第24話 魔力回路
告白イベントが連続で発生していたけど、最近少し落ち着いてきた。
断り続けてきたからか、ライラの言う通り告白しても無駄っていうのが周知されていったのかもしれない。それでも零にはなっていないんだけどね。
まさかこんなに自分がモテるだなんて思わなかった。
確かに美少女だけどさ、中身とかももう少し見てれば残念なところが見えてくると思うんだけどねぇ。
大体の人が一目惚れって言ってたから外見しか見てないんだろう。
私くらいの美人だったらそこら辺にもいるけどなぁ。この世界の美的感覚でいうと違うのかね? 私にはみんな美人に見えるのに。
男からの好意は本当に無理だからやめてほしい。
生理的に受け付けないのよね。友達として接するのなら全然平気なんだけど、好意を伝えられると途端にダメになる。
正直なんでダメなのか自分でもよくわからない。
この間だってクラスメイトの男子と普通に仲良く会話していたら数日後に告白された。
それでも生理的に無理だったから断った。好意を伝えられると気持ち悪い。
友達としてなら何の問題もなく接することができるし、身体が触れ合ったって嫌にはならない。だからその一線を越えてこないでほしい。
この前まで仲良く会話していただけに嫌いになっていく自分が怖いし辛い。
自分ではどうにもならないことだから責められても困るし。
男女間の友情って成り立たないんだねぇ。
休み時間の告白イベントさえなければここは私にとって素晴らしい場所なんだ。
勉強したかった魔力回路について学べるし、わからないことがあっても教えてもらえる環境なんだから。
「魔法発動石は、立体的に組まれた魔力回路によってできています。昔ある鉱石に魔力を流したところ、魔法が発現したことから魔法発動石と呼ばれました。今日に至るまで広く普及され、今でも魔法発動石がなければ放出系の魔法を使用することはできないのです」
今日は魔法発動石について勉強している。
杖本体に刻んでいるのが平面型魔力回路、そこから魔法発動石と繋ぎ、その内部に刻まれた立体型魔力回路を魔力が通ることによって魔法が放出される、と。
燃費が悪いのも小さいものが無いのも立体的に刻まれているから……という認識で間違いないね。うーん。指輪型とかは無理そうなのかな。
立体型魔力回路はかなり高度な技術が必要らしく、刻める人は少ない。
平面型は表面に術式を刻んでいけばいいけれど、立体型は鉱物の内部にアリの巣を作るように掘っていかなければならない。
崩してもダメ、下手に穴を空けてもダメ、入口と出口の二つの穴から内部に迷路を作る。聞いただけで無理くさい。
やり方は人体に身体強化の魔力回路を刻むときと似ているそうだが、こちらは平面型魔力回路を身体の内部に刻むので、また別方向の難しさがある。
私の手に刻まれてるのはこの立体型魔力回路かもしれないな。
腕の部分にあるのが平面型魔力回路で身体強化と同じ刻み方だと思ってよさそう。
なんにせよ、この腕すごいね。
「魔力を流し、魔力回路を理解することは可能です。可能ではありますが、とても難しいことです。こればっかりはその人の魔力に素質がなければできません。今日は試してもらいますが、できなくても気落ちすることはありません。魔力を流し、刻まれた術式を理解してみましょう」
目の前には木の板がある。繋がっている先はランプだ。
つまりこの魔力回路には灯りを付けるための術式が刻まれているのだろう。
魔力回路の部分は隠されているので肉眼では確認できないけど。
魔力を流してゆっくりと進ませる。
んー……火属性の術式、魔力制御の術式、細分化の術式、乱雑に動かすための……なるほど、どうやら私の魔力には素質とやらがあるらしい。でも難しいな。
かなり集中しないとすぐにわけわかんなくなる。要練習だ。
これがあれば腕の中の魔力回路を理解できるかも。
杖に写して使える日は……来るだろうか。
「身体強化などの魔法を使うには、身体に直接魔力回路を刻むことで可能です。この類の魔法にも適性というものは存在しています。全身に施すだけでなく、一部分だけを強化することも可能です。この魔法は魔法発動石を使う必要はありません」
適性というのは自分の魔力でどんな魔法なら使えるかってことだ。
私なら現状四属性に適性がある。
未だにこの適性を調べる方法は実際に杖に魔力を通すなどの実践的な方法以外確立されていない。
身体能力が上がったら便利だよねきっと。適性あるかな。
身体強化の術式が刻まれてる防具というものがあるので、それで試してみるのもありだな。めちゃめちゃ高価だけど。
でも爆弾の魔力回路と一緒に使うことって出来るのかな。
ある日、寮で勉強していると私に客人が来た。
急いで玄関まで向かい、外に出る。
「サイラス先生!」
「おう、嬢ちゃん。元気そうだな」
そこには私の魔法の師、サイラス先生がいた。相変わらず元気そう。
「はい。サイラス先生もお元気そうで……いつもいつもすいません……」
「ガッハッハ! ほら、ジェームズからの届けもんだ」
サイラス先生は月に一回程この寮に訪れて父からの手紙や贈り物を持ってきて、私からの手紙を両親まで届けてくれる。
サイラス先生の予定を邪魔しない程度の頻度にしているとは思うけど、なんだか申し訳ないなあ。
Bランク冒険者をメッセンジャーとして使ってるって思うとかなりマズイ気がする。
私の様子を見るっていうのも兼ねてるかららしいけど、別にそこまでしなくてもちゃんと学校に通っているのに。
「それでな、次の手紙なんだが……」
「? どうしました?」
「悪いが、しばらくガリナに戻りそうになくてな。手紙はギルドにでも頼んでくれ」
「ああ、大丈夫ですよ。むしろその方が自然です。こんな面倒なこと断っていいんですよ」
「ガッハッハ! ジェームズの親バカっぷりは衰え知らずでな。会うたびに嬢ちゃんの様子を聞きたがるんだ」
サイラス先生に詰め寄る父の姿が目に浮かぶようだ。本当にやめてほしい。
でもサイラス先生のおかげか、未だに父がここに突撃してきたことはない。渡される手紙はとっても分厚いけど。
このまま卒業までガリナにいてくれるだろうか。
「王都で長期のお仕事ですか?」
Bランク冒険者だもんね。きっと指名で依頼とかも多いんだろう。
「いや、依頼でな、長期間王都からも離れるんだ」
「そうなんですか。気を付けて行ってきてくださいね」
「おうよ。嬢ちゃんも危ないことはほどほどにな!」
「う、気を付けます」
見透かされている。冒険者の仕事に関してはあんまり話してないんだけどな。
サイラス先生はいつものように豪快に笑いながら、私の頭をガシガシと撫でる。
「じゃーな、リア、がんばれよ!」
「え……」
いつものような豪快さの中に真剣な声色を含ませながらそう言い、頭から手を離し歩き去っていく偉大な私の師匠。
「名前……初めて呼ばれた」
なんだかいつもと様子が違う気がしたけど……そんなに難しい依頼なんだろうか。
「……だからって私に何ができるわけでもない、か」
私にできることは師匠の無事を祈ることくらい。あの人なら心配しなくても大丈夫だ。
主人公の恋愛観(?)は蛙化現象というものを参考にしています。




