第201話 ついに!
いつものように朝のトレーニングを行う。体力作り、筋トレ、体術の習得……そして剣術!
いつもと同じような毎朝のルーティン。これがついに変わり始めた。
「あー! あー! クラリッサ! クラリッサ!!」
「なんですか。人の名前を呼びながら喘がないでください」
「あえっ……! 喘いでないわ!」
家の庭でトレーニングの最中に、同じく庭にいたクラリッサを呼んだら、とんでもないことを言われた。
私も朝からデカい声出してたのは悪かったけど、喘いではいない!
「それで、どうしたんですか」
「見て見て!」
そうだ、そんなことはどうでもいい! それよりもこれを見てくれ!
見て欲しいものを指差して叫ぶ。
「斬れた!」
いつものように庭でトレーニングをして、アイアンゴーレムの欠片を剣で斬るための修行を続けていた。
そして今日ついに! 鉄の塊に私の剣が食い込んだ!
剣が鉄に当たった瞬間、何かいつもと違う感覚が手に伝わってきたのがわかった。
「あら、確かに斬れてますね……少しだけ」
……そう、少しだけ。
剣が鉄に食い込んだ瞬間、自分でも知らない感覚を感じてびっくりしたせいで、途中で刃が止まってしまったのである。よく折れなかったものだ。
鉄の塊自体が結構な大きさだったのもある。もっと細い、鉄の棒くらいにしておけば真っ二つにできたかもしれない。
なので、人の頭よりも大きな鉄の塊、これに刀身が完全に入り込んでいる状態で止まっている。
止まっているというか……。
「動かなくなっちゃったけど」
「あらまぁ。折れてしまいますよ」
前世で硬いカボチャを包丁で切ろうとして動かなくなったことあったなぁ。そんな状態。
「でもでもでも! 斬れたよ!」
「そうですね。おめでとうございます」
初めて鉄を少しとは言え斬ることができたのだ。これは素晴らしいことだと思う!
剣を握り始めてから……何年だろう。忘れちゃったけど、今までの努力は無駄ではなかった。
むしろ早い方じゃないかな。まだ十六歳だもの。若いのに鉄斬れたよ! 頑張ったよね!?
「これで私も剣士って名乗っていいんじゃないかな!?」
「別に今までも剣士だったでしょう」
「んん~……凄腕の剣士の横で、鉄も斬れない剣使いなんて、剣士とは呼ばん!」
「厳しいですね」
エルシーナという凄腕の剣士がパーティメンバーにいるのに、私みたいな未熟者が同じく剣士だなんて……恥を知れ! みたいな感じでしょう。
いやまあ、そこまでストイックに過酷な修行を自分に課してきたわけじゃないし、剣士って名乗ったときもあっただろうけど。
今は気分的にそんな感じだったのよ。ちょっと落ち着こう。
「ふー……うん。嬉しい。でもとりあえず取ろう」
「そうしてください。今度は全部斬れるといいですね」
「ふふー。一度斬れたんだし、きっと大丈夫!」
クラリッサが背中をポンポンと叩いて鼓舞してくれる。嬉しい。
剣を折らないよう慎重に外し、刃こぼれなどしていないか確認する。見た感じ大丈夫そうだけど、念のため後でちゃんと手入れをしておこう。
もうね、剣を何本も折っているので、魔道袋に剣をたくさん常備しているのよ。
私の稼いだお金の大半は剣に消えていっている。仕方がないとはいえ、それなりの出費である。
日々の稼ぎは結構多い方なんですけどね、私達。
「よし、もう一回!」
ひとまず他のことは後回しにして、剣を改めて構え直し、鉄の塊に狙いを定める。
もう一度、あの感覚を忘れないように。
ブォン!
ガキィン!
振り下ろした剣はいつも通り、鉄の塊に弾かれた。
「……うん、まあ、わかってた」
そう簡単にいかないよね。できたら苦労はしないのだ。
でも今日は剣士として大きな一歩を踏み出したはず。これからも毎日剣を振って、エルシーナのような凄腕の剣士になろう。




