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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第6章 中央大陸・ものつくり編
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第183話 新しい出会いと鍛治契約

 剣を購入した後、またしばらく歩き回る。実は先ほどの女性を探しているのだ。

 変わった形の武器を作っていると言っていたから、もしかしたら刀も作れるかもしれない。

 まだ未熟らしいけど、才能はあるらしいから頼むだけ頼んでみたい。基本の修行をしてほしい親父さんには悪いけどね。


「あ、あの人かな」


 親父さんに娘さんがどの辺りにいるか聞いておいたので、そこを目指してきた。場所は鍛冶エリアから少し外れた広場だ。少ないながらも屋台があって食事も可能。


 そして、おそらくあそこに座っているのが娘さんだろう。たぶん。さっき見かけた人と同じような服装だし。

 親父さんと同じ黒髪、私より少し年上かな。鍛冶屋だからか服装はほとんど露出がない。作業服かな、暑そう。


 ドワーフって身体が色々と大きいから、露出の多い服を着ていることが多いけど、やっぱり鍛冶なんていう火傷の危険性がある仕事の場合は、普通の作業着を着用するんだね。

 早速近くまで行き、声をかける。


「こんにちは」

「あ?」


 口悪っ。いや、いきなり知らない人から話しかけられたらこうもなる……かな。

 目つきが鋭いし、髪は短髪でなんだかボーイッシュな感じ。でもドワーフだからか胸がデカイ。作業着が窮屈そう。ボタンが弾け飛ぶんじゃない?

 なんてことを言ったらただの変質者なので、普通に話しかける。友好関係を築き上げなければ。

 ちゃっかり隣に腰かける。


「おねえさん鍛冶屋さん?」

「ああ……いや、鍛冶屋の娘だな」


 そう言って俯いてしまった彼女を見るに、案外落ち込んでいるようだ。思っていたよりも親父さんとの喧嘩に思うところがあるのかもしれない。

 というか、ちゃんとあの親父さんの娘さんだよね?


「……なんか用か? 鍛冶なら親父に頼んでくれ」

「もう買ったけどね」


 そう言って先ほど購入した剣を見せる。なかなか綺麗な剣だと思う。今度こそ鉄を斬れるだろうか。

 娘さんが剣をしばらく眺めた後、口を開く。


「これ、親父のか」


 どうやら例の娘さんで間違いないようだ。それにしても、これが親父さんの剣だってわかるんだなぁ。どこかに証でもあるのかな。


「娘さんと喧嘩したって落ち込んでたよ」

「はっ。客に愚痴るとはな。んで? アタシになんか用か? 喧嘩のことで何か言いに来たんだったら、お節介がすぎるぜ」


 喧嘩のことについて何かを言うつもりはない。こういうのは本人たちが自分でどうにかするものだ。面倒くさいし。


「剣を打ってほしいんだけど」

「は? 親父からアタシのこと聞いたんじゃないのか?」

「聞いたからこそ、お願いしたいの」


 話が見えていない彼女に、詳しく説明をする。


「変わった形の剣を作って欲しい」


 そう言いながら紙とペン、下敷き用に板を出して、図を描きながら説明する。

 まず刀の絵を描く。片刃で、反りがある。刀身が長くて柄の部分の中にまである。使う金属は鋼だったかな? 

 これだけで一体何が伝わるというのか、自問自答したいくらいだけど。

 細かいことはよく知らないからどうしようもない。


「こんな感じ」

「んだこりゃ……」


 驚きながら紙を凝視している彼女に、これを作れないかと問う。


「普通の片手剣とは違うのか? てか、なんでアタシに? 他の腕のいいやつに頼めばいいだろ」

「変わった剣を作っているって聞いたから、こういうのも出来るかなって思って」


 変わった剣がどんなものかは見てないんだけどさ。変わり者ならこういう変な依頼を受けてくれるかなって思って。

 それに今すぐ欲しいってわけでもないからね。気長に待つつもりだ。

 あと細かい注文も聞いてくれる人がいいから、他の依頼で忙しそうにしている腕のいい鍛冶屋では頼みづらいというのもある。


「変わってんな、アンタ。武器ってのは普通、自分の命を守る重要なモンだ。それをこんな半人前に依頼するなんてよ。何企んでんだ?」


 ギロリと鋭く睨まれるけど、企んでいるとは人聞きの悪い。

 正直何にも考えてないし、刀が手に入ったら面白そうくらいにしか思ってない。

 出来が悪ければ出来のいい普通の剣を使うまでよ。


「何にも。縁があったから頼んでみただけ。無理なら他の人に頼むし」

「それはそれで腹立つな」

「えぇー……」


 そんなこと言われても。

 すると、彼女が自身の太ももに身に着けていたナイフを取り外して、私に渡してくる。


「これがアタシが打ったナイフだ。これを見てから決めろ」


 彼女にも職人としての矜持というものが備わっているようだ。


 差し出されたナイフを受け取り、鞘から引き抜く。

 クリップポイントと呼ばれる形状のナイフで、切ったり刺したりといった用途に使われることが多い。たぶん、護身用のナイフかな。

 刃の輝き、厚み、鋭さ、重さ、細かな傷、グリップの握りやすさ……まあ、剣やナイフを持ち始めてから、すでに数年。それの良し悪しも多少はわかる……と言いたいところだけどね。

 眺めただけじゃちょっと難しい。実際に使ってみないと何とも言い難い。


 えーっと、とりあえず紙でいいか。魔道袋から新しく紙を取り出す。


「切っていい?」

「ああ」


 許可も得たので、紙の端から刃を入れていく。

 スー……と刃が入っていき、紙が綺麗に切れていく。大きな抵抗は感じないし、下手に力を入れずとも切れる。断面もまあまあ綺麗だし、半人前の鍛冶師が作ったにしては十分なんじゃないかな。


「及第点かな」

「偉そうに……」


 鍛冶を始めてまだ数年だという彼女が、これだけのナイフを打てるというのだ。これから先、もっと良い物を作れるはず。むしろ、ここで彼女を逃がすのは勿体ない。

 ナイフを鞘に戻し、彼女に返しながら、改めてお願いする。


「私の剣を作ってくれる? 納期は任せるよ。気長に待つから」


 彼女はしばらく黙りこみながら、紙を眺めて悩んでいたようだったけど、突然「よし!」と声をあげた。


「わかったよ。受けてやる」

「お、いいの?」


 ニヤリと笑いながら了承される。見た目は悪くないんだけどね。口が悪いね。

 結構ダメもとでお願いしてたんだけど。意外といい人かもしれない。口は悪いけど。


「でも材料がないとな。こんなの頼むってことは、アンタ冒険者なんだろ?」

「まあね」

「んじゃ、アイアンゴーレムを持ってきてくれ」


 材料としても使うけど、資金源にもするそうなので丸々一体持ってこいとのこと。それで安く済むなら構わないけど。


「用意できたら鍛冶屋に持ってきてくれ」

「わかった。私はリア。よろしくね」

「そういや名乗ってなかったな。シェイだ」


 遅めの自己紹介を済ませて、正式に鍛冶契約が交わされる。親父さんには本当に申し訳ないけど。

 私が材料を集め、シェイが作る。納期は特に決めていない。端的に言えばそんな内容の契約だ。

 これでいつか刀が手に入るかな。



 こうして、シェイという鍛冶師との長い付き合いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] シェイさん私が好きなタイプの予感!!
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