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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第6章 中央大陸・ものつくり編
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第177話 もたない!

 掃除も終わり、部屋割りも決まった。なので、ベッド含め家具を購入しに四人でお買い物へ。

 やっぱり物作りの街なだけあって、家具だけでも目移りするほど種類が豊富だ。ベッド一つだけでも大きさもデザインも様々。どれにしようか迷っちゃうな。

 そんな中、家具を見ながらエルシーナが大変なことを言い出した。


「二人で一緒に寝れるベッドにしよう」


 言葉を理解するまでに数秒かかった。この人何言ってんの?


「それはあれ? 大きなベッドに二人で寝るってこと?」

「うん」

「……何故?」

「一緒に寝るから」


 おそらく理由を聞いても、さっき言われたマンイーターの時みたいに~って言われるんだろうなぁ。

 私の様子がおかしくなったら一緒に寝ようって話だったんだっけ。シングルサイズのベッドじゃ確かに小さいよね。

 騒がしくしたら絶対起こしてしまうね。気を付けよう。


「……そうね、家じゃないと大きなベッドで寝れないもんね。一番大きいやつにしよう」

「そうだね」


 うん、もういいや。開き直ろう。

 いつかまた旅に出たときは寝袋生活になっちゃうんだから、今は素直に大きなベッドを堪能しよう。隣に片想いの相手が寝てるとか処分するとき大変だろうなとかは考えない。


 大丈夫。日中限界まで活動して、ベッドに入ったらすぐに眠れるようにすれば何にも問題ない。

 それに、野営のときはテントの中でみんなそれなりに近い距離で寝ているし、そういうものだと思えばそのうち慣れるでしょう。


「仲良くなりましたねえ」

「そうだな」


 後ろで話を聞いていたセレニアとクラリッサがしみじみと呟いたのが聞こえた。確かに喜ばしいことですよ。

 素直じゃない私だけが困っているだけで。でも心は喜んじゃってるんだよねぇ。

 好きな人と一緒に寝られるんだもの。嬉しくないわけがないでしょう。


 エルシーナも同性愛者なのに、私相手には何とも思ってないんだろうなぁ。

 そういえばエルシーナの好みのタイプって聞いたことないや。どんな人が好きなのかな。

 セレニアみたいなクールでしっかり者タイプかな。クラリッサみたいな意地悪だけど程よい距離感で一緒にいてくれる人かな。それとも包容力溢れる大人な人とか……きっと素敵な人だろうなぁ。


 少なくても、いつまでも手のかかる子供扱いな私では、その対象にならないことだけは確かだ。

 早く一人前になって子供扱いから抜けてあげないと、いつまでもエルシーナのお荷物のまま。これ以上のお邪魔虫にはなりたくないし、頑張ろう。


 そんなわけで、おそらくキングサイズのベッドを購入。ベッドだけでこんな浪費することある?

 その他必要なものも買い、家へと帰る。もう宿じゃなくて家なんだよね、不思議な気分。

 これからはあんまり意識してこなかった日々の掃除とか食事作りとかもやっていかないといけないね。



 その日の夜、ようやくまともに寝室が機能し始めた日。

 寝室にはエルシーナがいて、ラフな薄着のままベッドに座っている。彼女は部屋に入ってきた私を見てにこやかに笑い、ベッドをポンポンと叩いて呼んでいる。

 それを見た私はと言うと、表情を鋼のように固めたままベッドへと近づき、躊躇うことなく乗り込んで横になった。


「こっちむいてよ~」

「落ち着かないもの」


 エルシーナに気がつかれないようにこっそりと息を吐く。

 キングサイズのベッドでエルシーナと二人きり。ここはラブホかなんかか? いや、自分の家だしラブホなんて行ったことないけど。

 こんな状況で見つめられたら腰が砕けて立てなくなる。早々に横になってよかった。

 これいつか慣れる日が来るの? 無理でしょ。


 キングサイズのベッドなら広くてゆったりしているし、そんなに隣を意識しなくて済むかなって思って買ったけど、そんなことはなかった。

 確かに余裕はあるけど普通に隣で人が寝ている。そのまんまなんだけど、それ以外に的確な言葉がない。


 これ以上姿を見ていたらのぼせ上りそうなので、エルシーナのいる方とは反対側を向いて寝ることにしたら、エルシーナが不満げなのだ。


「もぉ~、暑いんだからさぁ」


 後ろから近づいてくる彼女に、心臓の鼓動が速くなっていることを悟られないために、ぶっきらぼうに冷たく接する。

 実際は部屋に冷風を出す魔道具を置いているので、昼間よりは全然マシなんだけど。

 しかし私の言葉を聞いたエルシーナの表情が、途端に悲し気な表情に変わっていくのが視界の端に映る。


「むぅ……やっぱり嫌だった?」

「もぉぉぉ……ズルい……」


 そんな顔でそんなこと言われたら拒否できない!

 ズルい!! 顔が良い!! ズルい!!


「はぁ……こっち向いて寝ればいいの?」

「うん! 嬉しい」

「ホンットにもう……おやすみ!」


 本当に嬉しそうに笑う彼女の顔をこれ以上見ていられなくて、タオルケットに包まって目を閉じた。タオルケットは一人用なので、こうしていても問題はない。

 ああもう、顔も身体も暑いよ。


「おやすみ」


 エルシーナの声が聞こえたけれど、とても眠れそうになかった。



 なんだかんだ言いながらも一応眠った、翌朝。

 目を覚ますと世界で一番綺麗な人の寝顔が眼前に広がっていて、腕も身体に回されていた。


「え……!?」


 寝ぼけながらも驚きのあまり声を上げ飛び起きる。すると何故かかなりベッドの端で寝ていたらしく、そのままベッドから落ちて大きな音が響いた。


「ん~……? どうしたのぉ?」


 いやいやいやいや……近すぎでしょ!! 寝ぼけて近づいたのか近づかれたのか……もうやだぁ。心臓が止まりそう。こんな生活続いたらもたないよ。

 今後の生活に一抹の不安とちょっとした喜びを感じながら、響いた音に起き出してきたエルフたちを適当に誤魔化した。


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