第４２話 また会いましょう
ナターシャさんとメリッサさんが出て行った後、ディーナさんに話しかけられる。
「リアちゃん、魔道具ギルドの方は上手くいったの？」
「はい。無事に販売されるそうです」
「すごいじゃん！」
「すごいわね」
「ふふん。すごい絶賛されたんで」
ドヤァ。
ライラとディーナさんから称賛されて調子に乗る。
実際は乗せられた感が否めないけど、お互いに利益のある話はできたからいいんだ。結構な金額で売れたし。
「お金の件でもう少し時間がかかるみたいですけど」
「あらそうなの。次の入居者が来るのはまだ先だから、ゆっくりしていても大丈夫よ」
「いいんですか？ 助かります」
ディーナさんに寮の滞在期間を延ばしてもらえた。
正直、出ていかないといけないかなって思ってたから素直にありがたい。長居はできないだろうが、ギルドの用事が終わってガリナに戻るまでお邪魔させてもらおう。
「ライラはもう行くの？」
「明日の朝の乗合馬車で帰ることになったから、今日はいるよ」
ライラとのお別れは明日に持ち越しのようだ。みんなどんどん出て行っちゃうなぁ。
「そっか」
「買い物行くけど、リアも行く？」
「あー。行こうかな」
二人で寮を出て王都の中を歩く。
昔は女子とは思えないような買い物しかしてこなかった私たちだけど、今日は二人でお土産を探して買ったり、美味しいものを食べたりして存分に遊んだ。
ライラと二人で王都で遊ぶのは、きっとこれが最後なんだろうな。そんな考えが頭をよぎった途端に目が潤む。
前世でも、一緒にゲームとかして遊んでた兄弟や親せきが、家を出たり結婚したりして一緒に遊ぶ機会がなくなってしまった時があったな。あの時も寂しかったよ。
いつでも、どんなときでも、別れというのは辛いものだね。
「マデリーンさんはこれからも王都に住むんですか？」
「その予定。学校が研究室を用意してくれるって」
「さすがですね……！」
ライラと一緒に寮まで帰ってくる。身支度をすると部屋に戻っていったライラを見送った後、マデリーンさんが寮に戻ってきた、
せっかくなので、ギルドがどうだったかなどの話を聞いてみた。『吸引機』はちゃんと販売されるとのこと。当然だろうね。
『吸引機』が最優秀作品に選ばれたのは、汎用性が高いと判断されたからじゃないかと魔道具ギルドで言われた。
確かに魔法にも転用できる可能性があるし、掃除以外の分野でも活躍できるだろう。うーん。やっぱりすごいな。
どういう魔力回路なのか私も知りたい。教えてもらえないかな。
「吸引機かぁ……どんな魔力回路なのか是非知りたいところですよ。私の洗濯機よりも全然汎用性がありそうですし」
「いいよ。魔力回路図あげる」
「え！？」
ちょっと試しに言ってみただけなのに……いいの！？
「いいんですか！？」
「ん。洗濯機の魔力回路図見ちゃったからね」
そういえば見てたな……でもあれは完成品じゃなかったんだけど……。
「でもあれは完成品ではありませんよ」
「それじゃあ交換でどう？」
「マデリーンさんがいいなら、是非」
そんなわけで、私の洗濯機の魔力回路図とマデリーンさんの吸引機の魔力回路図を交換した。両方とも正式にギルドで売られることになっているから、人には見せないことを約束した。いつかこれを使って魔道具や魔法を創ろう。素晴らしいものを手に入れた。
いつか遠く離れた国で、マデリーンさんの作った魔道具を見かける時が来るかもしれないな。それはきっと、とても嬉しいことだと思う。そんな日が来るのが今から楽しみだ。
「じゃーね。ライラ」
「うん。さよなら、リア」
寮でディーナさんとマデリーンさんに別れの挨拶をしたライラ。その後私と一緒に王都の門近くの馬車乗り場まで来た。ここでついにライラともお別れだ。お別れなんだが。
「……この前ガッツリ泣いたせいで涙が出ない」
「ホントにね！ なんで卒業式の前日に泣いたんだろ」
「タイミングがおかしいよねぇ」
もしかして卒業課題に追われ過ぎて精神が不安定だったのかもしれない。お互い大変だったもんなぁ。
「まあいいや。またねライラ。冒険者として独り立ちしたら会いに行くよ」
「うん。魔道具作って待ってるよ。手紙も送るね」
「楽しみにしてる」
手を振りながら馬車へと乗り込むライラを見送り、その場を後にした。別れを惜しむのはあの日に散々やったから、今日はこれくらい淡泊でいいんだ。いつかまた会えるから。
だから、目が潤むのはきっと空気が乾燥しているからだ。そうに違いない。
朝にライラを見送った後は王立図書館に足を運び、学校では習い切れなかった術式の知識を詰め込む。
今日は冒険者として働く気分じゃないから、一日ここで勉強していよう。
王都での残り少ない滞在時間を無駄にするのは勿体ない。ギリギリまで努力を怠らないようにしよう。
