第34話 美人たちの素顔
三人の戦いを見た後、私も戦い、ビッグボアとジャイアントベアーを一匹ずつ倒した。
ビッグボアはあっさりと倒したが、ジャイアントベアーは少し手こずった。やっぱり固いね。
「その年でどうして一人で戦っていたのかと思っていたが、なるほど技術なら十分だな」
「本当!?」
魔物を倒して戻ってくる私を見ながらセレニアが褒めてくれる。
うおお、もしかして剣をこんな風に他人に褒めてもらえたのって初めてじゃない?
恥ずかしいけど嬉しいな。顔がにやけるのを抑えられない。
「ああ。ジャイアントベアーは固いからな。エルシーナの剣と同じような切れ味のものがあれば問題なくなるだろう」
「武器かぁ。変えたいとは思ってるんだけどね」
買ってから一年も経ってないんだよねぇ。
お金もないし、もう少しこの剣との付き合いは続くと思う。
「倒せないわけではないですし、今すぐ変えなくてもいいのでは? 他がサポートすればいい話ですし」
「それもそうだな」
仲間って良いね! 頼り過ぎはよくないってわかってるので、いつかもっと切れ味のいい剣を用意しないとね。お金貯めないと。
「索敵もできるし、それでFランクなの?」
「ランクは……単純に仕事量の問題だと思う」
入学前は父やサイラス先生と一緒に仕事をしていたし、入学後は休日にしか仕事できないし、全体的に仕事量が少ないのよね。
「イネスターフライに気がつけなかったのは運がなかったですね」
「あれねー。まあ、万能じゃないってことで」
何でイネスターフライに気がつけなかったのか、というより気がつくのに遅れたのか。
色々考えた結果、この危機察知も魔法の一種なんじゃないかなーと。
あの蝶の鱗粉は魔力を狂わす。
私の危機察知は周囲に見えない魔法を飛ばしているんじゃないかなと。
それで鱗粉によってうまく働いてくれなかったとか、そういうやつ。憶測だけどね。
実際まだちゃんと調べてないけど、物凄く細い、髪の毛並みに細いけどしっかりとした魔力回路が頭部に刻まれてるみたいなんだよねえ。
女神様は本当にやめてほしい。私を実験動物かなんかかと思ってるんじゃないかな。
普通頭部に魔力回路は刻まないのよ? 危険だから。
女神様の魔力回路は薄くて細い。しっかり刻まれてるくせに存在感がない。だから気がつきにくい。
私の魔力を引き出したサイラス先生が爆弾の魔力回路に気がつかなかったのはこのせいだろう。
私も最初は気がつかなかったし。おかげで自分の身体なのにわからないことだらけだ。
頭部の魔力回路を解明できたら危機察知だけじゃなくて、周囲の探索にも使えるんじゃないかなとは思ってる。
まあいつかの未来の話よね。頭の魔力回路の分析ばかりは誰かに手伝ってもらうには危険だもの。
休憩を挟みながら散策や雑談をして過ごしていると、ウルフの群れを見つけた。
「群れか。ちょうどいい、全員で合わせてみるか」
セレニアが援護をしながら指揮を取り、前衛をエルシーナと私、クラリッサがセレニアを守りつつ遊撃という感じで立ち回ってみる。
剣を構えて左側のウルフを斬る。飛び掛かってくるウルフを避けながら首を狙う。
深入りしすぎないように気を付けながら目の前の敵を斬る。
時折後ろから風魔法が飛んでくるが、私の体の向きとは逆方向の敵を切り落としてくれるので、そんなに気にならない。
昔レオやフィンレーなんかと仲間がいる状態での立ち回りを修行したし、サイラス先生に頼んで後ろから魔法で援護してもらいながら剣で戦うのも何度かやってみたことがある。
そのときの経験はちゃんと活きているみたいだ。
エルシーナの姿を時折確認して立ち位置を把握する。近すぎず遠すぎず、すぐにサポートに回れる範囲で戦う。
まあ私がサポートするような事態が起きることはないだろうけど。むしろ逆よね。
複数での戦闘は久々だし、こんなに囲まれたのは初めてだから結構大変だ。
慣れていかないといけないけど、この後二年も一人で戦い続けて大丈夫かな。
再会するまでに一人での戦闘に慣れてしまうかも。
「この量のウルフの解体は骨ですね」
残ったのは大量のウルフの群れの死骸。
クラリッサのぼやきに全面同意して全部燃やしたいけど、お金になるんだからちゃんと解体しないと。
誰もケガをしていないのは連携がそれなりに上手くいったからだろうか。
でも、私はまだまだ足を引っ張っている立場だと思う。もっと修行をしないと。
「全員でやればなんとかなる。さっさとやるぞ」
「はーい」
「うぇー。疲れたよ」
エルシーナが不満げだ。私だって少し疲れたけど、この死骸の山の横で休むのは嫌なので、さっさと取り掛かる。
クラリッサも嫌そうにしながらもナイフを持って一匹目に取り掛かっている。
セレニアは先に埋めるための穴を用意するようだ。土の魔法も使えるのかな?
「セレニアって何属性使えるの?」
「四属性使えるぞ」
「へぇー。エルフってやっぱり魔法が得意なんだ」
四属性か……案外四属性使える人多いな? サイラス先生に続いて二人目じゃないの。
やっぱエルフは才能あるんだな……なんて思っていたら、どうやら違うらしい。
「エルフは魔力量は多いが、才能はまた別だ。適性のないやつは全くない」
「そうだよ。わたし強化魔法以外使えないし」
「わたしも回復と水しか使えませんよ」
「え、そうなの?」
あらまあ、意外な事実。魔力量が多いのに魔法が使えない人もいるんだとか。
エルフでも才能の違いが出ちゃうんだね。
「リアは何が使えるの? 背負ってる杖は風と水だよね」
「えっと、私も四属性使える」
「ほぅ。リアは才能があるな。後で後衛も試してみるか」
「下級杖でいいなら」
さっきセレニアが使っていたのはおそらく中級以上、上級に届くかもってくらいには強力な杖だった。
あれに比べたら私の持っている杖じゃできることなんてたかが知れてる。
「いいさ。前で戦ってるエルシーナになるべく当てなければ。エルシーナなら避けられる」
「過度な期待をかけないで」
「大丈夫ですよ。ケガしたら治しますから」
「わかった」
当てないでよ!? って顔しながら見てくるエルシーナに曖昧に笑っておく。たぶん大丈夫。
ただエルシーナの動きが速いから慣れないと怖いかも。
「んー、疲れた」
「お腹もすきましたね」
「そろそろ戻ろうよ……」
「全く……まあいいか。街に戻るぞ」
半日ずっと動き回ってた気がする……いやちゃんと休憩もとったけどさ。
そのおかげで今日だけでだいぶ息が合うようにはなってきたかな。
今日は夕食を寮では取らず、この三人と一緒に食べることにしている。ちゃんとディーナさんには伝えておいた。
さっき狩りまくった魔物たちをお金に換えたおかげで食費に心配はない。
ちなみに私は魔道袋を持っていないので、三人が持っている魔道袋に解体済みの魔物たちを入れてもらった。やっぱり欲しいなあ。
三人行きつけのおすすめのお店で、食事をしながら談笑する。
「そういえば、リアさんは学校で何を学んでいるんですか?」
「言ってなかったっけ。魔力回路について勉強してるよ」
「なんと! それは本当か!」
クラリッサの質問に答えたら、セレニアがめっちゃ食いついてきた。
そういえばこの人、魔法とか魔道具とかが大好きなんだっけ。
「え、あ、うん」
「そうか、リアは魔力回路の良さがわかるか! 素晴らしい。これは良い仲間が入ったな」
「喜びすぎでしょ……」
エルシーナの呆れ具合を見るに、この反応はよくあることなんだろうか。
「やはり腕が原因なんですか?」
「ううん。腕に気づく前から勉強したいって思ってたから」
クラリッサが腕とぼかしてくれることにありがたさを感じながら答える。
学校通いたいなーと思ったのは、自分で魔法や魔道具を作りたいと思ったからだ。
「いつか自分で魔法や魔道具を創ってみようと思って」
「わかるぞその気持ち……私も同じことを思っていた。いや、今も思っている。よし、飲もう。こんなめでたい日には酒だ!」
「え、いや、お酒はちょっと」
断る前からお酒が注文されていく。あかん。まだこの世界でお酒を飲んだことないんだけど。
この世界にお酒を飲むのに年齢制限はない。なにせ明確に成人年齢がないんだから。
だから飲んだとしても咎められることはないんだけど……。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「この二人は大のお酒好きですから、諦めた方がいいですよ」
「うわぁ……」
クラリッサが遠い目をしながら私にそう言い、お酒の入ったグラスを傾けている。
セレニアとエルシーナは一杯目を一気に飲み干した。大丈夫なのかな。
どうやら私に気を遣ってお酒は控えるつもりだったみたいだけど、テンションが上がって頼んでしまったようだ。
どう考えてもさっきの会話のせいですね!
「いつもこんな感じなの?」
「ええ、いつもこんな感じですね」
目の前には急ピッチで飲み始めたセレニアとエルシーナが潰れてる。早くない?
まあおかげでお酒をほとんど口にすることはなかったけど。
「大のお酒好きですけど、別に強いわけではないんですよ。エルフは体質的にお酒にはあんまり強くないみたいで。もう少しゆっくり飲めばこうはならないんですけど」
「そうなんだ……大変だね」
「これからはリアさんにも、この大変な二人のお世話をしてもらいますけどね」
「あーそうだよねぇ」
これを宿に連れ帰るんだもんね。大変だ。
というかこんな美人二人が店先で潰れてたら危険すぎるでしょ。
「お店で潰れられると迷惑なので、宿以外では飲ませないことにしてますけどね。こんなのは今日だけです」
「そっか。危ないもんね」
「その辺は二人も弁えてますよ」と言いながら、お店の支払いを終える。
ある程度予想していたのか、今日の報酬金はクラリッサの魔道袋に入っていた。今まで苦労したんだろうなあ。
クラリッサが二人を抱えて外に出る。
「回復魔法って酔いには効かないの?」
「効く杖もありますよ。回復魔法にもいろいろ種類がありますから」
そりゃそうか。ケガを治す杖と毒を消す杖は別物だ。
クラリッサが持っていた杖はケガに効く杖だった。もしかしたら酔いに効く杖は持っていないのかもしれない。
わざわざ気持ちよく酔っているのに覚ます必要もないから使わないだけかもしれないけど。
二人が少しグロッキーそうなのは見なかったことにしよう。
「それではまた後日お会いしましょう」
「うん、またね。一人で平気?」
「慣れてますから」
そういって去っていく後ろ姿がカッコよく見える。抱えてるのは酔っ払いだけど。
私は明日学校なので、あまり遅くまでいられない。
申し訳ないが後はお任せして寮に帰ろう。




