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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第2章 王都学校編
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第30話 幸福な運命

 注文も終わったので改めて昨日のお礼を言った。

 こう向き合うと、美女度がすごすぎて緊張してきた。声が震えそうだ。深呼吸だ、深呼吸をしよう。

 よし、大丈夫。


「昨日は助けていただき、本当にありがとうございました」


 座りながらだけど、頭を下げる。

 この人達がいなければ死んでいたかもしれない。引き際を間違えるなと師匠に言われていたのに。

 私は自分の力を過信していたんだろう。


「どういたしまして。身体の具合はどうだ?」

「おかげさまで元気になりました。治療までしていただいて……本当に助かりました」


 回復魔法と口に出していいものかわからないので、軽くぼかした言い方をしておいた。


「お気になさらず。無事でよかったですね」

「それと…あの時は剣を向けてしまい、申し訳ありませんでした」

「あの時は安易に近づいた私たちにも責がある。気にしなくていい」


 巻き込まないためとはいえ剣を向けたことに変わりはない。

 気にしなくていいと言われたが、こればかりは忘れないようにしておこう。


「ありがとうございます。それでもキチンとお礼をしなければこちらの気が済みません。何かあれば何でも仰ってください」


 何でもなんて言ったらあれだろうけど、この人たちなら何されてもいいかなって思っちゃう。

 美人なんだもん。美人なんだもん!!


「早速お願いしたいことがあるんだが」


 待ってましたと言わんばかりにセレニアさんが若干身を乗り出しながら食いついてきた。

 おうおうおう別に逃げませんて。


「あはは。これだったりします?」


 そう言って両手をひらひらと振る。昨日何となくこの手の魔法……爆弾を作る魔法のことが気になってる風な会話をしていたような気がする。

 もし違ったとしても、口止めしておかないといけないからね。


「気が付いていたか。それなら話が早い。是非、調べさせてもらえないか」


 セレニアさんは若干声を上ずらせながら期待で表情を輝かせている。そんなにか。


「他言無用にしてくれるなら、まあいいですけど」

「もちろんだ」


 嬉しそうに即答される。それならいいかな。

 あんまり教えない方がいいのかもしれないけど……恩人の頼みだしね。


「でも、こういうのってすぐに終わるものですかね?」


 正直、この腕に刻まれた魔力回路は複雑怪奇だ。

 一度魔力を通しながら探ってみたことがあるが、無駄のないキレイな術式だし、使われているものは学校で勉強しているものと何ら変わりはないように思える。

 ただ、本当にわからない。いきなり行先を180度変えられるような意味不明さが長々と続いた魔力回路だ。

 これを私一人で分析しようとすれば、それこそ数年単位かそれ以上かかるだろう。


 もしエルフにこういう魔力回路を一瞬で理解できるような秘術でもあるというなら構わないけど、そうじゃないなら長時間の拘束になるはず。

 これからまだ半年学校に通わなければいけないのに、いくらお礼とはいえそれはちょっと応じられない。


「魔力回路図はやはりないか」

「ないですね」


 魔力回路図、そのまんま、魔力回路を紙にペンで書き写したものだ。まさしく電気回路図。


「それを刻んだ人物に会うことは?」

「ちょっとセレニア」


 セレニアさんの言葉をエルシーナさんが止めようとする。なんかチラチラと気にされてる? 


「ええと……それは無理、ですね」

「あの、無理しなくていいからね? 嫌なら嫌って言っていいよ」


 何故かソワソワしたような、落ち着かない様子のエルシーナさん。どういうこと……?

 見ればクラリッサさんも不自然なほど静かで。あれ?


 ……………………ああ。そういうことか。


 どうやら無理矢理刻み込まれたもので、嫌な思い出があるのではないかと思われているわけね。そりゃそうか。

 これは女神様からの贈り物……と言えば聞こえはいいけど、拒否したのに無理矢理刻み込まれた物騒な代物……という言い方でも何にも間違ってないのよね。

 間違ってないんだぞ女神様。


 少なくとも、こんな子供に刻む魔法ではないだろうと思われるのは当たり前か。

 だがしかし、そんな勘違いをされても困る。訂正しておこう。


「えっと、大丈夫ですよ。入手方法は話せませんけど」

「そう? ……ならいいけど」


 この人たちは本当に優しい人たちだなぁ。

 こんなものがお礼になるなら喜んで渡すのに。急ぎだというのなら切り落としても構わないよ。

 これ、切り落として回復魔法で腕を治したら爆弾の魔力回路も元通りになってそう。呪いみたいだな。


「ふむ、図面もなし、作り手の情報もなし、ならば直接魔力を流すなりして地道に分析していくことになるが……」

「正直、すぐに分析できるようなものではないと思いますよ」


 セレニアさんの知識量が私とは比べ物にならないくらい優れていると仮定しても、結構かかるんじゃないかな。


「少しだけ、少しだけ今見せてもらえないか?」


 なんというか、おもちゃを前にした子供のような、興奮や好奇心を抑えきれていない様子がものすごく伝わってくる。

 美人さんだけど、こういうところは少し可愛らしいな。


「いいですよ」


 素直に手を差し出したところ、セレニアさんは両手で丁寧に持ち、じっくりと観察を始める。

 そして微かに魔力が流されているのがわかる。

 魔力回路は入口と出口が決まっているので、この状態で魔法が突然発動することはない。なので安心しておとなしくしている。

 ていうか、他人の人体に刻まれた魔力回路に魔力を流したら魔法は発動するのかね。

 これが杖なら発動するけど、身体強化なら発動しないはず。

 この腕はどっちなんだろう。

 予想はできても当たっているかは不明だし。何にもわからないって怖いし不便だね。


「これは……すごいな」

「わかるの?」

「さっぱりだ」


 ええー? とエルシーナさんが声を上げる。私も期待したけど、ある意味期待通りで苦笑した。セレニアさんが「ありがとう」と言いながら手を離し、言葉を続ける。


「これは研究のし甲斐がある。是非ともゆっくり調べてみたい。だが予想通りかなり時間がかかるな」

「どれくらいかかりそう?」

「軽く数カ月、長ければ年単位かもしれん」

「そんなに……」


 三人で話し合いをしているので口を挟まずに待つ。

 そんなにかかるならどうしようかな。少なくとも半年は学校に行くから時間は取れない。

 卒業後は一度ガリナに帰らないといけないし、その後まだ未成年という立場の私を両親がどう扱うか。

 少なくとも十五歳になるまではガリナから出してもらえるかどうか……。


「リア、この研究には君の協力は必要不可欠だ。だが君にも都合というものがあるだろう。今すぐ私たちについてこれるほどの自由はあるかい?」

「申し訳ないですが、無いですね。昨日は冒険者として活動してましたけど、普段は学生なんです」


 それから、卒業まで半年あること。

 今十二歳なので卒業後は親元に一度戻らないといけないこと。

 私自身は冒険者として生きていきたいこと、親がそれに賛同してくれるかはわからないけど、十五歳には家を出ることを考えている……などを話した。


「そうか、学生だったのか。半年後……も無理そうだな。だとしたらあと二年半といったところか」

「そうですね……お礼をしたいと言い出したのはこちらなのに、申し訳ないです」

「そんなに気にしなくていいよ。セレニアの好奇心より学校や親の方が大事でしょ」

「そうですよ。私たちはエルフですから、数年くらいあっという間です」


 エルシーナさんとクラリッサさんが慰めてくれる。気遣いが嬉しい。

 それにしてもエルフは長寿だと聞いたけど、どれくらい生きるものなんだろうか。

 この人たちは前世を含めた私よりもずっと年上なのかな。女性に年齢を聞くような真似はしないけど。


「ただ、私たちもずっとここに滞在するわけにもいかないからねー……」

「そうだな。まあ、二年半後に戻ってくるというのでも構わないが」

「皆さんって冒険者なんですか?」

「そうですよ。全員ランクはCです」


 ランクC! 父と同じか。うーん、私と彼女たちの間には実力差が随分とあるかもしれない。

 Fランクの私じゃ確実に足手まといだな。


 待てよ? これは冒険者パーティに同行させてもらう口実になるんじゃないか?


 毎日四六時中張り付いて研究するわけにはいかないだろうし、長期間一緒にいることにはなるだろう。

 その間生計を立てるために冒険者として活動しなければいけないし、そうなると同じ立場として同行させてもらう方が気持ち的には楽だ。

 美人さん達と一緒にいられて私も嬉しい。


 今の私はFランクだけど、二年あればもう少し上げることはできるだろう。

 両親もCランクの冒険者とパーティを組むって言えば少しは安心してくれるかもしれない。


「あの、これの研究が二年半後になっちゃうことは了承してくれるってことでいいんですか?」

「ああ、構わない。合間合間で研究するよりも、二年半後の方がじっくりできるというならその方がこちらとしてもいい」


 少なくても待ってはいてくれるそうだ。頼んでみるか。


「あの、図々しいかもしれませんが、お願いがあります」

「言ってみるといい」

「二年半後、私を皆さんの冒険者パーティに同行させてほしいです」


 心臓がドキドキする。さすがにそこまでは考えてなかったりするかな。

 でも私みたいな弱いお荷物を抱えたままというのは、向こうとしても冒険者として生きていくのに困るだろうし……。


「構わん。というか、むしろこちらから願い出るつもりでいた」

「え、そうなんですか?」

「ああ、一緒にいる時間が長くなるだろうからな。対等な関係でいられるのなら、その方がいい」


 見るとエルシーナさんとクラリッサさんもうなずいてくれている。

 良かった、向こうも同じ考えに行きついていたようだ。

 まさかこんな……美人に囲まれて旅に出ることになるとは。

 そんな妄想みたいな出来事が現実になるなんて。嬉しいけど今から緊張して吐きそう。


「ありがとうございます! それまでに足手まといにならないよう精一杯努力します」

「ああ、無理はしないようにな」

「ふふ、これからよろしくね、リア」

「よろしくお願いします、リアさん」

「はい!」


 ふおお……今日までの不幸は全てこの瞬間のためにあったんじゃないかってくらいの幸福に満たされてる。

 今ならさっき会った男にも笑顔で挨拶できそう。……絶対勘違いされるわ。落ち着こう。


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