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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第5章 中央大陸・自己分析編
155/212

第154話 仲間って何なのだろうか

 マンイーターの攻撃から二人を守るように剣を振るい、走る。マンイーターがいた場所から少し離れたところまでどうにか移動をすることができた。

 結局、ダンというおじさんはついてこなかった。そのおかげで攻撃が分散して、さほど苦労せずに抜けてこられたけど。一体どうしたんだか。

 この辺りに魔物はいないようなので、ひとまず落ち着けそう。


「助かったよ。ありがとう」

「うん」


 中年男性が私にお礼を言いながら、背負っていた男性を地面に降ろす。血だらけの男性の口元に手をやり、身体の状態を確認している。


「一応生きてるな」


 意識はないが、呼吸はしているようだ。よかった。

 応急処置をするらしく、魔道袋から包帯などを取り出している。私は手伝う……よりも、周囲の警戒をしている方がいいだろう。


「嬢ちゃん、ダンと知り合いなのか?」


 周囲を見回していると、男性が迅速に応急手当をしながら器用に話しかけてくる。

 知り合い……知り合いではないな。


「私はリアだよ。あのおじさんとは、この前冒険者ギルドで絡まれただけ」

「俺はルストだ。ああ君が……それは悪かった」


 ルストさんは申し訳なさそうに、そして若干の呆れを含ませながら謝罪をする。その様子だと、騒ぎがあったことくらいは知っているのかな。


「ここ最近……ってわけでもないが、あいつ荒れててな。焦っているんだとは思うんだが」

「私には関係ないよ」

「はは、それもそうだ。あいつは君みたいは若い子が羨ましいんだろうな。そのせいでちょっかいをかけてしまったんだろう。すまなかったね」


 それはまあ、あの時ギルドで絡まれた時に思ったよ。でもそんなこと私に言われても困る。やっぱりさっきのも……私に対して何かしらの思うところがあったからなのかな。

 絶体絶命のピンチを私一人の力で変えたと言えば、その通りだしね。あのおじさんにはショックだったのかもしれない。


「よし……おい、起きろ」


 応急処置が終わったのか、ルストさんは気絶している男性の身体を揺すったり叩いたりしている。大丈夫なのかそれ。


「うっ……いってぇ……」

「起きたか。立って自分で歩け。さすがにお前抱えたまま街まで行くのは無理だ」


 なんと、本当に起きてしまった。そんなに深い傷ではなかったのだろうか。ルストさんはそこそこ辛辣だけれど、事実男性一人抱えたままエルゲルまで行くのは無理だろう。

 ただでさえ移動に一日近くかかるほど遠いんだから。馬でもあれば半日、私なら二時間だけど。


「ルスト……俺生きてんのか」

「ああ、この子に礼を言っておけよ。彼女が来なければ全滅していたからな」

「ぐっ……よくわかんねーけど、ありがとな。いってぇ……」

「どういたしまして」


 男性は呻き声を上げながらどうにか立ち上がり、私にお礼を言った。戦えるかは微妙だけど歩くくらいはできそうだし、護衛はここまでで大丈夫だろうか。


「おい……ダンはどうした。まさか……」

「あいつはもう来ない」


 男性があのおじさんがいないことに気が付いてルストさんに尋ねているけれど、ルストさんは一言言い切った。


「あいつ、やられちまったのか!?」

「さあな」

「はあ? どういうことだよ?」

「確かなのは、あいつは俺たちを見捨てた。だから俺もあいつを見捨てることにしたってだけだ」


 まあ、間違ってはいないね。私が口を挟むことでもないから黙っていよう。


「リアの嬢ちゃん、俺たちはこのままエルゲルまで戻るが……君はどうする?」


 ルストさんはこのまま二人だけで街まで戻る決意を固めたようだ。それも仕方がないだろうけど。


「私は向こうに戻る。せっかく花を二つ落としたし、倒せそうだから」


 四つある花の内、二つを斬ることができた。それにまだ無傷だし、魔力にも余裕はある。私に攻撃が集中するだろうけど、危険になったら逃げればいい。

 このまま帰るのはなんだか勿体ないんだもの。


「ダンが聞いたらキレそうな話だな……」

「リアの嬢ちゃん、仮の話だが」


 ダンさんがどうなったかを詳しく知らない男性が軽く笑いながら言うけれど、ルストさんはそれを無視して私に視線を合わせる。

 真剣な表情で何を告げられるのだろうか。


「もしダンが生きていたとしても、君が無理をしてあいつを助ける必要はない。自分が生き残ることだけ考えてくれ。俺たちと一緒に来なかった時点で、あいつはもう死んだ」


 そうハッキリと、彼は死んだと言い切った。

 確かにあれからまだ数分と経っていない。戻れば生きている可能性はある。

 でも、ダンさんを助ける義務も義理も私にはない。そもそも彼自身が私の助けを拒否したのだ。素直に一緒に逃げ出していれば、少なくてもここにはいられたはず。

 私が黙っているとルストさんが続ける。


「だから、どんな結果になっても君が気に病む必要はない。俺たちは冒険者なんだから」

「……うん、そうだね」


 ルストさんは私に、冒険者の生死は本人の責任だと言ってくれているのだ。助けられる程近くにいても、その人の死に責任を感じる必要はないと。


 改めて、自分たちの仕事がとても危険なものであると認識させられる。


 最近はよく冒険者の心得を説かれるな。経験者の意見は大事だから聞いておこう。ダンさんの話も、ちゃんと聞いておけば()()はならなかったかな。

 いや、ここであの巨大マンイーターと戦った時点で、私の実力はダンさんにバレる。あの時冒険者ギルドで出会い、話しかけられた時点で避けられない運命だったんだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] この辺りの話の展開、というか持って行き方?とても好きです。
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