第56話 無一文脱出!
次の日のお昼頃までガッツリ寝てしまった。
「うーん、こういうとき一人だと不便というか、助けてもらえないのって寂しいね」
眠くなったら担いでもらう……のはさすがにどうなんだろう。そこまで甘えるつもりはないけど。そもそも眠くなるまで無理はしないものなのかもしれない。
あのエルフ三人はどうしているかな。
王都を発ったのが五ヶ月ほど前、私の卒業を待ってから更に余裕をもって手紙を出すとしたら……そろそろ届くころだろうか。
ガリナに送るように言ったはずだから、届いているかはガリナに行かないとわからないな。
「でもまあ、向かうには早すぎるけど」
キッチリ強くなってから向かう。せめてあの蛇を軽く倒せるくらいにならないとね。じゃないと足手まといなんだから。頑張ろう。
昨日の蛇の解体は終わっただろうか。
適当に身だしなみを整えて、部屋を出る。眠かったからここまでどうやって来たか覚えてないな。
「あ、起きましたか」
「おはようございます」
歩き回っていいものなのかと悩んでいたら、昨日の受付嬢さんが来てくれた。タイミングがいいね。
この人、前にも話したことある気がするなぁ。『魔物の沼』について教えてくれた人かな?
「蛇の解体終わりました?」
「終わりましたよ。ギルマスが詳しく聞きたいことがあるそうなので、こちらにどうぞ」
聞きたいこと? 蛇に関してかな。そうは言っても話せるような情報なんて特に持ってないけどなぁ。
「来たか」
案内された部屋は執務室か何かだろうか。書類がいろいろ散乱してるけど、よくここに呼ぶ気になったな。ギルマスって事務仕事ばっかりなのかな。
「寝床貸してくれてありがとうございました」
「ああ。それで、聞きたいことがあるんだが、ウッドサーペントと出会った時の状況を教えてくれ」
教えてくれって言われてもな。ゴブリン退治に行ったら妙に数が多くて、山奥に入って行ったら蛇がいたってくらいだ。
「そうか……まあいい。詳しくはこちらでも調査隊を派遣してみよう。ご苦労だったな」
「あの蛇ってあの辺にはいないものなんですか?」
調査隊を派遣って、そんな大事なのかな?
「そうだな。今まで報告されたことはない。念のため付近に『沼』が発生していないか確認をするんだ」
『魔物の沼』っていうのはおおよそ、山の近くなら陸上の魔物、水辺が近ければ水生の魔物が生まれることが多い。
一つの『沼』からウルフ系やベア系などが生まれることもあれば、鳥系だけが生まれる『沼』もある。なので、その『沼』の付近で見かける魔物はある程度決まっていることが多い。
あの辺に蛇は見かけたことがなかったらしいので、遠くから移動をしてきたのか、すぐ近くに『沼』が新しくできてしまったのか、確認をしておかないと危険ってことだ。
ちなみに普通の生物みたいに雄と雌がいて、番になって子供を産む魔物もいるそうなので、全部の魔物が『沼』産というわけでもない。
「解体した蛇が倉庫に保管されている。念のため確認してから売りに出すか決めてくれ」
別にいらないけど……大きな蛇だったし、魔石も大きいのかな? それくらいは見ておこうかな。
受付嬢に昨日の倉庫に案内してもらう。倉庫に着き、昨日のケイブとかいうおっさんに解体した蛇を見せてもらう。
大きな蛇だっただけに、肉も皮も魔石もそれなりの量だ。
でも頭部は私が傷つけたから、見た目はあんまり良くないね。
「結構な量ですね。この蛇の肉って食べられるんですか?」
「食えるぞ」
蛇肉って前世でも食べられていたし、そんなにおかしくはないか。食べたことは無いけど。
「そういえば豚が入ってませんでした?」
「ああ。ほとんど消化されてなかったから、一応解体しておいたが」
それだ、と指差された方を見ると、蛇肉に隠れて少しの肉と魔石があるのが見えた。
蛇が丸呑みした豚……どうなの? 食べられるの? 一応消化されていた部分はそぎ落とされているみたいだけど、私的には微妙。
「豚の肉も蛇の肉も高級品だぞ」
そうなの!? そんなにお金になる魔物だったのか。
うわー、豚も蛇にやらずに私が狩っていればもっと大金になっただろうに……。
いや、もう一度あそこに行けば会えるのでは……?
今回の報酬金がいくらになったかで考えよう。
「これ全部でいくらになりますか?」
「結構な額だろうが、詳しくは受付で聞いてくれ。これ全部売るってことでいいのか?」
どうしようかな……何か自分で使える部位はあるかな。肉を両親のお土産に持って帰る?
でもそうするとすぐにガリナまで帰らないと。保存方法がないし。
高級品っていうからには食べてみたいけど、こっちの世界に来てから料理はほとんどしたことないし。そもそも場所もね。お店に持ち込んだら調理してくれるのかな。
この蛇の皮は……そういえば硬かったな。
「この皮って何に使えるんですか?」
「ウッドサーペントの皮は硬いのに柔軟性があるし、見た目も良い。防具にも装飾品にもなるぞ」
前世でも蛇革の財布とかあったな。そういうのになるのか。
それよりも防具だ。自分用に少しもらっておこうかな。頑丈そうだし、術式を刻めるかもしれない。
少なくとも今身に着けているものよりは良い物だろう。
「肉を持ち込んだら調理してくれるお店とかあります?」
「あるぞ。そういう店は冒険者には人気だ」
それもそうか。絶対需要あると思うし。じゃあ肉と皮を貰っていくか。
魔石は蛇が土の魔石で豚が……赤い魔石? 火の魔石なのか。ていうか、あの豚ってちゃんと魔物だったのね。
土の魔石は使い道がなぁ。陶芸や畑仕事とかやるなら使えるかもしれないけど、さすがにやらないし。火なら貰っていってもいいかも。サイズも大きいから何かに使えそうだ。
「蛇の肉と皮、それから豚の肉を少しずつ、あと豚の魔石を貰っていきます。他はお金にしてください」
肉と皮と魔石を受け取り、いつもの受付のところまで戻って来て、しばらく待った。
報酬と蛇と豚はいくらになっただろうか。杖を買った分が戻ってきたら嬉しいな。お金入ったら今度こそ剣を買おう。蛇が斬れるくらい切れ味の良い物を探そう。
いっそのこと切れ味の上がる魔法剣でもいい。
自分でも作れなくはないけど、剣に術式を刻むのは難しいのだ。削ればその分脆くなるし、術式を刻んだ分、刀身にかかる負荷が大きくて少し使ったら折れたりね。
ああいうのは技術がいる。今の私には難しい。
挑戦するにしても、今持ってる剣では術式を刻むのはおそらく無理だろう。もう少し硬い金属の剣じゃないと。ただその分重くなることが多いから軽減の術式も入れないといけないし、難しいなぁ。
そもそも硬い刀身を削る道具がないんだけどね。魔法剣はまた今度かな。
それ以前に無一文からどれくらい所持金が増えるかだけど。
「リアさん、お待たせしました。こちらが依頼報酬と魔物の買取金額です。解体費用は差し引いてあります」
受付嬢がお金を持ってきた。
おおお! このズシっとくる重さ! ジャラジャラとした音! お金だ! 袋に入れられた金貨の山!
周りから見えない場所で一枚一枚確認をする。この作業の時間は至福……。
提示された金額分がキチンとあることを確認して受付嬢にお礼を言う。この人ずっと目の前にいた。ごめんよ遅くて。
それにしてもこんなに大金になるなんて。前世ならそこそこの宝くじの二等くらいの金額ですよ。小心者には大金だ!
「蛇ってこんなに高いんですか?」
「蛇の革は貴族が高く買い取ることが多いので、これくらいしますよ」
前世でも蛇革って高かった気がするな。何が良いのかはよくわかんないけど、私はお金さえ貰えればそれでいい。また見つけたら積極的に狩ろう。




