表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第3章 修行編
46/212

第46話 新たな始まり

二部の始まりです。

 ガリナに帰って来てから早一週間。

 二年後までタイムスリップ! とはいかない。旅に出る前に大きな障害がある。


 両親から旅に出る許可をもらわなければいけないのだ。

 止められてもやめる気などさらさらないが、だからといって喧嘩別れはしたくない。


 この一週間、学校での思い出話をたくさん聞かせて話したけれど、肝心な話はまだしていない。

 あ、洗濯機は渡した。母は大層喜び、その日から大いに働いてくれることとなった。父も感動していた。

 魔道具ギルドに売ったことも、そのお金で魔道袋を買ったことも話した。だって魔道袋がなければ洗濯機を持って帰ってこれなかったし。

 なるべく人前で使わないことを約束させられたけど、取り上げられることはなかった。


 幼馴染たちには一応会ったが、エミリーもロージーもお仕事が忙しいみたいで、あんまりちゃんと話をできていない。

 なので、今度みんなで時間を合わせて会おうってことになった。

 レオとフィンレーもそれに合わせて休みを取るって言っていた。どうやら王都の話が聞きたいらしい。

 久々に全員で集まれるかもしれない。楽しみ。


 さて、先延ばしにしていたけれど、そろそろ切り出さなければ。

 二年後に旅に出ます! ってそれだけだと言えば、それだけなんだけどさ。

 反対されるよなぁ。

 学校に行く前もこんなこと考えたなぁ。あの時もどうにかなったんだし、今回もなんとかなる! はず!




「そんなわけで、二年以内に旅に出ます」


 これから先も冒険者としてやっていくこと、王都で出会ったエルフ三人とパーティを組むこと、大陸を渡ること、それを二年後を目安に実行することなんかを両親に告げた。でも腕のこと、イネスターフライの時のことなんかは話していない。

 死にかけた話をするのはちょっと、今後に不利かなぁと。この腕のことは両親に話す気はない。


「ダメだそんなこと!」

「好きにしなさい」


 おや、意見が割れた。お母さんは別に構わないと。諦念を感じる気もするけど。

 お父さんは案の定か。これは予想通りだね。


「冒険者になるって言い出した時からこうなるんじゃないかとは思っていたのよ。父親が冒険者なら尚更ね」


 母が諦めと優しさが混じった目でこちらを見ながら理由を話す。

 確かに父が冒険者じゃなかったら……わからん。

 父が冒険者じゃなければサイラス先生には会えず、魔法を覚えず、腕の爆弾の使い方には気が付かないままだった……かな? 

 いや、きっと私は魔法という未知でロマンに溢れた力に生涯触れないまま生きていくことなんてできなかっただろうから、あんまり関係ないかもしれない。


 きっとどこで生まれても私は魔法に惹かれ、異世界に惹かれ、美女に魅かれて旅に出ていた気がする。

 好奇心と下心の塊みたいな人間だな、私。

 成人したら夜遊びとかしよう。同性愛者専用の風俗とかこの世界にあるかな。ますます旅に出たくなってきた。

 ……今考えることじゃないな。真面目な話の途中だった。


「きっと寂しくなるでしょうし、元気でやっているか心配にもなるでしょう。でもそれを理由にしてずっと手元に置いておくのは違う気がするもの」


 お母さんすごいなぁ。家族が一人居なくなる、これは寂しいことだ。

 父が遠出をしてずっと帰って来ないってなったら、きっと私だって寂しく感じるだろう。

 遠くでケガをしたかもしれないって思って心配にもなる。

 私がお母さんの立場だったら、好きにしていいなんて言えただろうか。


「ありがとうお母さん」

「でもたまには帰ってきてね。手紙も書いてほしいわ」

「うん」


 旅に出たからといって、二度と家には帰らないなんてことはないだろう。暇があれば顔を見に来るだろうし、案外腕の魔力回路を分析し終わったら帰ってくるかもしれないし。


「お父さんはなんで反対なの?」


 いやまあ、あっさり了承した母の方がおかしいっちゃおかしいんだけどさ。


「リア、世界はリアが思っているよりもずっと危険なところなんだ。そんな場所に娘を放り出すなんて危ないことできない!」


 父の言い分はもっともだ。

 この大陸には『魔物の海』がない。そのため他の大陸に比べて非常に暮らしやすい場所になっている。

 ここから出て行ったら確かに危険がいっぱいだろうね。


「大体、一緒に旅をする仲間のエルフだって、本当に信用できるかわからないじゃないか。会ってからそんなに経ってないんだろう?」

「それは平気。ちゃんと良い人たちだから」


 悪意を持って近づいてくればわかるんだよね。危機察知能力のおかげで。だから大丈夫。

 逆を言えば悪意とか敵意とかがないと危機察知って反応してくれないんだけどさ。

 純粋に好意を持って近づいてきた男性の接近に気が付かないとかね。


「そんなの……」

「これ以上あの人たちを悪く言わないで」


 まだ何か言おうとする父の言葉を遮る。

 ちゃんと話してはいないが、あの人たちは私にとって命の恩人だ。疑うなんてことはしない。

 例え親でも、あの人たちを悪く言うのは許さない。


「ジェームズ、二年後にリアは十五歳になるのよ。自分のことは自分でやるようになる年齢でしょう」

「でも、学校にだって行ったじゃないか。魔道具士になる道だってあるだろう。どうして冒険者なんだ……」


 それに関してはちょっとどころじゃないくらい申し訳ないと思ってるけど。


「世界を見に行きたい。見たことないものを見たい。魔道具だって作りたいし、魔法だって作りたい」


 魔道具だけじゃ足りない。ここは私の知らない世界なんだ。誰も知らない未知の物だってたくさんある。前世には無かったものがたくさんある。


「お父さんやお母さんのことは大好きだよ。でもガリナは私には狭い。もっといろんな人と出会って、いろんなものを知りたい。やりたいことがたくさんあるの」


 異世界を満喫する。これは転生したときに決めていたことだ。


「我儘でごめんなさい。心配かけてしまうのも、危険なのもわかってる。ここにいても楽しく暮らせるとは思うけど……」


 家族や幼馴染、顔見知りの街の人たちに囲まれて、その中で暮らすのはきっと楽しいだろう。

 でも足りない。私は貪欲なんだ。そんなものじゃ足りない。



 なにより、会いたいって思ってくれている人がいるから。


「会いたい人がいるから」


 私もその人に会いに行きたい。




 父が唖然としているというか、顔面蒼白というか、今にも気絶しそうに見えるんだけど……。

 母はなんだかニコニコしている。


「ついにリアにも好きな人ができたのねぇ」

「ちょ……お母さん!」


 もう! なんてこと言うの! 会いたい人がいるって言っただけじゃないの!


「ふふ、恋する乙女みたいな表情だったけど」

「うう……」


 そんな顔してたかなぁ……否定しきれない感じがしなくもない……ような……。

 親にもバレるくらいには顔に出るんだなぁ。気を付けよう。仮面でもつけていたい気分だ。


 なんて考えてたら父が横で崩れ落ちた。この話題は父へのダメージがデカいな。


「ジェームズ。リアももう子供じゃないのよ」


 父、うなだれたまま微動だにせず。


「私も昔たくさんの男性に言い寄られたけど、一人だけを自分で選んだのよ」


 昔を懐かしむような声色で発した母の言葉に、ピクっと父が反応する。

 やっぱりお母さんも苦労したんだろうな。


「リアにも幸せになってほしい。だから、選びたい人がいるなら、その手助けはしてあげたいわね」

「お母さん……」


 親に恋愛の話をするのは恥ずかしいと思ってたけど、こうやって背中を押してもらえると、他の誰に応援されるよりも心強く感じる。


 母の言葉を聞いて、うなだれていた父がゆっくりと起き上がり、長い沈黙の後ようやく口を開いた。


「…………………………わかった。リアの好きにするといい」

「お父さん……!」

「ただし!」


 父の心変わりに感動していたら、途中で遮られた。そう上手くはいかないよね。


「条件がある」

「条件……」


 そいつを連れてこい! とか言われると困るんだけど……なんだろうか。


「この二年で僕より強くなれ。Cランク冒険者の僕と試合をして、一度でも勝てなければ旅に出るのは認めない」

「ちょっとジェームズ!」


 母が止めようとするが、首を振って止める。

 これはまた……願ってもない。最高の申し出だ。


「いいよ。それくらい強くなるつもりでいたからね」

「さすが僕の娘だ。ケガをしても泣かないでくれよ?」


 これで少なくとも、希望くらいは見えたかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ