第59話 ハードな毎日<エルシーナ視点>
今話はエルシーナ視点です。
「疲れた……」
「こうも連日戦い続けると……さすがに堪えますね」
「全くだ。一体いつになったらここから出られるやら」
宿の自室でぐったりしながら呟く。
夕食も食べたし、お風呂も入った。あとは寝るだけだけど、愚痴ぐらいこぼしてからでもいいと思うの。
「ここに来てもう半年以上……まだ活性化は治まらないの?」
「今日の様子を見た限り、まだまだ先と思わざるを得んな」
セレニアが冷静に分析する。気休めでもいいから、もう少しと言って欲しかった。
わたしたちは今、中央大陸のアシュミードという街に滞在している。
理由はこの街から少し離れた場所にある、『魔物の海』が活性化しているからだ。
何年かに一度、『魔物の沼』や『魔物の海』が活性化することがある。
普段よりも魔物が多く這い出てきたり、強い魔物が現れたり。つまりスタンピードが起こる。
『海』が活性化するととても大変で、普段から結構な数の魔物が生まれているのに、さらに増える。
一匹一匹は――普段から大した魔物が生まれていなければ――問題ない強さだ。でも活性化が治まるまで魔物を討伐し続けないと、すぐに大陸中に魔物が溢れかえる。
正直かなりしんどいけど、Cランク以上の冒険者はこの活性化が起きた際に近くにいた場合は、ほぼ必ず参戦するように言われている。
東大陸から南大陸行きの船に乗る時にCランクだとバレてしまい、中央大陸に向かうように言われてしまった。
混乱を避けるため情報統制されているせいで、一般人や別大陸の下位ランクの冒険者には事情を話せない。
そのせいでリアに出した手紙には中央大陸で足止めを食らっているとしか伝えられていない。
「これリアが来るまでに終わるかな」
「どうだろうな。『沼』や『海』の活性化は魔物の量産か、強力な魔物が生み出されるかの二通りだ。今回は前者で、この場合は収束まで時間がかかる」
わたしたちが中央大陸に来るより前からこの活性化は起きていて、もう最初に魔物の増加が確認されてから一年半くらい経っている。
それでもまだ魔物は増え続けている。さすがに長すぎないだろうか。
「活性化が終わっても増え続けた魔物を少し間引く必要があるかもしれん。それを含めるとまだまだかかる」
「『海』は大きいですから、今いる冒険者だけでは囲みきれないんですよね。そのせいで撃ち漏らしが出ていますし。余計に時間がかかっている気がします」
セレニアとクラリッサの言葉を聞いて更に気落ちする。ずっと戦場にいるなんて気が滅入る!
「はあ……もう自分が血生臭い気がする」
「ここにいればみんなそうなる」
もうなんで『魔物の海』なんてあるんだろ。塞ぐ方法ないのかな。邪神の力の一部なんだっけ?
女神様もう一度封印してくれないかな。
リアに会いたいなー。早く会いに来てくれないかな。
離れている時間も彼女のことをよく考える。やっぱりわたしはリアのことが好きなんだなぁ。
エルフの国でのわたしの扱いに心を痛めた彼女は、わたしのことを素敵な人だと、そんなわたしを好きだと言ってくれた。
あれはきっと彼女なりの慰めだったんだろう。あんな風に言ってもらえたのは初めてで、本当に嬉しくて、思わず抱き着いてしまったくらいだ。
最初は一目惚れだったのに、あの瞬間に心から好きになってしまった。
リアだって、素敵な人だって伝えてあげればよかったな。ああもう、考えれば考えるほど会いたくなっちゃう。
別れ際に少しでもわたしのことを想ってくれるように手を握ったりしてみたけど、何か変わってくれたかな。
でも彼女は恋愛をする気が無いようで、好意を生理的に受け付けられないと前に言っていた。
正直どうすれば恋人になれるのかわからない。でも男性限定でダメの可能性もあるし、同性のわたしならそんなに悲観的にならなくてもいい……と、思いたい。
悩んだ結果、わたしからは好意を伝えずに、わたしのことを好きになってもらえればいいんじゃないかと思って、いろいろ作戦を考えている。
気の長い話になりそうだけど、一番安全かなと思う。
まずは共通の趣味でも考えておきたいけど、今のこの状況は趣味をするよりも休息を取りたいくらいには忙しい。
リアと合流するまでにここでの仕事が終わってくれればいいけど。
「リアさんからお手紙が届きましたよ」
「本当!?」
リアに手紙を送って数カ月。どうやら無事に手紙は届き、返事も問題なくわたしたちに届いた。
「なんだって?」
「ちょっと待ってくださいね……」
クラリッサが手紙を読む。わたしにも見せて!
「無事に学校を卒業したそうですね。冒険者ランクも上がっているそうです。旅に出ることは条件付きで了承を得たみたいですね」
「条件?」
読み終わったらしい手紙をクラリッサから受け取る。ふんふん、なるほどね。
読み終わった手紙をセレニアに渡す。
「Cランクの父親に勝ったら旅に出れる、ね……結構な無茶じゃない?」
「でもそれくらいの強さがないと、ここではやっていけませんよ」
「それはそうだけど……」
今、中央大陸は魔物の巣窟だ。中途半端な強さでは足をすくわれるかもしれない。
確かにCランク以上の実力をつけてきてくれるなら安心だけど。
「向こうもおそらく、こちらで何かが起きていることはわかっているだろう。それに、強くなれと発破をかけたのはこちらだ。それくらい軽くこなしてきてくれなければ困る」
「厳しいね……無茶はしないでいてほしいよ」
送った手紙に頑張れと書いたのは事実だ。
でも可愛いあの子は少し無茶をしたがる傾向があるように思える。無事にここまで来てくれればいいけど。
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