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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第2章 王都学校編
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第37話 時間が経つのは早い

 顔を真っ赤にしたエルシーナが私に抱き着いてきた。

 動いて汗もかいているはずなのに、不思議と良い匂いがする。すっごく甘い、腐る寸前の果実ってくらいに甘い香り。

 この匂い好きだなぁ。前世で好きな人ができたときも、その人からこんな匂いがしてた気がする。恋の香りってこんな感じなのかも。不思議だ。

 何が言いたいかというと、ドキドキするから離れてほしい。


「ありがとう」

「う、ん、どういたしまして」


 お礼を言っておずおずと離れていく彼女の顔は、未だに真っ赤だ。

 仲間として、友人としての好意を伝えただけなのに、そこまで照れられると私も恥ずかしくなってくる。


「親睦が深まったようで良かったな」

「そうですねえ。微笑ましいですね」


 私たちを見ながら笑みを浮かべているセレニアとクラリッサ。何故か含みを感じるのは気のせいだろうか。

 まあ、仲良くなれたのは嬉しいかな。これから仲間として付き合っていくんだから、少しでも心を許してくれるのはいいことだ。


「もちろんセレニアとクラリッサのことも素敵な人だって知ってるからね」

「そうか、ありがとう」

「照れますけど、嬉しいですね」


 二人にも大事な仲間だと思っていることを伝えておく。この三人は本当に優しくて素敵な人たちだと思う。

 一緒に冒険者パーティを組めるなんて、今世最大の幸福なのではないだろうか。



 しばらくすると落ち着いてきたらしいエルシーナが口を開く。


「えっと、あの、ね。別に表立って何かされてたわけじゃないし、陰口言ってるやつはわたしの美貌に嫉妬してるだけだったし、本当に気にしてないから。セレニアやクラリッサもいたから一人じゃなかったしね」

「そうなの?」


 自分で美貌って。いや、うん。エルシーナより綺麗な人なんていないけどさ。


「強化魔法が使えちゃったからね。そしたら手のひら返すように近づいてきた奴らもいるし。そんな奴と同じ国にいると自分まで陰険になりそうだったから出てきただけ。あんな国、わたしから捨てたのよ」

「ふふ、ワタシもそうです。回復魔法が使えるだけでチヤホヤしてきて……嫌になりましたので」


 そう言った二人の表情は晴々としていて、無理をしているようには見えない。どうやら本当に気にしてないみたいで、少しホッとした。


 いつ国を出てきたのかわからないけど、故郷に帰れないのは寂しくないのかな。

 私だってなんだかんだ、日本が恋しいと思うことはたまにあるけど。

 でも誰かが一緒にいてくれれば……そうでもないのかな。それとも、帰りたいなんて欠片も思わないほど嫌いなのかな。


 でもそうなると、この三人と一緒にエルフの国に行くことはできそうにないな。今の話聞いたら行く気はなくなったけど。

 ちなみにエルフの国は西大陸にあるそうだ。だから次の行先に西大陸が候補に挙がらなかったのね。


「なんだかエルフのイメージが崩れるね」

「よく言われるよ」


 もっとこう、清らかで神秘的な存在だと思ってたのに。

 ヒトって長生きするとこじれるのかね。長寿も考え物だ。





「リアはなんで冒険者になったんだ?」

「最初はお金だったかな。続けていくうちに楽しくなってきた感じ」


 特に深い理由なんてないんだよね。

 ランクアップとか、周りからいい評価を貰えたら嬉しいなって思ってるくらいで。

 面倒ごとは嫌だけど、旅をしながら魔道具や魔法を創ってこの世界を満喫できれば、きっと楽しい。


「学校まで行ったのに冒険者になるなんて、ご両親から反対されるのでは?」

「されるでしょうねぇ」


 どう説得しようかね? 学校を卒業後どうするかの話は親としたことなかったんだよね。


「両親は私に甘いけど、危険なことは許してくれなかったからなぁ。王都に一人で来るのだって反対されてたし」


 懐かしい。もう何か月も両親に会ってないんだなあ。ガリナのみんな元気にしてるかな。

 手紙は届いているから元気だとは思うけど。


「と、途中で気持ちが変わったりしないだろうな?」


 セレニアが冷や汗を垂らしながら問う。腕の魔力回路が本当に気になるんだろう。

 よく二年も待つ気になったねこの人。


「しないよ。何もしないで平穏に暮らすのは嫌だし」


 そんな暇そうな生活は嫌。この人達と一緒にいるのも楽しいし。

 やりたいこともいっぱいあるから、そのためにもガリナで留まっているのは勿体ない。






 エルフたちと共に過ごしたり、勉学に励んだり、そんな毎日を過ごしていると瞬く間に時間は過ぎる。

 学校での授業が終わり、担任教師からついに、この学校での最終課題が出される。


「そろそろ卒業課題に着手し始めてください。課題は魔道具か魔法のどちらかを一つ創ることです。魔道具部門、魔法部門に分け、それぞれ最優秀作品を一つと、優秀作品を二つ学校側で選ぶことになっています。素晴らしい作品を作れるよう頑張ってください」




「ついに卒業まで三カ月かー。あっという間だったねー」


 寮に帰りながらライラと談笑中だ。話題はもちろん今日出された卒業課題の話。

 この学校に入学してからすでに九ヶ月が過ぎた。ライラの言う通り、正直あっという間だった気がする。


「でもこれからが本番でしょ。卒業課題が提出できないと卒業できないし」


 この卒業課題こそがこの学校のメインイベントと言っていいだろう。今までの九ヶ月間を無駄にするか物にするかは残りの三カ月で決まるのだ。


「ここで画期的な魔道具を作ってギルドに売って一攫千金だ……!」

「下心がすごい」


 そして得たお金で魔道袋を買うんだ……!

 ライラが呆れた顔しているけど、お金は本当に死活問題なんだよ! もう杖を背負いながら剣を振り回すのはしんどい!


「魔道具作るの?」

「うん。親に贈り物として作ろうかなって」


 家庭用、低価格、低コスパの魔道具を作る! 今こそ前世の知識が役に立つはず!


「わたしは何にしようかなー。いろんなの思い浮かんじゃってまとまらないや」

「早く決めないと試運転できないからね。頑張れ」


 寮に帰ったら早速紙に案をまとめていこう。時間はいくらあっても足りないからね。





「うーん……」


 前世にあって、今世に無いもの。それでいて便利で画期的……やっぱりあの辺りかなぁ。

 洗濯機とか。この世界には無いんだよねえ。

 洗濯板みたいなのはあるけど、基本手作業だ。この世界の魔道具は種類が偏っている気がする。


 布製品があまり丈夫じゃないから力加減に気を付けないとね。そうと決まれば早速構想を練ろう。

 縦長の洗濯機より、ドラム式のほうが洗濯物が痛まなくて水も少なく済むって聞いたことがあるし、ドラム式に近い形の方がいいかな。

 いやでも縦長の方が術式が少なく済むか……? ああもう、両方順番にまとめておこう。

 乾燥機能は……付けられたらにするか。基本付けない方向でいこう。


 使う術式もまとめないと。

 回転は欠かせない、水をかけるのも必要だよね。

 でも水の魔石って他の魔石に比べると割高なんだよね……使用したお風呂のお湯を使いまわせるようにした方がいいかな。

 攪乱もいるね。あとこれとこれと……入れ物をどうしよう。

 木箱じゃ無理というか、水を溜めておける容器じゃないと。術式に耐えられる材質だと何がいいだろうか。


 魔力回路を作るのは大変だけど、術式を組み立てるのはプログラミングに似てる。

 ここが楽しいんだよなあ。



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