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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第6章 中央大陸・ものつくり編
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第171話 試してみて

 無事に合格した三人に渡す予定だったつげ櫛だけど、まだ浸け込み期間が足りていない。

 まだ三日程度しか経っていないので、もう数日は様子を見たい。

 櫛に油が染み込んだら、油を拭って乾かさないと。出来上がるまでまだまだかかるな。


 でもその前に一度、あの油を三人に試してもらおうかな。渡したもので肌が荒れたなんてなったら最悪だもの。

 今干しているやつを明日搾って、それを試してもらおう。


「そういえば、あの木の実なんなの?」

「あれは明日使うから、そのままにしておいて」


 エルシーナが床に置いてある椿の種を見て不思議そうにしているけど、まだ内緒だ。喜んでくれたら良いな、なんて想像してちょっと顔がにやけちゃう。エルシーナは残念そうだけど。



 一応、この椿の油を料理大会の本選で使う目玉食材として売れないかなとは、ちょっと思ってた。

 でも、あれは量が少なすぎるから難しい。売りました、量産のために椿の種を乱獲される、私の分が手に入らない、なんてこともあり得る。

 第一まだ食べてはいないんだよね。食べても問題がないかとか、その辺りの検証には時間がかかりそうだし、本選までには間に合わなさそうだ。

 そういう意味でも、椿油を売るのはやめることにした。



 次の日、まずは買い物を済ませてしまおうということで、街へと繰り出す。相変わらずの賑わいだ。

 ここからドワーフの国の、一番近い街まで馬車で一週間ほどかかる。

 エルゲルの今の宿より滞在費が安く済めばいいけど、どうなのかな。でも鍛冶が盛んだから、魔道具が作りたいなら向こうの方が材料は揃うはず。楽しみだなぁ。


「ドワーフの国かぁ」


 そんなことを思っている私の横で、エルシーナがなんだか不満そう。


「エルシーナはドワーフ嫌いなの?」

「……そんなことはないけど」


 そんなことはないと言いながらも、眉を下げて私の方を見ている。

 んん? 私何かした?


「エルシーナのことは放っておいていい。さっさと買い出しをしてしまうぞ。あのギルドマスター、私達に仕事を押し付けてきそうだからな」


 セレニアがエルシーナをばっさりと切り捨てて早めの移動を提案する。深刻なことならそんな言い方はしないだろうし、気にしなくていいのかな。


 私はこの街のギルドマスターには会ったことないけど、実力ある冒険者に難しいお仕事を依頼したいとは思うでしょうね、当然。

 ランクアップは名誉なことだけど、その分責任も増える。きっとこれからこの三人は色々大変だろうな。

 私も巻き込まれると思うけど。



 宿へと戻ったら、椿の種を油に変える作業を始める。


 干していた種を固い板の上にばら撒いて潰す準備をする。

 力加減を間違えないようにしながら障壁魔法で殻を割っていくと、後ろから声をかけられた。


「障壁魔法とは便利なものですね」

「何してるの?」


 クラリッサとエルシーナが見ていたようだ。宿のキッチンでやっているから気になるのは当然だろうけど。

 この状態では傍から見て何をしているか理解できないだろうね。


「油を搾るんだよ」

「油?」

「植物の種から油が採れるんだよ」

「へぇー」


 関心した様子の二人を見るに、どうやら植物の種から油が搾れることを知らないらしい。私も前世で調べてなかったら、知らないままだっただろうけど。


「食用油ですか?」

「まだそこまで検証できてないんだよね」


 肌や髪には塗っているけど、経口摂取はまだしていない。

 肌や髪の状態が良くなっている……今までよりはなっているから、この油は本物の椿油だと思っている。例え違っていたとしても肌に良いことに違いはないので構わない。

 だから経口摂取してもいいんだけど、そんなに大量に用意できるものじゃないからね。肌や髪に使うだけで無くなってしまうから難しい。


「これ拾ってきたの?」

「そう」


 落ちている種を拾ってきた。一個一個拾うのは大変だし、時間もかかる。もっと欲しいけど、面倒くさいという思いが強い。この油にする作業も疲れるし。

 でももう使わないという選択はできないんだよなぁ。また拾ってこないと。エルゲルから移動した後はどうしよう。この大陸の中なら、他の森とかでも見つかるかな。


「何に使うんですか?」

「ああそうだ、できたらちょっと肌に塗ってみてくれる?」


 所謂パッチテストってやつ。

 私の肌には何ともなかったけど、エルフの肌には異常が起きた、なんてこともあり得ない話じゃない。念には念を入れよというやつだ。


「肌に塗る用?」

「そうだね」

「構わないですよ」

「うん、いいよ」


 二人から了承を貰い、そのまま油を搾り取る作業を続ける。二回目なので、最初の時よりは早く出来上がった。

 前よりは量が増えたけど、やっぱりちょっとした大きさの瓶に入る分くらいしかないね。

 それを見たエルシーナが瓶を持ち上げながら驚いたように呟く。


「あんなにあったのに、これしか採れないんだ」

「油は貴重品よねぇ。それじゃあ、ちょっとだけ手の甲にでもつけてみてくれる? 異常が起きたら教えてね。油だから少量でも伸びるよ」


 エルシーナとクラリッサが片手の甲にだけ油を塗る。よし、せっかくだからセレニアにもつけてもらおう。


「油か。構わない」


 別室にいた読書中のセレニアにも頼んでみたら二つ返事で了承をもらったので、セレニアの手の甲にも塗る。左手をとってぬりぬりぬり……いや、自分で塗りなさいよ。


「まあいいか……何かあったら教えてね」

「ああ」


 これで誰にも異常が起きなければ、つげ櫛をプレゼントできる。誰か一人だけ異常が起きたとかにならないといいな。


 キッチンの片付けをして、そういえばセレニアに聞きたいことがあったんだと思い出す。

 なので、テーブルを挟んで正面の椅子に座って話しかける。私に気がついたセレニアは読書をやめてこちらを見た。


「ね、魔力枯渇ってどういう感じになるの?」

「魔力枯渇か……主に倦怠感がするな。私なら体力を使い切ったような感覚がする」

「やっぱりそうかぁ」


 体内にある魔力袋が空っぽになることを魔力枯渇と呼んでいる。魔法使いなら大体の人がなったことがあるけど、私はまだなかったんだよね。


「なったのか?」

「うーん、それがよくわかんなくて」

「どういうことだ?」


 マンイーターの討伐をした後、魔法を行使した際に感じた頭痛。あれは魔力枯渇が原因だったのだろうか。でもその後しばらくしたら治まったし、魔法だって使えた。

 あの短時間で魔力が回復したとは到底思えないから、あれがなんだったのかさっぱりわからない。

 そんな感じのことを話すと、それを聞いてしばし熟考していたセレニアが口を開く。


「頭痛か……先ほど言ったような、体力を使い過ぎたような感覚からの頭痛であればあり得ないことでもない。だがリアのはそれとは少し違いそうだな。それに魔法は使えたと」

「そうなんだよねぇ」

「魔法が使えた時点で魔力枯渇とは違いそうだが……」


 でもなぁ、魔法を使った瞬間に頭痛がしたのがね。魔力が原因だと思うんだよ。


「ふむ……リアの場合、頭に問題があるからな」

「…………ああ、うん」


 一瞬馬鹿にされているのかと思ったけど、普通に頭に魔力回路があるって話みたいだ。びっくりした。


「なるほどね、これが関係している可能性もあるのか」

「それも当然魔力を使っているはずだからな……しかしそう考えると……」


 ブツブツ言いながら考え込んでしまったセレニアの言葉を待ちながら、自分でも考えを巡らす。

 頭の魔力回路が何か起こしているっていうのは当たっているかもしれない。これも魔法だしね。女神様に聞けばわかるかな?

 この頭の魔力回路も毎日暇なときに少しずつ分析してみようかな。これはさすがにセレニアに手伝ってもらうわけにもいかないし。

 そう思いながらセレニアを見ると、まだ思案中のようだけど顔を上げて口を開いた。


「今度検証した方がいいかもしれないな」

「魔力枯渇の?」

「ああ。安全な場所で一度どうなるのかを把握しておくのは、いざという時の助けになる」


 確かに。頭痛がするという状態にわざわざなるのは嫌だけど、必要なことだというのは理解できる。

 今度落ち着いた場所で試してみよう。


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