第20話 寮と友
「じゃーな嬢ちゃん、学校頑張れよ」
「道中ありがとうね。頑張ってね」
「はい。皆さんもお気をつけて」
他の乗客とも別れ、久々に王都を歩く。
学校の入学試験を受けに来たとき以来だから、もう一カ月以上前になる。
入学試験はそう難しいものではなく、読み書き計算ができるのと、性格に問題がなければほぼ合格できる程度のものだ。
相変わらず賑やかな街中を通り過ぎ、学校まで歩く。すぐ近くに寮があるので、まずはそこへ向かいたい。
寮には入学式の五日前から入寮が可能だ。一日到着が遅れたので、四日後に学校が始まる。
「やっと着いた。すいませーん」
寮にたどり着き、おそらくいるであろう管理人に挨拶するため、声をかける。
さすがに無断で入るのはダメだよね。あ、フードは外しておこう。
「はいはい。あら、新入生かしら?」
「はい。リアと申します」
中から出てきたのはおっとりした壮年の女性だ。
私よりだいぶん身長が高いので見上げるような形になっている。
「リアちゃんね、可愛らしいわね。話は聞いているけど、念の為書類を見せてもらえるかしら」
「はい、どうぞ」
合格証明書と入寮許可証のようなものを予め渡されているのでそれを見せる。
管理人さんはざっと目を通してニコリと笑う。
「ええ、問題ないわ。ようこそ学生寮へ。私はここの管理人のディーナよ。よろしくね」
「はい。ディーナさん、これからよろしくお願いします」
ディーナさんに連れられて中に入る。年季の入った建物だが、清潔感があり、そこまで狭さを感じない。
入口入ってすぐにラウンジがあり、机とイスがあるので誰かと一緒に勉強するのにいいかもしれない。友達できるかな?
朝と夜は食事を提供しているので自由に食べていい。
お風呂は夕方から朝までなら入れる。
服は自分で洗う。外に干せる場所があるのでそこを使ってもいい。
などの説明をされながら部屋へ案内される。
部屋は個室だ。ベッドと服を仕舞うクローゼットくらいしかないが、それ以外は寮内にあるので必要ない。
でも部屋に机もイスもないのは不便かな。ラウンジを使えばいいか。
ちなみにここは女性寮なので、入寮する人は全て女性だ。
「ここが貴女の部屋よ。中にあるものは自由に使ってね」
「はい」
「それじゃあ、私はこれで。何かあったら声をかけてね」
「私以外にすでに入寮している人はいるんですか?」
「いるわよ。部屋にいると思うけど、夕食時には出てくるんじゃないかしら。ああ、寮から出るのは勝手にしてくれて構わないけど、夜更けには鍵をかけるから、それまでに戻ってきてね」
「わかりました」
「外泊する際は事前に伝えて頂戴。それじゃ」
「ありがとうございます」
ディーナさんが出て行ったので、荷物を降ろし、ベッドに座る。さすがに疲れたけど、まだお昼時だ。寝てしまうには早い。
鞄から服を取り出し、クローゼットに仕舞う。
荷物は服と、軽めの日用品だけだ。勉強するための道具がほとんどない。
「インクが漏れたら困るから持ってこなかったんだった。買いに行こう」
お腹もすいたし、買い物と食事を済ませに行こう。
食べ歩きでお昼ご飯を済ませ、一通りのものを購入して寮に帰る。王都が広いせいで移動するだけで時間がかかってしまう。
寮に帰るとラウンジに人がいた。
入ってきた私に気がついたその人は、イスから飛ぶように立ち上がり、こちらに走って近づいて来た。落ち着け。
「あなたも新入生よね! わたしライラ! 年の近い子がいて良かったー!」
私より少し背が高いが、確かに年齢はそう変わらないだろう。ショートヘアの可愛らしい女の子だ。
「私はリア。よろしくね」
「うん! よろしくね! リアは何歳?」
「十二歳だよ。ライラは?」
「わたし十三! わたしが最年少かと思ってたけど、リアはすごいね!」
なにがすごいのかと思っていたら、十代前半でこの学校に入学する人は少なく、十代後半から二十代くらいの人が一番多いらしい。
別に試験は難しくないと思っていたんだけど、この世界の識字率を考えるとあんなのでも大部分の受験生がはじかれるらしい。知らなかった。
入学条件の最低年齢が十二歳なだけで上限は決まってないから、何歳でも受験可能だ。なので、三十代とか四十代とかもいるそうだ。
年上のお友達が増えそうね。
「そうなんだ。知らなかった」
玄関に突っ立ったまま話すのもあれなので、ラウンジにあるイスに座ってお話を続ける。
「わたしもこっちに来てから聞いたからねー。年上ばかりに囲まれて一年間過ごすのかとドキドキしてたの。別に嫌なわけじゃないけど」
「確かに年の近い子がいるとちょっと安心するよね」
まあ私の中身は前世を含めると三十を超えてるんだけど。あんまり気にしたことないかな。
「だよね。だから一年間よろしくね」
「うん。そういえばライラの他にもう誰か入って来てるのかな?」
「私はさっき入ったばっかりだよ。部屋に一人にいるって聞いたけど、まだ会ってないね」
今は三人だけってことか。
もうすぐ夕食だし、その時間には会えるだろう。どんな人かな。
ひとまず買ってきた荷物を部屋に置いて来て、その後またライラとラウンジでお話をする。
そうしていると夕食の時間になったので食事が取れる場所に移動する。
「リアちゃん、ライラちゃん、夕食食べる?」
「いただきます」
「食べます!」
ディーナさんが厨房から聞いてくる。どうやら料理はディーナさんが作っているらしい。
食事を受け取り、ライラと対面で座って食べ始める。結構美味しい。
しばらくすると、個室に続く廊下の方から人が歩いてくる気配がした。もしかして最初に入寮していた人かな。
現れたのは、ぼさぼさの黒い長髪で顔が隠れた、服も姿勢も見るからにくたびれた状態の年上の女性……? うん、ここにいるんだから女性だよね。
女性はディーンさんのところへ向かい、食事を頼んだ。
「マデリーン、さすがにその恰好はどうかと思うわよ」
「……いいの。食事しに来ただけだし」
「ちゃんとお風呂には入りなさいね……はいどうぞ」
「ありがと」
席につき夢中で食事をしている。私たちなど見えていないようだ。
私たちとしても、話しかけるのを躊躇うレベル。
「……どうする?」
ライラが小声で聞いてくる。
これはあれか、挨拶しに行く? みたいなやつか。
「う、うーん……食べ終わった頃にでも行ってみる……?」
「挨拶しないわけにもいかないもんね……」
気難しい人なのかな。
ひとまず食事を終えたら、意を決して話しかけてみよう。
「あの、こんばんは」
「今日からこの寮に入りました。リアと申します」
「ライラです。よろしくお願いします」
「……マデリーン。よろしく」
食事を終えお茶を飲んでいる彼女に突撃。
特に邪険にはされなかったけど、会話が弾むこともなかった。挨拶もそこそこに退散した。
「悪い人ではなさそう」
「そうだね……見た目があれなだけなのかも」
「お風呂上りには見違えたようになってるかもね」
髪がぼさぼさで服がだらしないだけで、別に変な人ってわけじゃ……ないよねたぶん。
「そうかもね。そういえば、リアの髪ってすごいキレイだよね。どうやったらそんなにキレイになるの?」
「髪には気を使ってるの」
「髪が長いと痛んでるのがよく見えて嫌なんだよね。だから伸ばさないようにしてるの。でもリアのはキレイだなあ」
「ふふー、内緒」
「えー! ずるーい!」
まあ別に内緒にするほどのことじゃないんだけどね。
初めてハチミツを髪に塗ってから四年。おかげでサラサラツヤツヤの綺麗な髪の毛です。私の自慢。
今日も後で使おう。野営でお風呂に入れてないから早く入ろう。
ライラと別れ、お風呂に入り、ベッドへダイブ! したらいつの間にか朝だった。
さすがに馬車で三日……二日半か、きつかったんだなあ。




