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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第2章 王都学校編
35/212

第35話 乙女ゲームみたい

「リアさん、ちょっとよろしいかしら?」


 新しい仲間との連携、日々の勉強などに追われて過ごしていたある日、同じ寮に住むお上品なお嬢様感が出ているナターシャさんに寮のラウンジで話しかけられた。

 隣にはメリッサさんもいる。


「どうしました?」

「少しお話したいことがあるのですが」

「はあ」


 珍しいな。挨拶以外で話をしたことなんて滅多にないのに。

 なんか嫌だけど断るわけにもいかず、二人について行く。場所はナターシャさんの自室だ。

 広さは私の部屋と同じだけど、机と椅子が置いてある。ここには元々無かったはずだから、持ち込んだのだろうか。

 年上二人に人気のない場所へ呼び出される……嫌な予感しかしない!


「私の話したい事について心当たりはありますか?」

「え、え……? な、ないです」


 ナターシャさんにそう問われるけど……わからんわそんなん!


「そうですか……では、パトリック、というお名前はご存じですね?」

「え……?」


 パトリック……? 聞いた感じ、男の名前かな?

 自慢じゃないが、私は人の名前を基本的に覚えない人種なので、学校関係者で覚えている名前は同じ寮に住む人たちだけだ。

 クラスメイトでも深く関わらなければ覚えていないし、私に好意を伝えてきていたとしても同じだ。興味がないからね。

 つまり、全然心当たりがない。


「……もしかして、本当にわかってない……?」

「うわぁ……さすがにパトリック様可哀想……」

「え、え、ご、ごめんなさい」


 ナターシャさんに信じられないものを見るような目で見られ、今まで何も喋らずに成り行きを見守っていたメリッサさんが思わずといった感じでつぶやいた。

 その様子になんかヤバい雰囲気を感じ取り、素直に謝罪の言葉が漏れた。

 いやでも全然知らないんだけど。


「貴方に告白していた貴族の殿方がいたでしょう。その人です」

「え!? 貴族……様が混じっ…………ええと、貴族様に告白された覚えはないんですが」


 貴族って嘘でしょ。普通に全員断ってきちゃったんだけど。どうしよう。不敬罪とかになったりしないよね。

 もう、二人の私を見る目が有り得ない物を見る目というか、憐みが混じっているというか。

 とりあえず私の評価が著しく下がっていっているのがわかる。


「もう最初から説明した方がいいんじゃないかな」

「……そうですわね」


 メリッサさんがナターシャさんに苦笑いしながら告げる。どうやら最初から説明してくれるそうだ。

 なんかごめんなさい。


「まず、そうですね。私はこれでも貴族の端くれでして、婚約者もいるのです」

「そうなんですか」


 まあ言葉の節々からそれは感じてたかな。

 ナターシャさん品があるというか、育ちが良いんだろうなとは思ってた。

 メリッサさんは貴族には見えないけど。メリッサさんに品が無いとかそういうことではない。


「その婚約者がパトリック様です」


 ………………ヤバいやつでは?

 え、さっき、え、マズくない?


「貴女に告白してきた者の中に、キザったらしい男はいませんでしたか? 運命とかなんとか言って」

「あ、あー……いました……」


 この前甘味屋の前にいたところで話しかけてきたあれか!! 君は僕の運命とか言ってたやつ!

 うおおい、あれ貴族なの!?

 つーか婚約者いるのに私に告白してきたの!? ダメなやつでは!?


「え、あ、その、あの。ご、ごめんなさい」

「……その様子だと本当に知らなかったみたいだね」

「落ち着いてください。婚約者がいるにもかかわらず他の女性を口説いたパトリック様が悪いのであって、貴女に非はありません」


 よ、よかった……。問答無用! とか言われて断罪されるかと。貴族怖い。


「それにあの方はおそらく名乗っていないでしょうし……」


 僕のことを知ってて当たり前! くらいの気持ちで話しかけてきていただろうとのこと。知りませんが??


「あ、あの、ど、どうしたらいいんでしょうか」

「何度か諫めているのですが、どうにも邪険にされてしまい効果がないようなのです」


 実際、あの後も何度か学校内で出会い、デートに誘ってきたり口説かれたりと色々されている。

 全部断ってるけど。本当やめてほしい。


「穏便に断る方法を考えましょう。その後はこちらでどうにかします」

「あ、ありがとうございます!」


 どうやら助けてくれるようだ。思っていたよりも優しい人でした。ありがたい。

 いやでも私悪くないよね? 私被害者だよね?

 やっぱり貴族は嫌いだ……。





「やあ、リアさん。こんなところで会えるなんて嬉しいよ。やっぱり僕たちは惹かれあっているんだね」


 こんなところって……ここは学校ですけど? 開口一番がそれかよ。

 例によって例に漏れず、あのキザったらしい男が学校内で話しかけてきた。

 周りにちらほら人がいるからやめてほしい。今日は仕方ないけど。

 なんだっけ名前。


「……こんにちは」


 えーっと、確か、パトリックだったか。

 パトリック・オーエンだっけ? 子爵家の次男とかなんとか。ナターシャさんに聞かされた。

 ナターシャさんも子爵家のご令嬢らしいけど、なんでそんな人が寮に入ってるんだろ。

 他人の家庭事情に突っ込むのもアレだから聞いてないけど。


「そろそろ僕との将来について真剣に考えてくれたかい?」

「その前にお聞きしたいことがあるのですが」


 さて、ここからだ。この迷惑屑男をどうにかしないとね。

 私に興味を持たれて嬉しいのか、何故か少し近づいてくる。その分離れてやる。近寄んな。


「なんだい?」

「オーエン様には婚約者がいらっしゃるとお聞きしましたが」


 一瞬驚いた顔をした彼は、すぐに苦虫を噛み潰したような表情に変わった。

 何か言われる前に続ける。


「貴方がそんな方だったとは思いませんでした」

「だ、誰からその話を……そうか、ナターシャからだね?」


 違うんだとか、話を聞いてくれとか、ナターシャとは婚約するつもりはないとか、不穏なセリフが聞こえてきて、慌てて言葉を発する。


「そんな方の言うことなど信用できません」

「違うんだ! 僕にはリアさんだけだよ!」


 う、浮気男のセリフみたいなの言われた……実際言われると冷めるなこれ。

 いや、元々熱なんて持ってなかったけど。永久凍土がさらに冷えた感じ。


 でもこれ不敬罪にならないかな。大丈夫かな。ナターシャさん助けて。


「パトリック様」

「な、ナターシャ」


 ナターシャ様登場! あとはなんかいい感じにしてくれるらしいのでお任せ!


「噂は聞き及んでおりましたが、まさか本当に、私という婚約者が居りながら他の方を……」


 最後まで言わずに悲しい顔をしながら苦しそうに告げるナターシャさん。演技なんだろうなぁ。さすが貴族令嬢、泣き真似なんてお手の物だね。

 しかしここで向こうに靡くよう男なら、こんなことにはなってないんだよなぁ。


「お前がリアさんに僕の酷評をでっちあげて聞かせたそうだな? この悪女め!」

「「え」」


 えええええ!!! 叫ばなかった私を誰か褒めて。酷評ってあんた……事実でしょうが!

 なにこれ不穏すぎて怖い。


「ちょうどいい、今ここで貴様との婚約を破棄すると宣言しよう! お前のような平民を貶めようとする悪女、僕には相応しくない!」

「なんと……!」


 なんだこの乙女ゲームみたいな展開は。差し詰め今の私は主人公かしら。ナターシャさんが悪役令嬢で、パトリックとかいうのが攻略対象? 

 気持ち悪い、吐きそう。


 いつの間にか集まってきているモブ達がざわざわしている。私もそっちに混ざりたい。

 ていうかこれ大丈夫なのかな……。この後私に求婚してくるみたいな流れになりませんかね。

 物語だとそういう展開になるんだけど……やめてね? 


「パトリック様はご自分の立場をキチンと理解されていらっしゃらないのですか……?」

「な、なんだと?」


 ナターシャさんが信じられないものを見る目をしている。あの目最近も見たな。


「私とパトリック様の婚約はオーエン家のご当主からの打診でしたのに……」


 よくわかんないけど、婚約破棄して困るのはパトリックの方のお家らしい。バカなんじゃないのこの人。


「そ、そんなことは聞いていない!」

「でしたらご自分で確認されたらよろしいかと。これほどの民衆の前でした宣言を撤回することは難しいでしょうけど」

「く……!」


 私は少しずつ下がってモブの仲間入りをしよう。この場に主人公などいなかった。いいね?

 なんて思っていたら私に背を向けていたパトリックが振り返った。

 何やらすがるような目をされたので、憐みを込めた視線を返しておいた。慰めてもらえるとでも思ったのか。

 私を見て顔色を悪くし、周りを見てよろめいた彼は


「し、失礼する!」


 と、逃げるように立ち去った。

 元々はナターシャさんの方から婚約を破棄しますよーって脅すつもりだったんだけど、まさかパトリックが自分の立場すら理解していないほどの無能とは思っていなかった。

 ほとんど自爆だったよね。

 私要らなかった……というか、ナターシャさんの立場を悪くしたのではないだろうか。大丈夫なのかな。


「リアさん」

「あ、はい」


 ナターシャさんに話しかけられる。すっごい疲れた顔してる。お疲れ様です。


「おそらく大丈夫だとは思いますが、パトリック様が何かしでかしたら言ってくださいね」

「は、はい。ありがとうございました」


 ナターシャさんめっちゃ優しいじゃん……。第一印象で偉そうとか思ってごめんなさい。

 それにしても、ナターシャさんの今後は大丈夫なんだろうか。あっちが悪いとはいえ婚約破棄でしょ? 

 悪評でも立たなきゃいいけど。私も原因の一端なんだけども。

 心配が顔に出ていたのか、大丈夫ですよ、と言いながらしっかりとした足取りで立ち去っていったナターシャさん。

 いつの間にかその隣にはメリッサさんが付きしたがっていた。

 もしかして、あの二人は主従関係なのかもしれない。

 結局メリッサさんのことはよくわからなかったな。


「はあ……」

「お疲れー」


 嵐が過ぎ去って安堵の息が漏れたところで、モブに混ざってたライラが近づいてきた。

 ホントこういうところあるよね、この子。


「すごかったねー。恋愛小説みたいだったよ」

「二度と出演したくないね」


 乙女ゲームの主人公のメンタルってすごいな。婚約者のいる攻略対象を奪うんだもの。アダマンタイト並みかな。私には絶対無理。

 もしかしたらどの主人公も、私みたいにいつの間にか当事者にされているだけなのかもしれない。乙女ゲームなんてやったことないけど。


「はぁー。帰りたい」

「早退する? まだお昼休みだけど」

「……午後も受けるよ」


 まだお昼なんだぜ……もう一日分のエネルギーを使い果たした気分だよ。


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