第26話 出会い
一時間前にも一話投稿しています。
冒頭だけ新キャラの視点になります。
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ドォン!!
「何今の音?」
「最近この森ではあの音がたまに鳴るらしい。しかしもっと小さい破裂音だったと聞いたが」
「新しい魔物ですか?」
「いや、そのような魔物は発見されていないそうだ。冒険者の武器の音じゃないかと言われている」
ふーん。武器かあ。新しい魔法とかかな。
「魔法かな?」
「可能性はあるな……よし、見に行くか」
「仮に魔法だったとして、見せてくれるわけがないと思いますけど」
他人に自分の愛用武器を見せる人なんていないでしょうね。
「それでも、だ。何か新しい魔法を思いつくかもしれん」
「ホントそういうの好きだよね……いいけどさ」
「仕方ありません、急がないと居なくなってしまいますよ」
確かに行ってみたら居なかったじゃつまらない。行くなら急ごう。
「! 待って」
「む……イネスターフライの鱗粉か」
音の方へ向かってみると、酷い量の鱗粉が地面に落ちている。エルフであるわたしたちが、これを吸ったら無事じゃ済まない。
「本体は居ないみたいだな。倒されたか、獲物を喰って逃げたか」
「鱗粉も地面に落ちてるだけですね。そのうち消えるでしょう」
あれは一度だけ吸ってしまったことがある。あの辛さは二度と味わいたくない。
あれ?
「誰かいるの?」
「む? あれは……人か?」
「倒れていますね。大丈夫でしょうか」
もしかしてイネスターフライにやられたかな。
鱗粉を舞い上げないように慎重に歩いて近づく。すると子供が血だらけで倒れていた。
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「ちょ……大丈夫!?」
誰だ? 知らない人だ。よく見えない。ダメだ、近づいて来ないで。まだ身体が言うことを聞いてくれない。
「う、あ、ちか、近い、ダメ」
「どうやらかなり鱗粉を取り込んだようだな」
他にも人がいる。三人? 声からして女性かな。なんで近寄ってくるの。私の声は届いてないの?
「この左手……酷いですね。治しますか?」
「ふむ……見つけてしまった以上仕方あるまい。治してやれ」
なおす?
何をする気かと思っていると、杖を私の左手に向けてきた。
すると、じんわりと手が温かいものに包まれる。もしかして、回復魔法?
手から痛みが少しずつ引いていく。
引いていく、そのせいで、気が抜けていく。緩んでしまった、まだ、鱗粉の効果は消えていない。
途端、両腕の魔力回路を魔力が駆け上がっていく。
「うあああ!!」
「な!?」
今にも目を閉じて眠りにつきたくなるような温かさを払い除け、落ちてた剣を掴んで横に薙ぎはらう。まともには振れなかったけど、十分だ。
この人たちは手練れだ。この程度避けるなんて造作もないだろう。
案の定、私と彼女らに距離ができる。あとは、多少なりとも抑え込めれば被害は届かずに済むだろう。
「ちょっと! 治療してたのに何するの!」
「近寄るな!!」
一人に咎められるがそれどころではない。
両手に爆弾が生成される。この小ささならあの三人には届かないだろうけど……。下手に放り投げることもできない。せめてだ、握りしめておこう。
「!? エルシーナ! 離れろ!」
バァン!
「ぎああぁぁぁぁあ!!!」
さっきより弱い爆発が手のひらの中で起こる。握りしめていたから私の手はボロボロだ。指が吹き飛んだかもしれない。
「う、ううぅ……」
痛い。もう涙が止まらない。これ以上叫ばないように歯を食いしばる。またここに誰かが来たら困る。ツライ、このまま気絶したい。
「さっきの音って……今のやつ? 何なのあれ……」
「わからん。見たこともない。今わかることは、このまま鱗粉の毒が抜けなければ彼女は死ぬということだ」
まだいたのか。危ないやつってわかったんだからどこかに行けばいいのに。あと勝手に殺さないでほしい。
「手に魔力回路があるのか? 興味があるな――死なせるには惜しい」
女性が近づいてくる。なんだろうか、危険だから来ないでほしい。
「これを飲め」
無理矢理口を開けられ、液体を飲まされる。むせそうになったが、どうにか飲み干した。苦い。
すると、今まで荒れ狂っていた魔力が落ち着いてくる。視界の暗さはそのままだが、気持ち悪さは治まった。
ただ、手は変わらず痛い。むしろ気持ち悪さに意識が行かなくなった分、痛みが増した気がした。なんだか顔も痛い気がする。
「クラリッサ。治療してやれ」
「ここまで酷いと完治は無理ですが……やれるだけやってみましょう」
先ほど治療してくれていた女性の杖がまた向けられ、温かさに再度身体を包まれる。
これは眠くなるな……。ここで寝るわけにはいかないけど、瞼が重すぎる。
「セレニア、そろそろここを離れた方がいいと思う」
「そうか、仕方ない。君、歩けるか?」
もう一人は周囲を警戒していたらしい。
ぼんやりしていたが、私に話しかけていると気が付き、慌てて返事をする。
「え、えっと、大丈夫、かと」
治療が終わったのか、杖が離れていく。
両手共に指や骨は元通りになったようだ。未だにボロボロではあるけれど、骨が見えなくなっただけマシだろうか。
そんな両手を地面につく気になれず、手の甲を上手く使い立ち上がる。
ふらふらするし、視界が暗い。これはおそらく貧血だろう。子供体型にあの出血量はよろしくなかったらしい。
その後、肩を貸されながら歩き、ようやく森から抜け出した。
「あの、助けてくれて、ありがとうございました」
王都の中に入りお礼を言う。あの後も周囲の警戒やらなにやら、いろいろ助けてもらってしまった。
更に応急手当をしてくれて、両手を包帯で巻いてくれた。ありがたい。
「いーよ。それよりちゃんと神殿で診てもらった方がいいと思うよ」
「そう、します」
視界は依然として暗いが、ちゃんと顔を上げれば相手の姿を見るくらいはできそうだ。
どうやら三人はエルフのようだ。特徴的な長い耳が見える。
しかも結構な美人。こんな時でなければかなり舞い上がっていただろう。それくらいの美女たちだ。
特に今話しかけてきたエルフは今まで会った中でもずば抜けている。絶世の美女とはこのことか。
「あの、後日キチンとお礼をしたい、のですが、明日にでも会えませんか」
話すのもしんどい。このままぶっ倒れて寝たい。でも会う約束をしておかないと、この広い王都で約束もせずにまた会える確率は低い。
「そうだな。明日また会おう。その様子じゃ早く休んだ方がいい」
「すい、ません」
明日の午後に会う約束をし、別れた。家まで送ると言われたが、さすがに断った。
歩くくらいは一人でもできそうだ。
昼を過ぎたころ、寮へとたどり着いた。
見た目が酷いのか、注目を集めていたように思う。
森に入ってから数時間と経たずにあの蝶と戦闘したから、まだ日中だ。それはそれは目立っただろう。警備兵とか呼ばれなくて良かった。
「あれ? リアもう帰って……どうしたの!?」
「あー……ライラ。ただいま……」
「おかえりって言ってる場合じゃないでしょ! 血だらけじゃん!」
「仕事でヘマした」
「て、て、手当! ディーナさーん!!」
寮に入って玄関に座り込む。眠い。このまま寝たい。
ライラが大声でディーナさんを呼ぶ。
寮にはライラとディーナさんだけかな。マデリーンさんはいそうだけど。メリッサさんとナターシャさんはいなさそう。あんまりライラ以外とは親しくできてないんだよね。挨拶程度だ。
「ねむい……」
「あらあらリアちゃん大丈夫?」
ディーナさんが駆け足で近寄ってきたけど、声に慌てた様子はない。
「軽く治療はしてあるので……ねむいです……」
「そうねぇ、ここじゃできることもあんまりないけど……消毒ぐらいしておきましょうか。部屋まで歩ける?」
「なんとか……」
フラフラ歩き出した私を見かねたライラに手助けしてもらいながら自室に向かう。ディーナさんは治療道具を取りに行ったようだ。
「ライラ……」
「何? 何かしてほしいことある? なんでも言って?」
「今日ものすごい美人さんたちに助けてもらった……嬉しくて昇天しそう」
「この状況じゃ洒落にならないんだよ! ああもう、心配して損した気分……」
別にもうケガは平気なのだ。治っちゃいないけど、回復魔法のおかげで出血は止まっているからね。
流れた血がそのままなだけだ。痛いことに変わりはないんだけど。死ぬほどじゃない。
「明日の午前中に買い物に行こうね」
「行けるのこれで?」
「神殿にも行かないといけないし、午後は助けてくれた人たちにお礼に行かないと」
「……無理しないでね」
心配かけて申し訳ないけど、まだ昼間だから今から寝てしまえば明日の朝には元気だろう。
自室のベッドまで運んでもらった後、そのまま寝た。寝たというより気を失ったのかもしれない。




