第190話 車を作ってみたい
そろそろ車を作ってみたいなぁ。
あれば今後の移動が楽になるよね。
車はこの国で作られたと聞くし、今度実物をどこかで拝見できないかな。タイヤに関してもちょっと調べてみたい。
この世界の車があまりにも微妙だった場合、浮遊魔法で浮かせた車を作ってみようと思う。
あとは何で推進力を得るかだけど……ちょっと思い出したものがあったので、それを試しに作るところから始めたい。
「というわけで、まずは小型の模型でも作ってみようかな」
作業部屋にいるセレニアに車の製作に着手することを伝える。
前々からこの街に滞在中に車作りをしてみるという話はしていたので、特に何を言われるようなこともなく。
「何か手伝って欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれ」
なんとも心強い言葉をもらった。
セレニアにお礼を言い、実験に使うための材料を買いに出かけた。
浮遊魔法は魔法使いの定番……というのは私の勝手なイメージだ。
なにせ、今のところ使っている人を見たことがない。
強力な風属性の魔力回路と、魔法発動石を使って浮かんでいる浮遊魔法。見た目は優雅だけど実用性には欠ける。
浮かび上がる高さも、移動の速さも魔力次第。そのせいか燃費は良くない。
大きな街で空を走り配達をする……なんて前世で見た映画の真似事もしようと思えばできる。
ただ、それに使う魔力量やら何やらと低ランク冒険者が足を使って配達するのと、どっちの方が安上りかって言われたら、初期費用の段階で後者になるだけで。
そんなわけでなかなかお目にかかれない浮遊魔法だけど、そんな代物を使って車を浮かせる。
金属の板に魔力回路を刻み、魔石と魔法発動石を取り付ける。それだけでひとまず浮く。
浮かせるのは良いんだ、問題は推進力。浮遊魔法で移動は可能だけどその分魔力を使うし、そんなに速いというわけでもない。
そこで、思い出したのは前世の知識。
テレビでやっていた、パルスジェットエンジン。昔に作られた古いエンジンだね。これを作ってみようかなと。
とりあえず成功するかどうかわからないけど、金属の容器で実験をしてみる。
買い物から帰り作業部屋に籠る。早速製作してみよう。
コップのような容器に、指が入るか入らないかくらいの穴があいた蓋を被せる。そこに燃料となるアルコールと、空気を入れる。
アルコールの蒸発したガスと空気が混ざり、そこに火を入れると……。
パァン!!
ボボボボボボ!!
「なんだ!?」
「家の中でやるもんじゃなかったわ。ごめん」
大きな破裂音と火が激しく燃える音が響き、背を向けていたセレニアが驚いたように叫んだ。
容器が割れたり火事になる危険性があるので、こんなところでやるべきではなかったね。
まあでも、成功はした。
「一体何を作っているんだ……」
「推進力」
容器の中で火が燃え上がり、その勢いで乗り物を進ませる。容器の中の圧力が下がってひとりでに空気を吸い込むから繰り返し火がつく……というのがこのエンジンの仕組みだ。ザックリと言えばね。
セレニアがのぞき込んで来ているけど、容器が熱くなってるから触っちゃダメよ。
「冷めるまで待ち」
これが冷めたら車の模型に括り付けるのだ。
さすがにいきなり浮遊魔法の刻まれた模型を作るのは大変なので、普通に木の板で作った箱と、同じく木でできたタイヤを取り付けた模型だ。
タイヤの滑り具合も問題なし。でも危ないから外でやった方がいいかな。
「音がデカイのが難点よねぇ」
パルスジェットエンジンは作りが単純で自作ができるけど、騒音面でイマイチ。燃費も良くないらしい。
それに車に取り付けるほど大きい物は素人では難しいかな。あんまり現実的ではないかも。
前話でリアの魔力量がわかりにくくなったので、あらすじ部分に大まかな量を書いておきます。
それに伴い前話を少し編集するかもしれない。




