第51話 護衛依頼完了
「終わったよ」
残りは……と、見回していたら、フィンレーに声をかけられる。どうやら残りは倒してくれたようだ。危機察知にも反応はない。
最初に感じた悪意の数は殺したはずだから、生き残りはいないと思う。
いたとしても馬車を連れて探しに行くわけにもいかないし、放っておこう。
「ケガは?」
「ボクはないよ」
「オレもない」
フィンレーとレオの身体をざっと眺めるが、汚れているだけでケガは見当たらない。まさか無傷とは。この二人、意外と強いんだね。
「それは良かった。馬車の人たちに知らせてこよう」
この死体の山をどうしたらいいのかも聞かないとね。
馬車まで行って御者に伝える。どうやら乗客全員目を覚ましていたようだ。大層感謝された。
盗賊は首だけ持って行って、胴体は埋めるなりしてほしいとのこと。首を入れるための袋をもらい、後処理をしていく。
死体というのは見ていて気持ちのいいものではない。レオもフィンレーも無言だ。雨のおかげで血が洗い流されて助かる。
もらった袋に首を入れ、まとめて魔道袋へ。私のではなく御者のだ。武器や持ち物を回収して残りを埋める。疲れたな。
その頃には朝日が昇っていて、いつでも移動できるという。雨はまだ降っているが、移動を開始した。
昼間は交代で休むことになり、荷台で少し眠った。
初めて人を殺したから目がさえて眠れない……なんてことはなく、身体は正直らしい。疲れていたからすぐに眠ってしまった。
目が覚めた頃には雨も上がっていた。でも今日中に王都に着けるかはわからないそうだ。雨で道程が遅れていたから仕方ないか。
「今思えば、一人くらい生け捕りにして他に仲間がいないかとか確認するべきだったね」
睡眠不足と深夜テンションと初めての人殺しで正常な判断ができていなかったのかもしれない。
今は少し寝たからか、頭が冷静になった。三人とも休んだ後、先ほどの盗賊退治の反省会だ。
「そうだね。あれくらいの盗賊なら生け捕りもできたかもしれない」
「でも、危険だろ。不意打ちで魔法を撃たれたらマズイし」
相手の無力化というのは大変だ。
両手両足の骨を折れば安全かもしれないが、そこまでやるまでに自分がどれだけ危険な目に遭うか。それならさっさと首の骨を折るなり、剣を突き刺すなりした方が早いし楽だ。
慣れないうちからそんなことするもんじゃないし、今回の結果は仕方がない。
むしろ無傷で勝てたのだし、上々だろう。欲張りすぎるのは良くない。
「そういえば、あんまり援護らしいことしなかったな。二人を放って他の敵に向かって行った気がする」
「確かにな」
「いやでもそれを援護と……いうのかな?」
「うーん、なんか違う気がするような。後衛は向いてないのかもなぁ」
倒した数も私の方が多いし、援護というよりはメイン戦闘してましたっていった方が正しいような。
でも目の前の敵を横からかすめ取るのも違う気がするよね。そうなると他の敵に向かうことになるし……どうなんだろう?
二人から離れ過ぎないで他の敵と戦うとか? 足止めだけしてとどめを任せるとか? でも魔法使いがいたしなぁ。援護って難しいな。
「そういやよく盗賊に気が付いたよな。あの雨ん中で」
「ああ……まあ、そういうのは得意だから」
女神様がくれた力のおかげだけど。雨の中でも正常に反応してくれるなんて素晴らしいよね。
唯一の弱点はイネスターフライだけかもしれない。何か対策を考えておかないと。
そういえばあの時セレニアに何か飲まされたな……解毒薬とかかな。次に会った時に聞いておこう。
コツを教えてくれ! とか二人に言われたけど、無理なので適当に濁しておいた。
王都に着いたのはその日の夜だった。夜中に着くのもどうなのかって話もあったけど、盗賊にまた襲われたら嫌だからね。みんなさっさと街の中に入りたいようだった。
私たちも正直安全な場所で休みたかったので、それに同意した。
王都の門番に盗賊のことを告げ、騎士の待機所で首を確認。
いろいろ話を聞かれたけど、大した話はなくすぐに解放された。護衛依頼に盗賊退治の報酬が上乗せされてラッキーってくらいだね。
門番さんに宿について聞いて、いくつか候補があったので向かってみると、全然空いてない。
時間が時間だけに仕方ないけど、ここまで来て野宿はごめんだ。
必死に探し回り、少し高いけど安全そうな宿の三人部屋が空いていた。
「もうここでいいよ……ねむい」
「リアがいいならいいよ。ここにしようか」
「そうだな。三人とも部屋に入った途端に寝そうだし」
満場一致でこの宿に決まり、ベッドに入ってそのまま寝た。昼間に少し寝たとはいえ、さすがに疲れた。護衛依頼ってキツイなぁ……。
次の日、だいぶ日が昇ってから目が覚める。どうやら随分と長く寝ていたようだ。
レオとフィンレーはまだ寝ているようだ。二人は初めてガリナから出たようだから、その分心労があるんだろう。起こさずに寝かせておこう。
とりあえず、風呂だ。どうやらこの宿にはお風呂があるそうなので、利用させてもらおう。
前世でお風呂に入らなかった日なんて一度もないのだ。
特別綺麗好きだったわけではないけど、風邪をひこうが熱があろうが注射を打とうがお風呂に入ることを欠かしたことなど一度もない。お風呂大事。清潔が一番!
だから野営とかで一番キツイのはお風呂に入れないことだ。せめてシャワーだけでも浴びたい。持ち運べるシャワー室とかないかね。
髪もハチミツで保湿だ。雨に濡れたから質感がよくない。着替えもお風呂用品も魔道袋に入っている。なんて便利なんだろうか。もう手放せないね。
お風呂から出て思う。ドライヤーってないのかね、この世界。見たことないんだけど。
風と火の術式で作れるだろうし、探せばあるのかな。作られてないってことはなさそうだけど……もしかしたら貴族の嗜好品なのかも。複数属性の術式を使うと、その分使う魔石の数が増えるからね。値段も上がる。
髪の毛乾かすだけならタオルでいいから平民には縁がないのかもしれない。わざわざ買う必要はないし、今度手作りしてみようかな。
さっぱりして部屋に戻ると、二人とも起きていた。
「起きたの。おはよう」
多少生乾きの髪を拭きながら挨拶をすると、何故かフィンレーから目をそらされた。何?
「どうしたの?」
「……ううん。何でもないよ。おはよう」
もしかして変な恰好だっただろうか。長袖長ズボンだし普通だと思うんだけど。
「風呂があんのかこの宿」
「あるよ。入ってきたら?」
くさいし、とはさすがに言わないけど、雨に打たれた後の生乾きの臭いがするから。
「おっし、入ってくる」
「二人でも入れる広さ?」
「大丈夫じゃないかな」
男湯と女湯で別れていたからわかんないけど、男湯だけ狭いなんてことはないだろう。二人くらいなら入れる。今の時間に入る人いないし。
「その前に今日の予定どうする? 宿は明日まで払ってあるんだよね?」
「自由行動でいいんじゃねーか? もうすぐ昼だしな」
「王都を見て回ってみたいしね」
「わかった」
確かに今からできることなんて観光くらいだろう。私も自由に過ごそう。
お腹空いてきたし、食べ歩きにでも行こうかな。




