第166話 もう一つのパーティ
冒険者ギルドへ行き、受付へ。お昼を過ぎた辺りのこの時間帯は人が少ないね。
まずはエルフ三人から。
「セレニアさん、エルシーナさん、クラリッサさんですね。来たらギルドマスターの部屋へお通しするよう言われておりますので、こちらへどうぞ」
「じゃあ、リアはここで待っててね」
「いってらっしゃい」
ギルドマスターから直々に合格発表されるのか。さすが高ランクに上がるための試験。ギルド職員に連れられていくエルフ三人を見送り、私は私の用事を済ませよう。
昨日話した受付のおねえさんを見つけたので、話しかけてみる。
「昨日魔道袋の中身を精算してくれるって言ってたんですけど、終わってます?」
「リアさん。はい、終わっています」
「ルストさんたちの方も?」
「はい」
今朝方に中身を確認、その際にルストさんたちも立ち合ったそうだ。いくつか持って行ったそうだけど、お金などは全て置いていったとのこと。
お金になりそうなものは全て換金してくれたみたいで、おねえさんが立ち上がって奥へと引っ込み、すぐに戻ってきた。手には綺麗な袋を乗せたトレイを持っている。
「こちらです」
「意外と……いいんですかね?」
持ち上げてみると意外と重い。中身を覗いてみても金貨や銀貨などが入っていて、マンイーターには遠く及ばないがそれなりの金額だ。
本当に貰ってもいいのだろうか。持ち主が一応わかっていて、しかもその仲間だって健在なのに。
「あのお二人が良いとおっしゃっていたのですから、受け取っていいと思いますよ」
所有者もリアさんという扱いになっていますし、と言って微笑みかけてくるおねえさん。
規則としては違反してないけど、気が引けるよね。でもこれを受け取らないという選択肢を選んだとしても、誰かに喜ばれるってこともないんだろうなぁ。
「……じゃあ、貰っておきます。ありがとうございました。たぶん、近々この街から出ると思います」
「そうですか……お気をつけて。あんまり無理しちゃダメですよ」
「ははは。善処します」
名前も聞かなかったけど、少し仲良くなってきたところだったからちょっと寂しいな。
それにしても会う人会う人に心配をされている気がする。なんでなのかね? そんなに弱そうに見えるのか、見た目がまだ幼く見えるのか。それとも実際に危ないことをしているせいなのか。
たぶんもう私って何しても心配される生き物なんだと思う。頼りないのかもしれない。悲しい。
受付のおねえさんとの他愛のない話を終え、エルフたちが戻ってくるまでどうしようかと思っていたら、見覚えのある顔がギルドに入ってくるのが見えた。
あー……会わないままこの街を出られると思っていたんだけど……。
その人達は私の姿を見つけると、真っすぐこちらに向かってきた。
「あの時の嬢ちゃんだな」
「まあ……そうですね。無事に助かったんですね」
マンイーターと対峙していたもう一つの冒険者パーティの人達だ。
話しかけてきた男性は確か槍使いの人だな。そして若い男性と、マチルダさんの姿がある。こちらもどうやら助かったらしい。
「ああ、ありがとう。嬢ちゃんのおかげで助かった」
そうお礼を述べる彼の後ろから、マチルダさんが驚いた様子で前に出てくる。
パッと見た感じ、ケガはもう治っているようだ。でも心なしか前より露出は減った気がする。
「前にここであったお嬢さんよね。あなたが私たちを助けてくれたのね。本当に、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。元気になったようでよかったです」
話をしたのはほんの少しだけれど、彼女は私のことを覚えていたようだ。私も覚えていたからお互い様かな。
「それとテオの……もう一人の私たちの仲間の冒険者プレートを持ち帰ってくれたのよね」
「ギルドから受け取ったよ。嬢ちゃんには感謝してもしきれん」
「ありがとう」
「たまたま見つけただけだから……」
ギルドに渡したプレートは、無事にこの三人の元へと渡ったようだ。
何故助けてくれなかったのかと、責められてしまうかもしれない。そういったネガティブな思いが、ほんの少し私の心の片隅に存在していたことを否定できない。
でも、そんなことを言うような人達じゃなかったみたい。みんな優しいね。
「何かお礼でもしたいんだけど……」
「いらないです。しいて言うならこれからは慎重に生きてくださいね」
「あはは……そうね。気を付けるわ。それならせめて名前を教えてくれる? 私はマチルダよ」
「リアです」
槍使いの男性がジム、もう一人の若い男性がミックという名前だそうだ。
「リアちゃんね。いつか必ずお礼をするわ」
「私は近々この街を出るので、いつかまたお会いできるといいですね」
「あらそうなの……そうね、いつか必ず」
この広い世界で示し合わせることなくもう一度、というのは難しい。だけどまあ、長生きしていればいつかまた会えるかもしれない。
別にお礼が欲しいというわけでもないし、会えなくても問題はない。それくらい軽い約束でいいのだ。少なくとも、私からしたらね。
「わたしたちの仲間に何か用?」
話をしていると突然後ろから声がかかり、腕が私の肩に回され引き寄せられる。軽く振り返ると、案の定エルシーナがいた。
ちょっと怖い顔をしているので、何か誤解をしているみたい。
「エルシーナ。この人達は今朝話した人達だよ」
「ああ……なるほどね」
そう言いつつも、腕は離れないし表情が穏やかになることは無かった。どうしたんだろう。
マチルダさんたちは少し戸惑っているようだし、クラリッサとセレニアも戻ってきたようだからそろそろお暇すべきかな。
「用事は終わった?」
「うん、終わったよ。帰ろ」
「そうだね。それじゃあ、皆さんお元気で。さようなら」
「え、ええ。本当にありがとうね。お嬢さんも気を付けてね」
マチルダさんたちにお別れを告げると、エルシーナが肩から腕を離した。かと思ったらすぐに、私の手を取ってギルドの出口へと引っ張っていった。
セレニアとクラリッサも黙ってついてくるだけだ。別にその二人におかしな様子はないので、ギルドマスターと会話をして嫌なことがあったってわけではなさそう。
前に立っている彼女の表情は見えない。エルシーナは一体どうしたんだろう。




