬れるナイフを買って、一人でここまで来た。さすがに魔法剣ではないけど。
ようやく手に入れた切れ味の良い片手剣。昔苦労していたジャイアントベアーが簡単に斬れる。重くなくて、回避行動が楽にできる。
これなら杖と一緒に持っていてもなんとかなる。すごい。やっぱり私にはこっちの方がいいらしい。
危機察知を使い攻撃を避ける、避ける、避ける。蛇革の防具もいい仕事をしてくれる。
右手に杖を持ち、左手にナイフを持って、燃やし、切り裂き、突き刺す。
剣を握り、ひたすらに斬り続け、脚の強化で蹴り殺す。
もちろん、そう上手くいくものでもない。でもこんなところで死ぬわけにはいかない。
だから帰りの体力は残しておいて、疲れが出る前に撤退する。魔道袋がいっぱいになっても撤退する。安全第一……とまではいかないが、まあ無難なところだろう。
こんなことを続けてすでに数カ月経っている。修行を始める前に比べたら確実に強くなっていると思う。
最初の内は結構ボコボコにされたけど、今はもうかすり傷程度だ。生きてるの結構奇跡なんじゃないかと思う時はある。
ただ依頼をあまり受けていないので、ギルドの評価にはなっていない。魔物をいくら倒しても、あまり評価には繋がらないようだ。おかげでランクは未だにEのまま。
たまにはガリナに戻って両親にも会いに行く。そうじゃないと心配されてしまう。
さすがにここで修行をしているなんて伝えていない。だから最低でも一週間に一回は帰るようにしている。走ればすぐだからね。
強くはなっているはずだけど、父に勝てるくらいになったかはわからない。
最初に戦って以来一度も戦っていないのは、手の内を見せるのは勝つときと決めているからだ。
手の内をさらけ出して負けてしまえば後がなくなる。次に戦ったときに決める、だからここでの修行を終えるまでは父とは戦わない。
「ふぅー。今日は帰るか」
魔道袋がいっぱいになってしまった。
体力が増えてきたのか、単純にここの魔物に慣れたのか、疲れで戻るよりも魔道袋がいっぱいになって帰る方が増えてきた。
倒した魔物で高く売れそうなものだけを魔道袋にいれているから、お金もたくさん手に入れた。
そろそろもう一つ魔道袋を買ってもいいかもしれない。そっちは日用品をいれて、今使っているのを魔物用にしようかな。
日用品なら袋の入口よりも小さいものばかりだろうし、高価な魔道袋じゃなくてもいいかもね。
「リアさん、Dランク昇格試験を受けることができますが、どうしますか?」
修行を続けて数カ月。思っていたよりも早く昇格試験を受けられることになった。ちなみにここは王都の冒険者ギルドだ。
この前お世話になった受付嬢――テグラさんというらしい――にいつものように魔物を売りに来たら、昇格試験の話をされる。
修行で狩った魔物はほとんどここのギルドに売っているから、すっかり顔なじみだ。
「受けるけど。早いね」
「依頼もそれなりに受けてますけど、それ以上に持ってくる魔物がすごく多い上に強いものが多いので……そういうのも加味した結果だそうです」
つまり修行も評価の内に入ったと。それは助かる。Dランクはまだ遠いと思っていたからね。
「すぐに受けられるの?」
「受けられますが、お疲れでは?」
「平気」
今さっき大量の魔物を売りに出したばかりだ。心配されるのは当然だけど、まだ体力はある。さっさと受けてしまおう。
この状態でも勝てないなら私はまだ弱いというだけだ。明日からまた頑張ればいい。
そんなわけで試験会場まで案内してもらう。どうやら近くにある訓練場で行うらしい。
中に入ると訓練場を使っていたらしい冒険者がちらほらといる。
しばらく待てと言われたので、他の冒険者の戦い方をぼんやりと見ていたら、身長が二メートルくらいありそうな大男が訓練場に入って来た。
「元Cランク冒険者のウェイドだ。試験を受けるのはお前さんだな」
「リアです。よろしくお願いします」
ウェイドとかいうこの大男が試験官のようだ。
体格が上にも横にもデカイ。硬そうな鎧の防具をつけ、背中にはデカイ剣を背負っている。あれ使うのかな。
周りの冒険者たちが訓練場から出ていく気配はない。こちらを見ているようだし、どうやら観客付きらしい。
まあ気にしても仕方ない。見たければ見ればいい。
「ルールは殺さないこと。それ以外なら何しても構わん」
つまり魔法も魔道具も使っていいってことか。
それならこのまま行かせてもらおう。修行の成果が対人戦でも発揮できるか確かめるのに丁度いい、全力でやろう。
「いつでもこい!」
ウェイドさんが背中の大剣を構えて、試験が開始された。
もう60話です。前作の最終話と並びました。
この作品はまだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします。
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