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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第2章 王都学校編
25/212

第25話 天敵

残酷な描写があります。ご注意ください。

 

「では始め」


 一斉に紙をめくる音がする。

 入学してからおおよそ半年。今日は定期試験の日だ。

 実技ではなくペーパーテストを行っている。

 魔力回路についてどこまで理解できたかを確認するためのテストで、前期の集大成をここで発揮するのだ。


 このテストで最低八割の点数を取れれば合格。それを超えないと、後期の実技の授業が受けられない。

 実技は実際に術式を自分で刻んでみることができる。ようやく本格的な魔法創りに入れるのだ。

 合格できなかった者は退学……なんてことはなく、もちろん救済措置があるが、他の生徒よりも遅れをとることは間違いないだろう。

 この日のために最近の休みは勉強ばかりで冒険者として活動できていないんだ。しっかりいい点取って次に繋げていこう。




「リア! 試験どうだった!?」

「大丈夫だと思うけど。ライラは?」

「たぶんなんとかなった!」


 試験が終わり、今日は授業は行われないので二人で寮に帰る。


「最後の問題が引っ掛けだったねー」

「そうだね。ちゃんと復習してなかったら引っかかってたかも」

「ホントにねー! ちゃんと八割超えてればいいなあ」

「あとはもう祈るしかないね」

「そうだ、リア、休みの予定は?」


 明日明後日は採点をするためか、学校はお休みなのだ。ここに来てから初の連休だ。


「うーん。お仕事行こうかな」

「冒険者だっけ? 大変だね」

「好きでやってるから平気。ライラの予定は?」

「買い物に行こうかな。確かナイフを持ってくるように言われたよね」

「ああ、刻む用の」


 魔力回路を作るために刻む術式、これは別に特別な道具が必要なわけではない。

 さすがに紙とペンでは無理だけど、木の板とナイフ、魔石があれば即席で簡単な魔道具が作れるのだ。

 木の板にナイフで術式を刻み、魔石をセットするだけ。簡易懐炉くらいにはなる。


「後期の授業は実技だもんね」

「まあ試験に合格したらだけどさ。でも使うし買いに行かないと持ってないから」

「そっか。私も買いに行こうかな」


 ナイフは持っているけど、解体用とか護身用とかの類なので、授業で使うにはちょっとね。


「じゃあ一緒に買い物行こ! 明日でも明後日でも!」

「んー、明後日でいい? 明日はお仕事してくるから」

「いいよー。でもちゃんと体力残してきてね」

「気を付けます」


 冒険者として活動した日は非常に疲れているので、次の日たまに寝坊してライラに叩き起こされる。

 目覚まし時計なんて便利なものはないのに、疲れている人はどうやって起きているんだろうか。不思議だ。







 ――マズイ




 ――マズイ




 ――死ぬ!




「うぅぅあああああ!!!」





 ――数十分前




「ジャイアントベアーはギリギリだけど勝てない相手じゃない。ビッグボアもまあ速いだけで熊より柔らかいし問題なし。擬態する魔物も危機察知のおかげで余裕」


 今日も森を歩く。さてさて何に出会うかな。

 そろそろ低級魔物じゃ物足りなくなってきた。でもこれ以上強い魔物と戦うには武器がちょっとなあ。


「荷物の多さもちょっとね……まだ魔道袋まで届かないんだよなあ」


 目標金額までもう少しだろうか。お金が貯まるまではこの辺りの魔物で稼がないとダメだね。


「大きい魔物はお金に――!?」


 なんだ!? 

 危機察知が反応してる……何が来てるのかわからないけど、これはダメだ! 逃げないと!


 安全だと思われる方向へと走り出した、が、遅かった。

 空からキラキラと粉のようなものが落ちてきた。

 吸ってはダメだとわかって息を止めるが、すぐに身体に変化が訪れた。


「う、あ。きもち、わるい」


 足が止まる。めまいがする。身体が熱い、手足が言うことを聞かなくなる。身体がガクガクと震え、今にも倒れこみそうだ。どうにか気合で立っているが、動くこともままならない。

 ブーンと翅の音がする。虫だ。この粉は鱗粉だ。これを出す魔物を図鑑で見たことがある。

 魔法使いの天敵。


「イネスターフライ……」


 優に五十センチを超える馬鹿でかい蝶だ。気持ち悪い。


「く、そ。剣、剣を……」


 視界がぐるぐる回るが、なんとか立ち上がろうとする。

 イネスターフライ自体はそこまで強くない。剣で斬れば一撃だろう。殺さないと。


 剣を握る――どころではない。


 この魔物が魔法使いの天敵と言われているのは、この鱗粉の効果にある。

 この鱗粉には毒が含まれており、触れてしまうと――


「う、あ、あ、ダメだ、これはダメだ、動くな、動くな」


 ――体内の魔力を操作できなくなるのだ。


 魔力量が多いほど、この鱗粉はよく効く。それは私にも例外じゃない。

 通常の魔法使いなら魔法が使えなくなり、めまいや気持ち悪さでぶっ倒れるくらいで済むだろう。

 一人でいれば喰われるだろうが、周りに人がいれば助かるはずだ。


 今の私のそばには誰もいない。かなりピンチだが、そんなことはこの際問題ではない。


 ――体内の魔力が、腕の、爆弾を生成する魔力回路を通ってきている。


 この魔力を通せば間違いなく腕ごと吹き飛ぶ。それは避けないと。でも思うように魔力が動かない。

 私があがいているからか、イネスターフライは近寄らずに鱗粉を撒き続けている。このままではいつまで経ってもこの状態のままだ。

 普段ならこんなところにいる魔物じゃないのに。油断した。


「うぐぐ……うわ!」


 パン!


 少しだけ通ってしまった魔力で爆弾が生成された。かなり小さかったので被害はないが……音が響いた。

 これで他の魔物まで来たら確実に死ぬ。


 こうなったら、左手は捨てよう。これであの魔物を殺して鱗粉の効果が消えるのを待つしかない。

 時間はない、これ以上鱗粉を吸ったら飛び掛かることもできなくなる。


 気力を振り絞り、右手の魔力を全力で制御、左手を少し意識から外し、立ち上がる。

 剣を拾い、イネスターフライに向かって投げる。


「うぅぅあああああ!!!」


 その剣を避けるイネスターフライに向かって走り出し、飛び掛かる。

 左手に生成される爆弾をイネスターフライに押し付けるように放り投げる。


 ドォン!!


 左手の先で爆発が起きた。






「ううぅぅぅぅぅぅ!!!」


 痛い、痛い、痛い!

 想像していたよりは弱い爆発だったけど、魔物は爆散したし、私の左手の被害も酷い。

 原型は留めているが、皮も肉も弾けた。骨が見えていそうだけど、見たくない。

 血が酷い、焦げた臭いがする。これは私の手なのか。やっぱりこんな恐ろしい物貰うんじゃなかった。


「ううう……。にげ、にげる。離れ、ないと」


 この状態で魔物が来ても戦えない。倒れているから地面に落ちた鱗粉を吸ってしまっている。このままじゃ意味がない。

 痛い、気持ち悪い、苦しい、ぐらぐらする。

 魔力はまだ暴れ回っている。油断はできない。早く森から出よう。


「剣、剣は……」


 そういえば放り投げたんだ。拾っていかないと。

 魔法が使えない今、無いと身を守れない。


 無事な右手をついて立ち上がる。めまいで倒れそうになるが、辛うじて踏みとどまる。一歩一歩確実に進み、剣を拾いに行く。

 剣を拾うために屈み、身体を支えきれずそのまま倒れる。あまりにもしんどい。もう諦めてしまいたい。動け身体。



「誰かいるの?」



 声が、聞こえた。



この程度の描写なら前書きの注意はいらないですかね。

あらすじにも書いてありますし、今後は注意書きはしないかもしれません。

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