第168話 これは私が悪い
主人公視点に戻ります
一度宿に帰ったけど、セレニアとクラリッサはすぐに出かけた。
その前にギルドマスターとの話で何か不快なことがあったかこっそり聞いてみたけど、特に何もなかったそうだ。
「よくわかりませんけど、リアさんのせいだと思いますよ」
クラリッサにそう言われ、困惑は加速するばかり。
「気になるなら、ちゃんと話し合え」
セレニアにはそう言われ、二人は出て行った。
一人ソファーに座っているエルシーナを遠目に見ながら、心当たりを探す。
なんだろう、よくわかんない。マチルダさんたちがエルシーナに何かしたってわけではないと思うし、ギルドマスターと何かあったわけでもない。
そうなると……うん、私が原因だよね、たぶん。クラリッサの言う通りかもしれん。
とりあえず、近くにいって話しかけてみよう。エルシーナの隣に行き、同じソファーに座る。
「えっと、エルシーナ」
「なーに?」
返事は柔らかいけど、眉が微かに寄っていて何か気になることがあるんだと一目見るだけでわかる。
「どうしたの?」
「別に、何でもないよ」
遠回しに聞くなんて技術は持ち合わせていないので単刀直入に聞いてみたけど、取り付く島もない。でも私が原因なら今解決すべきだと思う。
こういうのを放っておくと、後々のチームワークに響いてくるのだ。
「でも……」
「ねぇ。抱きしめて良い?」
「え、あ、うん。いいよ」
突然の抱擁が交わされる。びっくりはしたけど、別に良くしていることだし構わない。それに、ハグはストレスを軽減するって前世で聞いたことがある。
とりあえず、背中をポンポンと叩いておこう。楽になるかもしれない。
「もっとこっち来て」
「え……十分近いと思うけど」
ゼロ距離ですけど? 密着してますが?
「膝の上まで来て」
「えっ……わ、わかった」
今は隣に座っていたけど、エルシーナの膝の上に乗れとのこと。乗って良いなら乗りますけど……。
そして別に移動している間に抱擁が解けるというわけでもなく、腕を回されたままじりじりと移動していくだけなのである。ますますわかんなくなってきたな。
正面、エルシーナの膝の上まで移動して再度強く抱きしめられる。確かにさっきより密着しているね、これ。恥ずかしいけど、そうも言っていられない。
「ね、何か話せそう? まだだめ?」
「ん……」
もう一度聞いてみたけど、やっぱりあんまり話したくないみたい。私何したかなぁ。
「すー……はあ……」
「エルシーナ?」
しばらくこの状態のまま静寂が続いていたけど、徐々にエルシーナの様子が変わってくる。そのまま根気よく待つと、エルシーナが言葉を発した。
「……リアにとって、わたしってどんな人……? 約束を守る価値もないほど薄っぺらい人なのかな……」
大きく息を吸い、吐きだしたエルシーナは小さく小さく、私に聞かせる気のない声量でつぶやいた。
そして、その言葉を聞いて私は自分の行いを恥じた。
いやもう、私が原因なのかなとかじゃないわ。100%私が悪い。なんで私そこに意識がいってなかったんだろうか。
危ないことしないでとか、一人で出かけないでとか散々言われていたのにも関わらず、一人で出かけた挙句エルシーナに甘え倒した。
自分の心の内を全然話すことも無いまま済んだことだと前を向いた。心配してくれていた大事な仲間のことを見もしないで。
そうだよね、エルシーナからしたらモヤモヤするよね。
エルシーナのことを軽んじていた。これはどう考えても私に非がある。
「あああ……本当にごめんなさい」
「いいよもう」
「違う、違うの。違うって言い方もおかしいけど。なんて言えばいいのかなぁ……」
謝罪したけど、諦められた気がして慌てる。
実際に約束を守れていないんだから「違う」って言い方はおかしいよね。どうしよう、何を話せばいい?
「えっと、えっと……あの日の夜、エルシーナが言ってくれた言葉は本当に嬉しかったよ。エルシーナがああ言ってくれたからこそ、私は自分が何を望んでいるかを理解できたから」
「……リアの望みって?」
「独りで死なないこと」
一緒にいるって言ってくれた、あの時の温かさが、最期の時に欲しかったから。だから気がつけた。
他人からしたらおかしな望みかもしれない。わざわざ決意することなのかと思われるかもしれない。でも私にとっては、これさえ叶えば十分なんだ。
「独りじゃないって気づかせてくれたから、エルシーナには本当に感謝してる。気がつくまでが遅いとか言われたら仕方がないんだけども」
「そうだよ。約束をした時に気がついてほしい」
「それは本当にごめん。ちゃんと約束する。もう一人で危ない所へは行かないから」
一人で何かするなっていうより、仲間に何も言わずに勝手な行動を取るなっていう基本的な話なんだよね、たぶん。集団行動の原則ですよ。
それなりに一緒にいる時間が増えてきている今、突然消えられたら困るのはみんな同じだもの。
今エルシーナの顔が見えないから、なんて思われているかわかんなくてちょっと不安。
私の言葉は行動が伴っていないから随分と薄っぺらい。それでも今は信じてもらうしかない。
「……わかった、今は信じるよ」
「ありがとう」
少し諦観の溜息を感じたけれど、一応信じてはくれた。あとは私の行動次第だ。
エルフ三人が優しいからちょっと怒られるくらいで済んでいるけど、他の人だったらすぐに呆れられて見捨てられるようなことしてるもんね私。
これからはちゃんと約束を守りましょう。失った信用はそう簡単には戻らないんだから。




