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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第5章 中央大陸・自己分析編
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第159話 ようやく戻ってきた

 移動しているだけで時間はどんどん過ぎていく。脚が上がらないし、筋肉が悲鳴を上げているのがわかる。

 何もない平野を走っていて、方向がわからなくなってきて、そういえば灯りをつけていなかったことに気が付いた。

 疲れたんだろうな。いつも通りの行動が全然できない。


「はあ、はあっ……こんなところで倒れたら、それこそ死ぬよね」


 呼吸が苦しくて少し休む。さすがに走り過ぎたのか、身体強化を使っても転ぶばかりで前に進んでいる気がしない。むしろ歩いた方が良いのかも、少し落ち着こう。


 その後も何とか歩き続けて、結局密林に向かう時の倍以上の時間をかけてエルゲルに到着した。


「太陽が眩しい……。疲れたけど、ギルド行かなきゃダメだよね」


 ルストさん達と道中で会うかと思っていたんだけど、誰も見かけなかった。一足早くエルゲルまで戻ったのかな。途中で魔物にやられてなければだけど。死体とかなかったし、平気だろう。


 怪我は大したことないし、冒険者ギルドに行ってマンイーターの討伐報告など諸々済ませてしまおう。



 ギルドに入ると冒険者でごった返していた。そうか、朝だからか……でも早朝のピーク時は過ぎたようで少し待てば受付も空くだろうし、待っていよう。


「いやもう疲れた……寝てないし、帰りたい。明日でいいんじゃね……?」


 もう脚がガクガクしてるよ。

 受付の列で待ちながらブツブツ呟いていると、突然デカイ声が響いた。


「リアの嬢ちゃんか!?」

「あー……ルストさん」


 疲れた身体に響く大きな声を上げたのはルストさんだ。横には元気になったらしい仲間の男性もいる。元気というには二人とも疲れた顔をしているけど。

 たぶん休んでないんだろうな。


「無事だったか!?」

「声がデカイ。ケガは平気だけど疲れてるの」


 眠気が私を絶えず襲ってくるせいで瞼が重い。そこへルストさんの大きな声は効く。

 私の言葉にルストさんは声のボリュームを抑えて謝罪をする。


「すまん、ただ大きな爆破音が響いたから心配になってな」

「ああ……平気」


 そうか、結構大きめの爆弾を作ったから威力もなかなかだった。その分大きな音が響いただろうし、もしかしたら街まで響いていたかもしれない。

 使い勝手の悪い武器だなぁ。


「それで……マンイーターはどうなった?」

「次の方どうぞ」


 ルストさんの言葉に反応するよりも早く、受付のおねえさんが話しかけてきた。何にも考えずにこの受付に並んだけど、この人マンイーターのこと教えてくれたおねえさんだ。

 ようやく私の番になったので、ルストさんの質問には答えずに受付へ向かう。


「リアさんですね、本日はどうされました?」

「巨大マンイーターの討伐報告と、死んだ冒険者の遺留品を渡しに来た」

「え」


 驚いているおねえさんを尻目に、魔道袋からマンイーターの魔石と布にくるんだ二枚の冒険者プレート、そして誰かの魔道袋を取り出して受付の台に置く。


「これ……ダンの、か」


 冒険者プレートを見てそう呟いたルストさんと、それを聞いて息を飲んだ仲間の男性。二人には何も言わないまま、受付のおねえさんと話を続ける。


「魔石は換金して。報酬もらえる?」

「あ……はい。少々お待ちください。リアさんのプレートと、こちらも一度お預かりしますね」


 そう言っておねえさんは置いてあったもの全てと、私の冒険者プレートを預かり奥へ引っ込んだ。

 実は冒険者プレートには術式が刻まれていて、個人情報がいろいろ入っているんだとか。詳しいことはわからないけど、ランクアップのための評価なんかもアレを調べればすぐにわかるらしい。

 さすが身分証になるだけあるよ。


「……ダンがどうなったのか、聞いてもいいかい?」

「話せるところだけなら」


 爆弾の話はできないけど、彼がどうなったのかくらいは話しておかなければいけない。この二人はあの人のパーティメンバーなんだから。


 マンイーターに飲み込まれたこと、胃の中で溶けつつあった彼に、私がとどめを刺したことも告げた。そこまで話さなくてもきっとバレはしなかっただろう。でも、話しているうちに口から出てしまったのだ。

 耐えきれなかったのかもしれない。私を見るこの二人の苦悶の眼差しに。


「それくらい、かな」

「そうか……」


 一通り話終わったが、ルストさんは一言つぶやいて黙ってしまった。もう一人も同様だ。

 そこへ受付のおねえさんがトレイを持って戻ってくる。トレイには大きな袋と、冒険者プレートと所有者のわからない小汚い魔道袋が乗っていた。


「討伐の確認が取れました。こちらが魔石の買取代金と報酬金、それとリアさんの冒険者プレートです」


 冒険者プレートを返してもらい、首にかける。見た目には何にも変化ないのよね。

 そして、お金! 袋を持ってみるとなかなかの重さだ。中を確認するとジャラジャラと金貨の山が。いいね、やっぱりお金は最高だ。


「遺留品の冒険者プレートに関しては、こちらからパーティメンバーの方にお渡ししておきます。その際名前などは明かしますか?」

「明かさない。関わるつもりはない」


 ダンさんのパーティメンバーは今ここにいるから明かすもクソもないんだけど、もう一つの方はおそらくマチルダさんたちのパーティメンバーだ。

 たぶん会えばバレるんだけど、わざわざ話をしたいとは思わないから、情報なんて明かすつもりはない。


 仲間の死に際を聞きたいと思う人はいるだろう、でも死人の冒険者プレートを持ってくるのは基本的にその人の善意からだ。それ以上の面倒ごとまで背負うつもりはない。

 逆に持ってきたことに恩を着せて何かを要求する人もいる。別に度を過ぎなければそれが悪いということでもないので、ギルド側も止めたりしない。

 そういった様々な理由から、ギルドが持ってきた本人に個人情報を明かすかを問うのだ。


「ダンの冒険者プレートは俺たちが預かる」

「はい。ではお渡ししておきます」


 横からルストさんが受付のおねえさんに話しかける。おねえさんもこの人達がダンさんのパーティメンバーだということを把握していたようで、ダンさんのプレートを渡していた。


「あと、こちらの『立体拡張魔道袋』なのですが……」


 そういえば魔道袋ってそんな正式名称だったなぁ。


「どなたの物かは把握できませんでしたので、規則に従いリアさんに所有権が譲渡されます」

「そうなの?」


 所有者のわからない魔道袋は見つけた人の物になるらしい。いいのかそれで。まあ、ギルドが所有者を探す義理もないしね。それにたぶん死んでいるし。

 でもそんな小汚い魔道袋なんていらないんだけど。魔物に飲み込まれたやつだからね。


「いらないんだけど」

「でしたらこちらで買い取り、後日精算した金額をご提示致します」


 ギルド側で中に入っている金目の物などを全て精算してくれるらしい。ありがたい。


「それってダンのだよな?」

「アル、これはもう嬢ちゃんのだ」

「わかってるよ」


 これダンさんのなのか。尚更貰っていいのかね?

 あと、もう一人のお仲間の名前を今初めて聞いたな。


「返して欲しいなら返すけど」

「いや、構わない。むしろ俺たちは君にお礼をしなければいけない立場だ。他にも何か欲しい物があればなんでも渡そう」

「いらないよ」


 なんでもとか言われてもね。お金は今たんまり手に入ったし、後日また手に入るようだし、お金以外で欲しい物は特にない。


「……私はお金さえ手に入れば十分だから、思い出の品とかがあるならギルド側と交渉してよ」

「そうなるとリアさんに渡される金額が減ってしまう可能性もありますが」

「拾い物だしね。期待はしてないよ。あんまり高価な物なら私にも一言言って」

「ダンの魔道袋にそんな高価な物は入っていないとは思うが、そうさせてもらう。ありがとう」

「ありがとな嬢ちゃん」


 二人にお礼を言われ、話は終わった。これでここでの用は済んだ、ようやく帰れる。


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