第156話 決戦! 巨大マンイーター!
「速いっ……!」
本気モードへと移行したマンイーターの蔓は、先ほどよりも速く私を狙って振り下ろされてくる。しかも先ほどよりも数が多いため、走り続け、障壁魔法で弾きながら避けていくしかない。
「でも、近づいてはいる!」
遠回りではあるけれど、徐々にマンイーターの本体へと近づいてはいる。というか、止まったら最後捕まって食べられるのが目に見えている。止まることも遠ざかることもできない。
あとは私の体力と魔力が持ってくれることを祈るばかり。
マンイーターにかなり近づいたところで、頭上から強い悪寒を感じ、身体強化に更に魔力を込めて強く踏み込み、跳ぶようにその場から離れる。
ベチャっと粘度のある液体が地面に落ちる音がして、隙をみて上を見てみる。花の口元から涎のようなものが垂れていて、どうやら花から何かが吐き出されたようだ。
吐き出された大量の液体は音を立てながら大地を溶かしている。毒? それとも酸かな。溶解液のようなものかも。
また少し離された距離を埋めるように走る。でも走りっぱなしはさすがに辛くなってきた。早く近づいて倒してしまいたいという欲が動きに反映され、集中力が落ちてくる。
「うわ!」
突然、足元から嫌な予感を感じ取り、ギリギリで回避行動を取る。地面から根っこが突き出てくるのを間一髪で避けることができた。二の腕辺りを擦ったが、かすり傷程度だ。危なかった。
このまま止まってしまっては蔓に捕まってしまう。走り続けないと。しかし、地面から出てきたのは根っこだけではなかった。
マンイーターのいる場所から、まるでモグラの通り道のように土が盛り上がりながら私の方へ向かってきた。また根っこかと思いきや、先ほどの根っこよりも範囲が広い。
嫌な予感がするので大きく避けると、大きな尖った土柱が勢いよく地中から突き出てくる。
勢いも範囲も大きさも、受けたらひとたまりもない程の威力だ。腹に穴が空く程度では済まないな。
「土魔法まで使うとはね!」
マンイーターは風属性だったはずなんだけど、このマンイーターは違うらしい。
魔物が使う魔法は魔石の色、火や水などの属性によって変わってくる。体内に風の魔石を持っているなら風魔法を使うけど、どうやらこのマンイーターは土の魔石をお持ちのようだ。
何にせよ、これでさらに近づき難くなってしまった。
本当に手数が多い。何かいい方法はないだろうか、体力がなくなる前に思いつかないと。
「はあ、はあ、はあ……ああもう」
このままだと疲れて足が止まってしまいそうだ。一か八か、賭けに出るしかない。
風魔法の杖を取り出し、魔力を込める。そして一気に360度水平に風の刃を飛ばしまくる。蔓や根っこがバラバラになっていく様子を確認する間もなく、マンイーターの方へと思いっ切り跳び上がる。
眼前には大きな花……というには毒々しすぎるマンイーターの口が大きく開かれながら私を喰らおうと迫ってくる。
「それはさっきの二の舞だよ!」
風の杖を仕舞い、障壁魔法の杖を構えながら爆弾を作り出す。さっきよりも大きな花だから爆弾も大きめだ。でも障壁魔法なら耐えられるはず!
先ほどのように身体を囲うように障壁を展開しようとした瞬間、胴体に復活した蔓が巻き付いてくる。
「構うか!」
爆弾はすでに花へと投げ込まれた。この爆弾の被害に遭わなければ問題はない。
ドオォン!
大きな爆発音と共に、周りが白いモヤに覆われる。爆発する正面に障壁魔法を一枚作り出しただけだったので、このモヤが少し私に触れる。
「あっちぃなこれぇぇぇぇ!?」
爆発しているんだから当然だけど! そして私に巻き付いている蔓は爆弾の衝撃を受けたようで、大きく揺れ始めた。当然捕まっている私も大きく揺らされ声が伸びる。酔いそう。
モヤが晴れるとそこには花の原型はほとんど残っていなかった。どうやら無事に消し飛ばせたようだ。あとは本体の部分だけ!
でも先にこの蔓をどうにかしないと。蔓は胴体に巻き付いているだけで、両腕は自由だ。
しかし、魔道袋から剣や杖を取り出すことはできない。今持っている障壁魔法の杖か、爆弾、身体強化でどうにかしなければ。
でも障壁は他の蔓が近寄ってくるのを薙ぎ払っているので使えそうにない。それならば。
「ぐぬぬ……硬い!」
身体強化で引きちぎろうとしてみたが、びくともしない! 爆発の影響を受けているくせに頑丈だなぁ!
「仕方ない、爆弾で……うぇ」
蔓が暴れて大きく振りまわされる。目が回りそうで思わず呻き声が漏れる。どうにか爆弾を作り出し、私に当たらないように気をつけながら蔓に投げる。
ドォン!
当たるまで何度でもやるつもりだったが、運よく一回目で爆発が蔓に当たる。私を掴んでいる部分から力が抜け、空中に放り出された。
すぐさま他の蔓が寄ってくるが、障壁を足場にして空中に着地。本体の根本まで移動を開始する。
やっぱり爆弾を使うわけだけど、このマンイーターを爆散させるほどの威力のある爆弾を作るとなると、周りへの被害が心配になる。
私だけが助かればいい、という思いはあるが、せっかく消火活動をしたのに私が周りの木々を破壊してしまうのは本末転倒な気がする。
「そんなわけで」
巨大な花が消えたおかげで、マンイーターの頭上には隙間ができた。蔓は少し邪魔だけれど時間は一瞬だ。障壁魔法が堪えてくれるのを期待しよう。
マンイーターのほぼ真上まで蔓を回避しながらたどり着き、多めに魔力を込めた爆弾を野球ボールのように本体部分へと投げ落とす。
そしてすかさず下方向へ障壁魔法を大きく展開。マンイーターを囲い込むように半円型のドームで覆い、私もドームの天辺に立つ。
蔓が障壁を押し返そうとしてくるが、ある程度覆いきれればなんとかなる! どうにか割れないでくれよ!
障壁魔法を全力で維持。そして轟音が鳴り響き……。
ビシィ!
と、障壁が音を立てた。
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