第17話 成長を感じる
「そろそろ教えることも無くなってきたな」
「そうなんですか?」
今日はサイラス先生から魔法を教わる日だ。
素早く魔力を込め、すぐさま魔法を打ち出し、正確に的に当てる。
この修行ばかりをこの二年間続けていたので、四属性の低級魔法杖の扱いに関してはほぼ完璧になったと言っていい。
今も数十メートル先の的に魔法をぶつけたところだ。
「ああ、もう魔法使いとしての基本は十分すぎるほどだ。これより上の修行となると、もっと強力な杖が必要になる」
「そんな高価な杖は用意できないですね。貸してもらうのもさすがに気が引けます」
タイムを縮めたり、動く的に当てたり、障害物をよけながら的に当てたり、といった修行も行ってきた。もうこれ以上ここで出来ることはないのだろう。
「つーことでだ。今日は魔物討伐に行くか」
「いいんですか!? 行きたいです!」
初の魔物討伐!
未だに剣術の方では実戦を積ませてもらっていないので、これが初めてだ。
「ああ、冒険者登録もしたんだろ? なら問題ないだろう」
「はい!」
父ならこうはいかない。慎重なのは悪いことではないけどさ。そろそろいいんじゃないかとは思っていた。
楽しみだけど、しっかり集中もしないとね。
着いた先は森の中だ。父と一緒に行った森とは別の場所。
「ここにはウルフがいるが……嬢ちゃんなら平気だろ」
どう考えても素早いやつだよね? 大丈夫かな……。
「なあに、いざって時は手助けしてやる。実力はあるんだ。焦らずにやれば問題ない」
「わかりました。やってみます」
風魔法の杖を受け取り、警戒する。
警戒していたら突然サイラス先生が近くの木を杖で叩き始めた。金属製の杖らしく、この静かな森の中では結構な音が響く。
何してんのこの人。いや、予想はつくけど。
「……一応聞きますが、何を?」
「ちんたら待ってんのも暇だろ? 手っ取り早く呼んじまおうと思ってな」
豪快っていうか、すごいことするなこの人。
サイラス先生は父とは正反対だな。私にはそれくらいがちょうどいいけど。
魔法使いなのに脳筋だぁ。知ってたけど!
――ぞくり
「来ましたね。三匹も」
「そうか。よし、倒してみろ」
簡単に言うなあ。
右から三匹繋がって来ている。速いのでおそらくウルフだろう。杖を構えて視界に入るまで待つ。
見えた。まだ遠い、魔力を込める。もう少し。立ち止まりはしないようだ。位置を予測しろ。
――そこ!
「えい!」
木の陰に重なった先頭のウルフに風魔法を飛ばす。木から飛び出す瞬間、鋭利な風の刃がウルフの首を跳ね飛ばした。よし!
後続のウルフは首が飛んだ仲間を見て驚いたのか、立ち止まった。
止まっている相手に当てるなんて造作もない。同じく風魔法で二匹目を殺した。
二匹目が殺された時点で、三匹目は逃げ出していた。あそこまで遠いとちょっと届かない。もう少し引き付けてから一匹目を殺せばよかったかな。
まあ、いっか。
「逃げられてしまいました」
「ガッハッハ! これだけできれば上出来だ!」
初の実戦でウルフ二匹。なかなかの成果じゃないかな?
「魔法使いは通常一人で戦うことはない。近づかれ過ぎたら素直に前衛に任せてしまえばいい。これくらいできれば魔法使いとしては十分だ」
「ありがとうございます」
何事も褒められると嬉しいもんだな。
ウルフの肉は食べられるので、丁寧に解体をするとそれなりの値段でギルドが買い取ってくれるらしい。
なので、皮を剥いだり血を抜いたりと本格的な解体作業をサイラスさんに教えてもらいながらやってみた。
やっぱり気持ちのいいもんじゃないね。
いらない部位は穴を掘って埋めた。森の中なので火魔法は使えないが土魔法は使えるので、それで穴を掘り土を被せて終了。やっぱり魔法は便利ね。
魔法が使える人でパーティを組んでいない人はパーティ募集にひっぱりだこらしい。
魔力にはまだ余裕があったので、もう何度かウルフと戦い、偶にゴブリンとも戦い、その日の修行は終了した。
戦闘も解体も落ち着いて行えばちゃんとできる。教えてもらったことを活かせる。
修行の成果はきちんと身についていると実感できた。
街へ戻り冒険者ギルドでウルフの肉と魔石を売ると、剣術の修行の時よりも高い報酬になった。当たり前だけど。
サイラスさんは見守っていただけなので受け取るつもりはないと言われたので、ありがたく貰うことにした。
少しずつだけどお金が貯まっていくのは嬉しいね。
サイラス先生はどうやら父には事後報告したらしく、無断で魔物討伐に向かったことを怒られた。超怒られた。
でも私が渋い顔をしていたことに気が付いたらしく、途中で泣き落としに変わった。変わったからといって行動を改めるつもりはないけど。
魔法に関してはサイラスさんが師匠なんだから、父からの口出しは聞かない。
勝手に剣術で倒したりしたわけでもないんだから、さすがに過保護が過ぎると思う。
その数日後、ようやく剣術でも魔物討伐が許可された。
三人で一匹のゴブリンを狙うのは却って難しいので、基本、一対一か一対二で戦うことになり、父はいつでも助太刀できるようにサポートに回るそうだ。
すでに魔法で魔物を倒したことがあるので、そこまで臆することなく戦うことができた。
距離が近いから確かに怖いけどね。動きを目で追えないわけでもないし、落ち着けばなんてことのない相手だった。
レオとフィンレーも無事に倒していたので、剣術に関しても順調に成長しているなと感じられた。
そして、二年後。ついに十二歳になった。




