第160話 会いたかった
お金を魔道袋に大事に仕舞い、受付での用事は終わったのでそこから離れる。
ルストさんと……アルさんだったかな、二人と別れの挨拶をしておこう。
「リアの嬢ちゃん、いろいろ世話になった。ダンのことは気にしなくていい。あいつは最近ずっと荒れていた。リアの嬢ちゃんに会っていようがいまいが、あいつはマンイーターの話に飛びついていた」
「ダンは元々頭に血が上りやすいやつだからな。嬢ちゃんは何の責任も感じなくていい。それを感じなきゃいけないのは止められなかった俺たちの方だ」
「……そう……じゃあね」
気を遣われている。私のことを正当化してくれている。原因の一端が、私にあるとは言わないでいてくれる。
当然だ、私に責任はない。……素直にそう思えるような図太い人間だったらよかったのに。
碌な返事もできないまま、ギルドを出ようとドアの方へ向かう。
するとちょうど外から屈強な大男が入って来て、それに続いてぞろぞろと人が入ってきた。
そしてその中に、会いたかった人達の姿を見つけた。
「エルシーナ、セレニア、クラリッサ」
「あ! リア!」
エルシーナが私に気が付いて、タックルをかます勢いで私に突っ込んできた。ガクガクしている脚には耐えられないんだわ。
よろめいた私を支えてくれた……かと思えばお尻の下辺りを抱きしめるように持たれて、そのまま持ち上げられ一回転。いやちょっと。
「ただいま!」
「おかえり。重いでしょ」
「軽いよ! お迎えに来てくれたの?」
「………………うん、まあ、うん」
「嘘が下手だねぇ!」
嬉しそうに笑うエルシーナに一瞬でバレる。いやでも会いたかったのは事実だし、きっと迎えに行っていたはず。たぶんそう。
後ろに倒れたら怖いのでエルシーナの肩に手を置く。脚は後ろに曲げているけど、エルシーナに巻き付けた方が楽かな。
降りるという選択肢がないことに自分でビックリしたけど、ずっと会いたかったから少しくらい良いよね。
「……何かあった?」
私の顔を見つめながら少しだけ眉を下げて聞いてくる。ああ、何かあったんだとバレてしまうくらいには酷い表情をしているのか。
「ん……あった、けど。疲れたから帰って寝る」
「そっか。わたしも疲れたから、一緒に帰って寝よ?」
「うん……もう帰って大丈夫なの?」
用があったからギルドに来たんじゃないんだろうか。他の人は受付に行ったのかな? 周りを見渡すと、私たちがめちゃめちゃ目立っているのがわかる。ですよね。
ルストさんとアルさんが遠くでこっちを凝視しているのが見える。さっきまであんなに暗い話をしていたのに、ごめんなさい。
でも正直もう考え事はしたくない。
そんなことを思いながらもエルシーナと会話をする。どうやらここでの用はすぐに済むらしい。
しばらく経たぬうちに、受付に行っていたセレニアとクラリッサが呆れた様子で近づいてくる。
「公衆の面前でまったく……エルシーナ、冒険者プレートを預かるそうだから外せ」
「今両手塞がってる」
エルシーナも私を降ろす気が無さそうだ。なので、私がエルシーナの首にかかっているプレートを外してセレニアに渡した。
セレニアは溜息を吐きながらそれを受け取り、何も言わずに受付の方へ向かった。苦笑いしながらそれを見送っていると、クラリッサが話しかけてくる。
「リアさん元気にしてましたか」
「疲れたけど、元気だよ。そっちも元気そうだね」
「ワタシたちも疲れましたよ。なんだか顔が少し赤いですね。日焼けでもしました?」
そういえば少し焼けたんだったな。日焼けというか火傷だね、これは。
「似たようなものかなぁ」
「あとで治しますか?」
「うん、お願い」
明日にでも神殿に行く予定だったけど、クラリッサが治してくれるならそれでいいかな。
クラリッサと話していると、私を持ち上げているエルシーナがゆらゆら揺れ出す。どうしたのかとエルシーナを見ると、こちらを見上げながら微笑んでいる。
いつもなら私が見上げているのに今日は見下ろしている。なんだかすごく新鮮。
「良いことあったの? 昇格した?」
「昇格したかは後日知らせるって。良いことはリアに会えたことかな」
にこやかにそう言われちゃうと、私も嬉しくなっちゃう。頬が緩んでいくのが自分でもわかる。
「ふふー、私もエルシーナに会いたかった」
「ホント? 寂しかった?」
「寂しかった」
ギューってしたくて腕を伸ばし、首元に絡まる。エルシーナも意図を理解したのか、私を乗せている腕を引き寄せてくれる。コアラみたいに抱き着いてエルシーナの体温や匂いを堪能する。
いつもなら恥ずかしくなるだろうけど、さっきまでいろいろあり過ぎたからか、恥ずかしさよりも嬉しさや安らぎの方が勝っている。落ち着くなぁ……ダメだこれ、癖になりそう。
「降りる。寝そう」
三人に会った嬉しさで眠気が飛んでいたけど、落ち着きすぎて再度睡魔が襲い掛かってきた。さすがにこのまま寝てしまうわけにはいかない。エルシーナも疲れているみたいだし。
「あらら。セレニアも戻ってきたし、帰ろっか」
「そうだね」
エルシーナにゆっくりと降ろされる。
地面に足をつくとダルさが戻ってくる。思わず膝に手をついたけど、すぐに真っすぐ立って歩き始める。すると、エルシーナが私の片手をとって握ってきた。
こうやって手を繋いで歩くのも久々な気がするなぁ。エルシーナを見上げると不安そうにこちらを見ているので、薄く微笑んでおいた。心配かけちゃったかな。大丈夫だよ。
呆れ顔のセレニアと、微笑ましい物を見るような目をしたクラリッサと一緒に、四人で宿へと戻った。
たくさんの評価、ブクマありがとうございます。励みになります。




