第40話 卒業
――そんなんじゃみんなから嫌われるよ
「……はあ。懐かしい夢だなぁ」
翌朝、まだ日も明けきらない時間に目が覚める。隣のライラはまだ寝ている。
なんとも懐かしくて嫌な夢を見た。前世のころの夢。あれを嫌な夢と言ってしまうのもあれなんだけど。
別になんてことはない。高校時代に友人と喧嘩した時に言われた言葉だ。
あの時、私には片想いをしている人がいた。そしてあの時の私はどうしようもなく子供だった。
恋は盲目。これを体現するかのような振舞いをしていた私は、周りの友人がどんな思いをするかなんて何も考えずに欲望に忠実に過ごしていた。好きな人と一緒にいるためなら他の何を犠牲にしてもいいと、無意識の内にそう思っていた。
どうしようもないくらい我儘な子供だった私は結局、好きな人に振られた上に、一番仲の良かった友人と喧嘩した。その時友人に言われた言葉が先ほどの言葉で、今も忘れていない。
あれは私にとって戒めの言葉だ。時間が経つにつれ、どう考えても自分が悪いとしか思えなくなってきた私は、自分がもっと自制心のある我慢強い人間になるまで恋はしないと決めた。
今持っているこの想いだって、表に出さずにいればいつか消えてなくなるはずだ。そうしないと、私はまた誰かを傷つけてしまう。
私の恋心よりも大事なものはたくさんある。家族、友達、仲間、趣味や修行まで、そういったものを大事にしていきたい。
今も我儘で自分勝手な人間なことに変わりはないから、恋ができるのがどれくらい先の未来になるかわからないけど。
「あーやめやめ。こんな時間に考え事してもしょうがない」
私が美女を見るのは目の保養のため。それ以外に何か……夜遊びでもしたければ成人してから。恋愛なんてしない。恋しちゃったら誰かに気が付かれる前に忘れる。これでこの話は終わり。
まだ起きるには早すぎるし、もうひと眠りしよう。ライラが横にいるから寝坊することもないだろう。
朝になり、ライラに起こされて目が覚める。
身支度を済ませて寮を出る。今日、一年間通った『魔道開発専門学校』を卒業する。
入学式を行った訓練場に入り、ライラと一緒に適当な席に座る。一応クラスで座る場所は決められているようだけど、細かく分けられているわけではないので、好きに座る。
しばらく待てば校長が壇上に上がり、挨拶をする。
お褒めの言葉と、輝かしい未来へと進んでくれとの祈りを貰えば校長の話は終わる。この人は話が短くて助かる。
校歌もないし、他所からの祝いの言葉があるわけでもないので、式は順調に進む。
そしてついに卒業課題として提出した魔道具、魔法の最優秀作品がそれぞれ発表された。
訓練場の外から運び込まれた優秀作品たちの中には――
「それでは改めて! みんな卒業おめでとう!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
退屈な卒業式を終えて、寮でディーナさん主催で寮生全員で卒業パーティをしましょうってことになった。
いつもの飲食スペースでディーナさんお手製の料理が並べられ、それを囲うように座って小さなパーティが始まった。
料理はいつもより豪華で、ディーナさんの張り切り具合が見て取れる。
「マデリーンとリアちゃんは優秀作品に選ばれたのよね。すごいわ! おめでとう!」
「ん、ありがと」
「ありがとうございます」
ディーナさんからお褒めの言葉をもらう。
そう、私が優秀作品、マデリーンさんはなんと最優秀作品に選ばれたのだ。終ぞマデリーンさんには勝てなかったな。
マデリーンさんが作ったのは『吸引機』というものだ。つまり前世でいう『掃除機』だ。掃除機もこの世界にはなかったので、前世の知識もなくその発想に至れたマデリーンさんはすごい人だと思う。
学校側が魔道具ギルドに話をつけておいてくれたので、明日ギルドの人とお話をする機会をもらえるそうだ。ガリナに帰るのはもう少し先になりそう。
「お二人ともすごいですわ」
「ホント! 便利そうな魔道具だよね。売られるようになったら欲しいと思う」
「我が家でも導入できないか検討してもらうよう父に言っておきます」
ナターシャさんとメリッサさんからも称賛される。この二人ともあの一件以来話す機会が増えた。やっぱりメリッサさんはナターシャさんのメイドさんらしいんだけど、元々幼馴染同然で育ったようなので、親の目が届かない場所では気安く話をしているとのこと。
「まだ売れると決まったわけじゃない」
二人からの称賛をマデリーンさんがバッサリ切り捨てた……ように見えるが、どうやら照れ隠しのようだ。案外可愛い人なのかもしれない。
確かに、まだ売り物になるとは決まってないからね。明日の魔道具ギルドの出方次第かな。
「確かにちょっと気が早いですよ」
「そんなことないよ! こんなすごい魔道具、絶対売れるって!」
「あはは、ありがとう」
ライラまで力説してくる。そうだといいけどなあ。明日の話し合いで駆け引きとか要求されたらどうしよう。そういうの弱いんだよね。今から心配になってきた。
でも誰かと一緒に行くわけにもいかないし、穏便に話し合いができることを祈るしかない。
「それにしても、一年とはあっという間ですのね……」
ナターシャさんの呟きにそれぞれが反応し、この一年間を振り返る。
冒険者として魔物と戦ったり、告白イベントが起きたり、腕が爆弾で吹き飛びかけたり、街中で恋愛イベントが起きたり、新しい仲間ができたり、婚約破棄イベントが起きたり……あれ? なんかろくでもない思い出が多いな?
「嫌な思い出が多い気がするような……?」
「まあリアだもんね。仕方ないよ」
「どういうこと?」
仕方ないで済ませていいものじゃないと思うの。
大半……特に恋愛イベント系は私が被害者だと思うんだけど……違うかなあ?
夕食時に始まったパーティは数時間続き、最初で最後の寮生全員でのお祝いは大盛り上がりで終了した。
この一年間いろいろあったけど、寮に住んでいるのがこの人達で本当に良かった。




