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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第2章 王都学校編
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第39話 親友

 この学校に入学してからもうすぐ一年。授業らしい授業もほとんどない学校を終え、寮でライラとまったりしている。


「終わったねぇ」

「終わっちゃったねぇ」


 明日はついに卒業式。

 この寮ともあと数日でお別れになる。そして、隣にいるライラとも。


「最優秀作品は誰のものかなー?」

「みんな結構すごいもの作ってたみたいだから、誰がなってもおかしくないよ」


 明日の卒業式では卒業課題の優秀作品が発表される。

 優秀作品に選ばれた物は魔道具ギルドに打診をしてくれるらしい。もちろん買ってもらえるかはギルド次第だけど。


「……ライラともお別れだねぇ」


 この一年、この子がいたから楽しく過ごせた。毎日が面白くて、寂しくなかった。

 一年前、両親から離れて暮らし始めたあの日。初めて会ったライラは元気いっぱいの可愛い子供だったけど、不思議と馬が合った。

 年の違いなんて感じさせないくらい気安い関係になれた。一緒に勉強して、食事をして、遊びに行って……一回くらい、一緒の部屋で寝たりとか、してみても良かったかもしれない。

 同性愛者ってバレてるから嫌がられるかな?


「そうだね……寂しいなあ」

「うん……」


 ライラも寂しいと思ってくれている。私との別れを悲しんでくれている。ライラにとっても、私が大事な友人なのだとわかる。

 それを聞いただけで嬉しさと同時にこみ上げてくるものがある。


「ライラと一緒にいられて楽しかった……」

「わたしも……!」


 正真正銘、心の底からの想いを吐露した途端、涙が止まらなくなる。

 私の言葉を聞いて、ライラからも大粒の涙がこぼれ落ちていく。

 お互い、目の前でこんなに泣いたのは初めてじゃないだろうか。


 別れるのは寂しい。両親とも、エルフたちとも、別れた時は涙なんて出なかったのに。

 きっと、ライラと次に会える確証がないからだ。これが今生の別れかもしれない。

 会いに行けない距離じゃないのに。会いに行こうと思えば、いつだって行ける距離なのに。


「泣きすぎでしょ……」

「ライラもじゃん……」


 二人して鼻水出しながら大泣きした。ここは寮のラウンジだけど、周りには誰もいない。今だけはこのまま、二人で泣かせてほしい。


 別れが悲しくて泣いたのなんて、前世も含めて初めてかもしれない。素晴らしい親友を得た。

 この学校で得た一番の宝物は、間違いなく彼女だと言えるだろう。この一年間ライラと過ごした日々を、ずっと大事に覚えておこう。

 かけがえの無いものだと、胸を張って言える、そんな大切な思い出たちを。


「いつか絶対に会いに行くからね」


 私は冒険者になるんだ。ライラのいる街までなんて、簡単に行けるはずだ。住んでいる場所がわかるのなら手紙だって送れる。

 今まで毎日会っていたから、会えなくなるのはやっぱり寂しい。でも、私たちの関係をここで終わらせたくはない。


「うん。その時はわたしが作った魔道具買ってってよね」

「いい物があれば」

「高値で売り付けてやる」


 どちらからともなく、小さな笑いが起こる。それは徐々に大きくなっていき、しばらくすればいつもの私たちが戻ってくる。

 最後は笑ってお別れしよう。彼女との最後のお別れが、涙だけで終わるなんて勿体ない。


「部屋にベッドが二つあれば一回くらいライラと一緒の部屋で寝られたのに」

「あー……いいんじゃない? ベッドが一つでも」

「え」


 先ほど思ったことを、遠回しに言葉にしてみる。するとライラからまさかの返事が来る。

 ビックリして思わず声が漏れた。


「なんでそんなに驚いてるの」

「いや……嫌かなぁって思ってたから」

「友達と一緒に寝るのが嫌なわけないでしょ」


 口角を上げながら軽く言うライラの言葉に嬉しくなる。

 マジかぁ。まあ、私がライラにどうこうすることはないけど。ライラは私にとって大事な友人。性的な対象にはならない。一緒のベッドで寝ても、仲良く朝まで寝るだけだ。


「じゃあ今日一緒に寝る?」

「いいよー」


 そんなわけで、今夜は私の部屋のベッドで二人仲良く寝ることに。





「狭いねぇ」

「そりゃあね」


 その日の夜、まだ灯りはつけているけれど、同じベッドの中にライラがいる。

 同じベッドで一緒に寝るのはライラが初めてだなぁ。


「こうやって寝るの初めてだよ」


 ライラがこちらを向きながら言う。

 お互いに初めてのようだ。だからどうのと言うわけでもないけど。


「これが同衾かぁ」

「変なこと言わないで」


 ふざけてそう言葉にしてみると、不機嫌そうに返される。

 ライラは怒っているように見えるけど、本気でそう思っているわけじゃない。それくらいわかる程にはお互いを知っている。


「ライラが一回り年上の美女だったら手も出すんだけどなぁ」


 一応、暗にライラがそういった対象にはならないと伝えておく。

 さすがに……何歳だっけ。十四? 前世で言えば中学生でしょ? 食指も動かんわ。


「……わたしはまあ、リアだったら別に……」

「ちょっと。何でその気なの」

「まあ……無理ではない……かなぁ?」

「知らないし、ヤらないから」


 疑問形とはいえ、ちょっとやる気を出されると戸惑うしドキドキするからやめてほしい。


「冗談だよ。それよりさあ、恋の話しよーよ」

「ええ~? ライラ好きな人いたの?」

「いないけど」


 いないんかーい! 恋バナにならないでしょう。

 キョトンとした顔して! あんたが言い出したんだよ!


「リアはいるでしょ?」

「なんで?」


 何故か確信しているかのように言われる。ニヤニヤしながら続けられた言葉に心臓が跳ねる。


「リアはあのエルフ三人の内の誰が好きなの?」


 驚いて身体がビクリと動いてしまい、見るからに動揺しているのがライラに筒抜けだった。なんでいきなりそんなこと。


「な、なんでそんな」

「あ〜やっぱり好きな人いるんだ?」


 その言葉で嵌められたことに気づいて眉間に皺が寄る。

 ライラが得意げな顔をしながら興味津々といった様子で私の方に距離を詰めてくる。


「やっぱりエルシーナさん? すっごく美人だったもんね。セレニアさんもクールな感じで素敵だったし、クラリッサさんも可愛らしい人だったよね」

「ちょ、ちょっと待って」


 矢継ぎ早に言葉を続けられて焦る。どんどん話を進めないでほしい。

 もうライラの中では、私があの三人のエルフの誰かに恋をしていることが決定してしまっている。どうしてこんなことに。


「私別にそんなつもりは……」

「リアの好みの女性だと思ったんだけど」

「それはまあ、そうだけど」


 私が年上の美女が好きということをライラは知っている。その辺は否定しない。

 あの三人はまさにそうだけど、だからって……。


「恋とは限らないでしょ」


 そう、恋とは限らない。単純に目の保養程度の好きとか、そういう感じかもしれないじゃない。


「ふーん。まあそういうことにしてもいいけど。リアは結構わかりやすいから、知られたくないなら気を付けた方がいいよ」

「……気を付けるよ」


 ぼそりと返事をした辺りでライラが小さくあくびをする。そろそろ寝ようかという雰囲気になったので、就寝することに。

 灯りを消して、二人でベッドに潜り込む。


「……そんなに顔に出てる?」


 ライラの方を見ないで尋ねる。これはもう認めてしまったのと一緒だ。

 恋をしている。好きな人がいる。正直、絶対違うなんて否定はできない。

 気になっているなんて言えるほど、浅い想いでもないと、なんとなく理解している。

 これがわかりやすく顔に出ているというのは……正直、マズイかもしれない。


「んー……いや、そこまででもないけど。長く付き合うとわかってくるものがあるというか」


 ふとした拍子に目線が向いているとか、一番気にかけているとか、そういうのが少し出ているのかもしれない。

 気を付けよう。素っ気なく、程よい関係の友人だと知らしめるように、他の人と一緒にいる時間を増やすくらいしておけば、気が付かれることもないだろう。


 まあ、私は昔、これが上手くできなくて恋をしたくないと思ってたんだけど。今の私にできるだろうか。

 少なくても、その人が傍にいない今なら何も気にしなくても大丈夫だろう。


「やっぱりエルシーナさんでしょ。上手くいくと良いね」

「……そんなつもりはないよ」


 なんでわかるのかなぁ。あの三人とは一回しか会ってないよね? そんなにわかりやすい?

 ここまでいくとライラの観察眼の方がすごいって話になるんじゃないかなぁ。


「ふーん。あんなに美人なんだし、恋人がいないってこともないのかもね。リアはそれでいいの?」

「あー……」


 エルシーナに恋人……想像しただけでキツイ。

 でもな……私なんかが相手にされるわけがないんだよなぁ。

 あの人達が何歳なのか知らないけど、高々十数年程度の小娘なんて、恋愛対象になるわけないんだよなぁ。


「あと十年くらいしないとそういう対象として見てもらえない気がする……子供扱いだと思う……」

「ああ……年齢差って辛いね」


 しかもエルフだし、なんてとどめを刺されてこの話は終わった。

 年齢差もあるし、寿命差だってある。前途多難なこの恋は、日の目を見ないうちに失くしてしまおう。

 悲しいかな、私に恋は向いていないのだ。



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