第180話 お料理しましょう
この街に来て一ヶ月、私たちは特に何事もなく日々を過ごしている。
実は私もうすぐ誕生日が来て成人を迎えるのだ。
前世と違って派手にお祝いとかはしないけど。成人になった? じゃあ働けってくらいよ、この世界じゃ。
それでもあの両親なら盛大に祝ってくれただろうな。きっとガリナからお祝いの手紙、もしかしたら品物も届くかも。
ただガリナまで遠いから、この街で家を借りてすぐに両親に手紙を送ったけど、それがまだ届いてすらいないかもしれない。その返事にお祝いの手紙でもくれるだろう。楽しみだな。
そんな私の毎日は、ゴーレムを狩り、魔道具を作り、鉄を斬る修行をして、腕の分析をする。これらの繰り返しだ。
代り映えはないけどなかなか充実していると思う。
でも今日はちょっと違うことをする。せっかく家を手に入れたんだ。やってみたかったことをやろう。
「そんなわけで、今日は料理を作ります!」
材料をキッチンに広げた状態で宣言する。
そう、ひっさびさに本格的な料理をしたいと思ったのだ。ガリナで母に料理を教わって以来だ。
「そうだね。何作る?」
ちなみにエルシーナも一緒だ。いつだか一緒に料理をしようと言っていたので、二人で今日の夕食作りをすることに。
エルシーナの手料理! 楽しみ!
「うーん。何しようかなー」
エルシーナと二人で買ってきた食材を見ながら唸る。
この街の付近にいる魔物はゴーレムなどの無機物ばかりで、肉などはあまり獲れない。もちろん他の街から輸入してくるので無いわけではないけど、その分ちょっとお高い。
この大陸は基本的に天候が良いので作物は育ちやすいし、ゴーレムは基本畑を荒らしたりしないので、野菜類は豊富だ。
中央大陸にいた頃とは正反対だね。肉ばっかりだった生活が懐かしい。
ひとまずこの辺を上手く使って、お腹に溜まる料理を作ろう。
「安売りしていた小間切れ肉、根菜、葉物野菜、卵、その他調味料……まあなんでもあるね」
野菜炒め、煮物、スープ……無難よねぇ。
ん~。いっそ、小間切れはひき肉にしちゃおうか。野菜も入れてボリュームアップだ。その方が食べ応えはあるかも。
「これひき肉にしていい?」
「いいけど、大変じゃない?」
「ふふん。この日のために作りました!」
じゃじゃーん! という効果音を口で言いながら魔道袋から取り出したのは、フードプロセッサー!
回転する棒にナイフを付け、ちょうどいいサイズの箱にセットするだけ! 洗いやすさを追求したせいで作るのに時間がかかったけど、なかなかいい働きをしてくれますよ! まだ使ってないけど!
「何これ?」
「回転する刃が中に入った食材を細切れにしてくれますよ!」
「へぇー。便利そう。みじん切りとかしなくて済むね」
楽よねぇ、これ。前世の実家にもあったよ。一度この便利さを知ってしまうともう戻れないのさ。
片付けが面倒くさいから、結局包丁を使うことの方が多かったけど。
「というわけで、肉を入れちゃう……前に玉ねぎをみじん切り」
先に玉ねぎだ。中に玉ねぎを放り込んでスイッチオン。
ガガガガガ、という大きな音を立てながら玉ねぎが細かくなっていく。うん、いい仕事をしてくれるね。
「はっ……! これ、売れるのでは?」
フードプロセッサー……! 便利だし、きっと料理界に革命が起こるよ! 美食の街エルゲルなら高値で買い取ってくれたかもしれないなぁ。ちょっと走って売ってこようかな。
「それは後でセレニアと話してね。ひき肉は何にするの?」
そうね。魔道具の話はセレニアとしよう。今は料理の時間だ。
「野菜と混ぜて丸めて焼く」
ハンバーグが食べたいので、ハンバーグを作っています。
お腹に溜まるし、見た目的にも一体何の小間切れ肉なのかわからないのを誤魔化せる。何の肉なのか書いてなかったんだよ……! たぶん食べられるとは思うけどさ!
「じゃあメインはリアに任せようかな。あとは何作る?」
「なんか、副菜とか、スープとか。パンとかお米も欲しいよね」
「そうだね。野菜で何か作ろうかな」
エルシーナが張り切って鍋を用意している。楽しそうだし、楽しい。良いね、こういう日常も。
玉ねぎをみじん切りにしたら、火にかけて炒め、粗熱をとっておく。
そしてひき肉をミンチにする。フードプロセッサー便利!
あとはもういろいろ混ぜて四人分を成形。肉は大体塩と胡椒があれば大丈夫。たぶん。スパイスぐらいは欲しいかもしれない。
「ソースも作らないとね」
この世界の調味料は前世のものと似ている。なので、そんなに変な味にはならないと思う。変な味になったとしても、それは私だけがそう思うのかもしれないけど。
ハンバーグのタネもソースもできたので、他の料理に取り掛かる。
副菜はエルシーナが頑張っているのでお任せ。
パンかご飯か迷うなぁ。この世界のパンもお米も美味しいからね。どっちも用意しておこうかな。余ったら朝にでも食べよう。
「スープ作ろうか」
「うん。お願い」
エルシーナが使っているコンロの隣で調理をする。鍋にお湯を沸かして、何のスープにするか考える。
んー……何がいいだろう。ひとまず出汁をとろう。あとは野菜を入れるか。問題は味つけだけど……醤油っぽいのでいいかな? それとも味噌?
横でエルシーナが作っている料理に潰されたトマトが入っていったんだけど、もしかしたら醤油も味噌も合わないかもしれない。でもそれ以外の味付けって難しくない?
あれだよ、和洋折衷ってやつだよ。違うか。
「楽しいね」
横で野菜を煮込んでいるエルシーナが話しかけてくる。すぐ隣にいるから、顔が近い。口角が上がっていて、つられて私も嬉しくなってしまう。
「うん、楽しい。エルシーナと二人で料理をする日が来るなんて、初めて会ったときは想像もしてなかったよ」
もうあの日からどれくらい経っただろう。
あの時は私なんて足元にも及ばない凄い人達だって思っていたし、今も思ってる。
それでも仲良くなれたし、一緒の家に暮らしてもリラックスできるほど打ち解けられたと思う。
三人とも優しい人たちだからって言うのが一番大きい。甘えすぎるのは良くないけど、距離を詰めることができたのは、そのおかげだ。
「またやろうね」
「そうだね」
平和だなぁ。こういう日も悪くないね。
「うん、できた」
「なかなかの出来栄えじゃない?」
リビングへと運ばれた料理の数々を見ながら、エルシーナと二人で自画自賛をする。
エルシーナが作ったトマトで煮込んだ野菜料理、サラダ、私が作ったハンバーグ、そして味噌汁。まあ、まあ、いいんじゃないでしょうか。
クラリッサとセレニアを呼んで、四人で食事を開始。
「美味しいですね」
「ああ、美味いな」
「それは良かった」
クラリッサとセレニアから好評をもらい、安堵する。他人にちゃんとした料理を振舞うのは初めてなので、ちょっと緊張していたからね。
私もエルシーナが作った煮込み料理を食べてみる。トマトの酸味が食欲をそそりますね。野菜も柔らかくて食べやすい。
「美味しい」
「良かった。まだあるからね」
エルシーナの手料理が食べられるなんて、なかなかの幸せ者ではないかと思う。
普段の食事は買ってきたもので済ませてしまうことが多いけど、休みの日くらいは二人で一緒に料理を作ってもいいね。
食後、セレニアにフードプロセッサーを見せたら、なかなかの高評価をもらった。なので、今度魔道具ギルドに売りこみに行ってこようと思う。
「エルゲルで売った方が高く買ってくれそう」
「確かにな」
「ちょっとエルゲルまで行きたい」
「リアの脚でも三日はかかる。諦めろ」
「むぅ」
残念だ。まあ、売れればいいか。




