第206話 どういうこと?
大変お待たせいたしました。
門番に冒険者プレートを見せながら話しかける。一応Cランクの冒険者、無下にはされないはず。
とは言え、私自身が姿を確認できていないため「怪しい人通りませんでしたか?」という曖昧な聞き方しかできない。
そして門番曰く、ここを通った人達はみんな身分証を見せて出入りしたそうだ。
見た目的に怪しい人というのは、判別が難しいのでわからないと。
基本的にローブやフード付きのマントなどで寒さや日差し、砂埃対策をして街から出て行くからね。顔が見えないなんてことはよくある。だから門番を責めるわけにもいかない。
「そうですか……ありがとうございました」
終始怪訝な表情だった門番から離れる。収穫無しである。
ただそうは言ってもね、すでにこの周辺には嫌な気配が無くなっている。あの濃厚な悪意の持ち主は街から出て行ったと見ていい。その際ここを通ってはいるはずだ。
門以外の場所を通るとなると、外壁を飛び越えることになってしまう。可能か不可能かは別として、こんな昼間にそんな姿を見せたら目立つなんてものじゃないだろう。
それに冒険者の身分証って正直信用できないんだよね。
私も冒険者だけど、あのプレート自体は冒険者に登録すればもらえるし、登録の際に別の身分証とか必要ないし。割と杜撰。
犯罪者ならちゃんと対策はされるんだろうけど、初犯だったらどうにもならない。憶測でものを言っても仕方ないけど、悪意の持ち主に犯罪歴がなかったら門の出入りなんてどうとでもなってしまう。
まあでも、見つけたところでどうにかできたのかと言われると、自信はない。街中で戦い始めるわけにもいかないし、下手に刺激して強力な魔法を使われでもしたら被害が大変なことになっていただろう。
姿くらい確認したかったけど逃げられてしまったし、ひとまず帰るか。仲間に一応報告しておこう。
門に背を向けて歩き出そうとした瞬間――
ゾクリ
「……!!?」
先ほどの酷い悪意がもう一度……いや、殺気だ、これ。
殺気が向けられている。他の誰でもない、私に。
「は、ぁ……」
呼吸が苦しい。冷や汗が止まらない。門の外へと視線を向けることだってできない。
こんな殺気、生まれて初めてだ。
フッと、向けられていた殺気が消える。ほんの一瞬だけだったはずなのに、まるで長い間ナイフを首筋に向けられていたかのよう。
いつバレた? なんでだ?
私は確かに追っていた、この殺気の持ち主を。でもその姿を確認することはできなかったのだ。見ていないんだから、見られてだっていないはずなのに。
門の傍からすぐに離れて移動を開始する。なるべく人通りの多い所を駆け足気味に進んで行く。大丈夫、もう見られてはいない。
狙いはなんだろう。
あんなに周りに悪意を振りまいていたんだし、てっきり無差別にテロでも起こすのかと思ってたんだけど……。
あんなに的確に、私だけに殺気を向けてくるなんて、そんなことあるのか?
例えその人物がテロの計画を企てていたとして、私に妨害されそうになったからと言って、あそこまでの殺意を向けるだろうか。そもそもバレたのかも謎。
今まで誰にも恨まれずに生きてきたとはさすがに思ってないけど、あんな殺意を向けられるようなことをした覚えは……はっきり言って全くない。
あるとしたら逆恨みじゃないかな。殺した盗賊の身内からとか。盗賊討伐自体あんまり経験ないんだけど。
「わかんないけど……嫌な予感がする」
駆け足気味だったのがいつの間にか走り出していた。なんだか足が落ち着かなくて、走っている方がマシになるくらいだ。
もう危険は迫っていないはずだけど、それでも安全な場所に行って安心したかった。
エルフたちになんて話せばいいんだろう。迂闊だと怒られるだろうか。でも話さないと余計に怒られそうだし、ちゃんと話そう。
エルフたちのいる自宅が見えてきても、不安が胸にまとわりついて離れなかった。




