第5話 お友達を作りましょう
その日から毎日、体内にある魔力を探り、思い通りに動かす訓練を始めた。といっても、数日もしないうちに手のひらまで持っていくことができたけど。
でも折角なので、全身に行き渡らせることができるか試している。手のひらで止めず、指先まで。
目、耳、脳まで行き渡らせられればきっと、できることが増えるはずだ。
手のひらまで魔力を流せるようになったと父に告げたら、またサイラスさんと会う機会を作ってくれるという。ありがたい。
「お父さんって剣を使って戦うの?」
「ん? ああ、そうだよ」
ある日、父が剣の手入れをしているのを見て尋ねてみた。何の素材で出来ているかとか全然わからないけど、綺麗な剣だと思う。
いつも丁寧に手入れをしているし、とっても大事なものなんだろうな。
それにしても剣かぁ……。
「おとうさん。私に戦い方を教えて」
「……大事な娘にそんな危険なことをさせるわけにはいかない」
私のお願いに驚いた父だったが、すぐに真剣な表情で断られた。正直予想してた。
「リアは何にでも興味を持つね」
そう言いながら剣を片付け私に近づき、優しく頭を撫でた。
「リアはきっと、大人になったら何にでもなれる。才能がある。向上心もある。そして僕……僕とハンナで学ぶための環境を作ることも、物にはよるだろうけど、できるだろう」
我が家は裕福だ。毎日食事を取れるし、お風呂にだって入れる。服だって買えるし、温かい布団で眠ることもできる。
これはお父さんが冒険者として、お母さんが近所の商店で雇ってもらえて、毎日頑張ってくれているからだ。
「リアが望むなら、なんだって用意してあげたい。でもね、危ないことはしてほしくないんだ。冒険者をしている僕が言っても説得力がないけど……それでも、大事な娘を危険な目に遭わせたくない」
父の言いたいことも、思いもちゃんとわかってる。
でも。
「リアはまだ六歳だ。もう少し子供らしく遊んでいておくれ」
「……はぁい」
頭を撫でていた手を離し、父は部屋から出て行った。
うーん、仕方ないか。別に焦るようなことでもない。でも私はいつか、この家を出ていくだろう。その時に戦う力は必須なんだ。
もう少し大きくなれば、お父さんも納得してくれるかな。
サイラスさんと会う日は決まったけど、まだ遠い。
魔力操作の訓練はしているけど、まだ全身に行き渡らせるに至っていない。
でも胸から手のひらまでを循環させることはできる。今度はこれを動き回りながらできるようになるために訓練しようと思う。
前衛のいるパーティの魔法使いだって、後ろでずっと突っ立ったままってわけでもないでしょう。多少は動きながら魔法が使えないとね。
そんなわけで、今日は散歩を兼ねて街を一人で歩いてみる。
実は今まで一人で街を出歩く許可はもらえていなかったのだが、この度ようやく許可が下りました!
今まで父か母のどちらかと一緒だったから好きに見て回れなかったけど、今日はこの街を探索できる! 時刻はすでにお昼を過ぎているけどね!
「いってきまーす!」
「気を付けてね。危ないところには行かないように。暗くなる前に帰ってきなさい」
「わかってるよ!」
母に挨拶して家を飛び出す。ちなみに父はすでに仕事に行った。
父は仕事に行くまでずっと私に注意事項を繰り返し言い聞かせていたので、耳にタコができそうだった。
「結構大きな街だよねぇ」
人も建物も多い通りまで歩く。木造建築の家もあれば、石造りの建物もある。人間種が一番多いけど、エルフやドワーフらしき人の姿も少し見かける。
エルフって美形が多いってイメージあるけど、本当だね。というか、この世界は全体的に顔面偏差値が割と高めな気がする。
父も母も美形であるため、その娘の私ももちろん美少女である。
いやもうね、本当に美少女なのよ。ちゃんと自分の顔を見たときびっくりしたもん。薄い青みがかった銀髪、クリっとした大きな瞳、これでもかってくらいにバランスの取れたパーツは一種の芸術品のようで。
母がとっても可愛らしい美人さんだから、その母によく似た顔立ちの私はやっぱり美少女でした。父が過保護になるのも仕方ないのかも。
「いい……美人が多い……異世界すごい……」
街を出歩くだけで幸せである。だって美女がたくさんいるんだもの。異世界転生最高。
今の私の表情はだいぶんアレな気がするけれど。ニヤニヤするのを抑えられない。
「早く大人になりたいなー」
大人になったら世界中の美女に会いに行こう。そのためならば旅に出るのもやぶさかではない。
「やっぱりお父さんに戦い方を教えてもらわないとね」
弱いままじゃ、欲しいものは手に入らないかもしれないしね。
理由が不純だって? いいんだよ、これが私の幸福なんだから。
しばらく街中を歩き回っていると、広場にたどり着いた。遊具があるわけではないけど、公園みたいなものかな。ここは子供の遊び場でもあるのだ。
ふふん、何を隠そう私、年の近いお友達がいないのである。前世の年齢的にはね? むしろ父や母の方が近いけどね?
でも生まれ変わったわけだし、ちゃんと年の近いお友達の一人や二人作らないとね。子供に交じって遊ぶのだって結構楽しいし。むしろ大人っぽく子供の相手をするよりも、子供みたいに一緒に遊びまわるほうが得意なのだ。
「うーん……友達ってどうやって作るんだろう」
ぶっちゃけ大学ではほとんどボッチだったからな……いや、いなかったわけじゃないのよ。少なかっただけで。でも友達なんてどうやって作ったらいいのか。
とりあえず、年の近そうな子たちを探してみよう。
ここには親子連れやら仕事の休憩中の大人やらもいるんだけど、私くらいの年の子で、子供だけで遊んでいる子たちって少ないのよね。
「んー……あ、はっけーん」
男の子二人、女の子二人の四人グループが円を作るようにしゃがみ込んで何かをしているみたいだ。年も近そうだし、混ぜてもらえないか聞いてみよう。
「ねー。何してるの?」
声をかけながら近づくと、その子たちが私に気が付いた。すると、彼らの中心から「ニャーン」という声が聞こえた。
「あ」
猫がいる。前世の猫とほとんど変わりのない普通の猫だ。
「ネコがいるのー。かわいいよー」
「さわらせてくれるから、さわってみる?」
「いいの? さわりたい!」
女の子二人が声をかけてくれる。どうやら四人で猫を囲っていたようだ。
少しスペースを空けてもらい、猫に近づく。
生まれてから何年も経っているのだろう、それなりの大きさの成猫だ。これだけ囲まれても逃げ出さないなんて、人慣れした猫だなあ。
「かわいい~」
「かわいいよね!」
「たまにこの近くでおひるねしてるみたいなの! 今日はさわれたから運がいいの!」
女の子同士でキャーキャー言いながら猫の頭を撫でる。嬉しそうにスリスリしてくるので、めちゃくちゃ可愛い。前世からの猫好きな私にとって最高の時間である。
「女ってそういうのすきだよなー」
「なによー。レオだってさわってたじゃない」
「まあまあ、ネコはかわいいからだれでもさわりたくなるよ」
「かわいい……」
大人ぶる茶髪の男の子、それに言い返す茶髪ポニーテールの女の子。諫める苦労人な金髪の男の子、我関せず撫で続ける赤髪の女の子。
動物好きに悪い人はいない。お友達になれるかな?
その後鬱陶しくなったのか、猫は走り去ってしまった。残念。
「ねー、あなた名前は? あたしはエミリー!」
「リアだよ」
ポニテの女の子が話しかけてくる。エミリーというらしい。
「オレはレオ!」
この子はさっき呼ばれてた茶髪の男子だね。
「ぼくはフィンレー。よろしくねリア」
苦労人……優しそうな顔立ちの美少年だ。
「わたしロージー。リアちゃんよろしくなのー」
夢中で猫を撫でてたのがロージーだ。
四人はこの広場で出会い、親同士の親交もあるお友達同士で暇があればよくここで遊んでいるとのこと。どうやらみんな同い年らしい。私とも。
偶然というか、同い年だからこそ仲良くなったんだろう。
「おいかけっこしようぜ」
「いいよー。リアもやろ」
「いいの?」
「人がおおいほうが楽しいよ」
「そうなのー。みんなでやるのー」
子供の適応力ってすごいね。是非混ぜてもらおう。
私だいぶん足速いな???
「はあはあ……リア足はやすぎだろ……」
「フィンレーよりはやいなんて……」
「足のはやさじゃ負けたことなかったのに……リアすごいね」
「はあ……つかれちゃったのー」
「ふふん。ちょっと自信あるんだー」
嘘です。いや嘘ってわけじゃないけど。
足速いなって思ってはいたんだよ。ただこれがこの世界でどの程度なのかはわからなかったのよ。まさかここまでとは。これが女神様のお力ですね。
大人より速いかもしれないし、必要ないときは少し手加減しよう。
その後も遊んだりお喋りをしたりして楽しい時間を過ごしていたら、すっかり夕暮れ時になってしまった。
「そろそろ帰んなきゃ」
「そうだね。また遊ぼうね、リア」
「よくここで遊んでるからいつでも来てよ」
「またなー」
「リアちゃんまた遊びましょうなのー」
「うん、またねー」
いやー。素晴らしい出会いでした。暇ができたらまた来よう。
早く帰らないと。お父さんより遅くなると心配かけるからね。
「ただいまー」
「おかえり」
家に帰ると、母が出迎えてくれる。夕食の支度をしていたらしく、いい匂いが漂ってくる。お腹すいたな!
「今日は楽しかった?」
「うん、お友達できた」
「あら、良かったわね」
今日あったことを母に話していたら、父が帰ってきた。
「りあああああ!」
「うわあ」
いきなり叫びながらギューっと抱きしめてきた父にドン引きしながらも受け入れる。父じゃなかったら殴ってる。
「大丈夫だったかい!? ケガは!? どこか痛いところは!?」
おかしいな、私は遊びに行っていたんだと思っていたんだが。
私は誘拐でもされてたのか?
「ジェームズ、ちょっと落ち着きなさいよ」
「お父さん、私は元気だよ」
「おお! そうか……良かった……」
過保護が過ぎるんじゃないかなこの人。なんだか不安だわ。
「この人ちゃんと子離れしてくれるかしら……」
頬に手を当てながら溜息を吐く母も、私と同じ心配をしているようだ。早くも将来が不安。
とりあえず父はそろそろ離せ。男に抱きしめられる趣味はないんだ。
「お腹すいた」
「ああ、そうね夕食にしましょう。ジェームズもいい加減にしなさい」
「うう……そうだね。夕食にしよう」
渋々離した父から離れ、母と共に台所へ。夕食の準備をして家族みんなで食事をとる。
うん。幸せだね。




