第153話 救助してやりましょう
どのタイミングで参戦すればいいかと木の陰に隠れて思案していたら、とんでもないことが起きた。
なんと、宙吊りになっている魔法使いの女性がパニックになったのか、火の杖を使ってめちゃくちゃに火の塊を放出し始めた。
マンイーターに当たったものは多少のダメージになっているみたいだけど、火力が足りないのかマンイーターの攻撃が止むことはなかった。
それよりも、明後日の方向に飛んで行った火の玉が、木に当たって燃え始めてしまった。
それはダメだろう。
この辺一体燃やしてしまえばマンイーターも燃えるだろうけど、おそらく誰も助からない上に、どこまで燃え広がるかわからない。
最悪、密林が消えるかもしれない。
参ったな……消火活動するしかないか。助けるよりも消火活動を優先しよう。
水の杖を持ち、脚の身体強化を使いながら走り出す。
その際ちゃんと地上にいる冒険者たちの視界に入る位置を通る。
「なんだ!?」
「手伝ってやる! あの魔法使いを止めろ!」
「お前……! あの時の!」
「は?」
戦っている槍使いの男性が私に気が付き驚いているが、別の男性が私を見て何か言っている。知っている人?
……あー! 冒険者の心得を説いてきたおじさん! 何してんだこんなところで……。
ああもう、まずは燃え広がる前に消さないと。
これ以上火の魔法を使われても困る。仲間からの声掛けで正気に戻るかもしれないから、どうにか止めてくれ。
燃えている場所に水をかけて回る。燃えている個所は小さいけど、数が多い。急がないと。
「マチルダ! 魔法を止めろ!」
槍使いの叫ぶ声が聞こえる。
マチルダっていうのも聞いたことあるな……あー、一攫千金を狙っていたおねえさんか?
あ、この槍使いの人も見かけたな。確かおねえさんのパーティメンバーだ。
魔法使いのおねえさんには聞こえているのかいないのか、単純に魔力が無くなったのか、火の玉が出てくるのは止まった。たぶん魔力切れだな。まだ杖を振り回しているし。
知っている人ばっかりだ。これは何とも……運が悪い。
火の玉は止まったけれど、燃えている個所がある限り消火活動を続けるしかない。
マンイーターの敵意は私にも向くようになってしまい、太い蔓が私を何度か狙ってきている。危機察知のおかげで当たりはしないけど、消火活動に時間がかかってしまうな。
ようやく最後の火に水をかけているところで、一際大きな悲鳴があがった。
「きゃあああああ!!!」
見ると、花の口が大きく開き、マチルダさんが頭から食べられる寸前だ。
槍使いがどうにか助けようと奮闘しているが、位置が高すぎる上に、そもそも近づけていない。例え槍でも届かないだろう。
仕方ない。消火活動は終わったし、人命救助に移りますか。
水の杖を仕舞い、障壁魔法の杖と剣を取り出す。
身体強化を使いながらマチルダさんの方へ走る。本体のマンイーターに近づくのと同義なので、迫る蔓を躱しながらだ。
距離が近づいてきたら、空中へと跳び上がる。障壁魔法を使いながら、空中を走る。
この杖とはもう、それなりに長い付き合いにもなった。便利すぎてとてもじゃないが手放せない代物だ。
蔓を避けながら跳ぶ。障壁を足元に作り、更に進む。邪魔な蔓を斬り落としながら花に近づく。蔓は数が多い上に、斬ってもすぐに再生していて面倒だ。
「はあ!」
口の中でもごもごされているマチルダさん。それを食べている花の茎の部分を一閃。
ここはそんなに固くはないようで、綺麗に斬れた。人一人通れる太さなので、細くはないけど。
斬り落としてしまったので、花ごと彼女が地面に落ちていった。大丈夫かな?
花を斬っても大したダメージにならないのは、小さいハエトリグサで学んでいる。やっぱり倒すなら根本の部分をどうにかしないと。
もう一人は生きているのかわかんないけど、すでにマンイーターの口の中にいるのが見えたので、一応助けに行く。
先ほどと同じように障壁魔法で足場を作り、空を駆ける。急がないと飲み込まれてしまう。下の胃のところまで行ったらさすがに助けられない。
鬱陶しい蔓を薙ぎ払いながら、身体強化で勢いよく跳ぶ。
男性は飲み込まれちゃったけど、茎の中を通っているのが外から見てもわかるので、その辺りより下を切れば出てくるはず。
「よし!」
剣で茎を斬り落とすと、その中から血だらけの男性が出てくる。生きているのだろうか。これで死んでたら……まあ、持ち帰るのはお仲間の役目だ。私には関係ない。
あと最初に喰われていた人もいたけど……飲み込まれたらもう無理かな。残念だけど、私には助けられない。せめて残りの人達をどうにかしよう。
花を二つも斬ってしまったので、ほとんどの蔓と花が私を狙ってくるようになった。苛烈な攻撃に一度本体から離れざるを得ない。
地上で戦っている人達の相手もしてやってくれよ。落ちた花が動いて襲いかかってはいるけど、あれは動きも遅いし地を這うように移動しているだけなので、すぐにとどめを刺されている。
落ちた二人は地上にいるお仲間が助けて抱えているのが見える。花には牙も生えていたから、二人とも血だらけだけど、あまり咀嚼はされず丸呑みされたっぽいね。
「嬢ちゃんありがとな! おい! 逃げるぞ!」
「ダン! 俺たちも逃げよう!」
マチルダさんを抱えた槍使いと、気絶した男性を抱えた中年男性はそれぞれ違う人に話しかけている。
やっぱりこのマチルダさんのパーティと、あのおじさんのパーティは別のパーティなのかな。見た目も年の差があるし、連携もあまり上手くできていないように見えたから予想はしていたけど。
とりあえず、あの人達が逃げてくれるまでヘイト集めと回避に専念するしかないな。さっさと逃げてくれ。
マチルダさんと、マチルダさんを抱えた槍使いと、若い男性の三人は素直に撤退してくれるようで、マンイーターから離れていく。
あの人達は元々四人パーティだったはずだけど、喰われたのはマチルダさんパーティの人だったのか。
残りはおじさんパーティの三人なんだけど……なんだか様子が変だ。
「何やってんだ! 早く逃げねえと死んじまうぞ!」
「クソクソクソクソ!!」
ダンと呼ばれた、例の説教おじさんは迫りくる蔓を剣を振り回して斬り落としている。しかし、何故か逃げる方向ではなくマンイーター本体の方を向いている。
逃げるのならマンイーターに背を向けて蔓を弾き飛ばしながら走るしかないのだけれど、あれは何をしているのか。
つーか、さっさと逃げてくれないと私が困るんだけど。
私を狙う蔓を防ぎながら、おじさんに向かって叫ぶ。
「おじさん! 早く逃げてよ!」
「だまれぇぇぇ!!!」
私の声を拒絶するかのようにおじさんが叫び、蔓を斬る動きが激しくなる。何か間違えてしまっただろうか。
「ちっ! 付き合ってられるか! 嬢ちゃん、手伝ってくれないか!」
「……わかった! 走って!」
中年の男性は背中に気絶した人を背負った状態だ。あのままでは武器を使うことは難しい。仕方がない、せめてあのマンイーターから狙われない位置まで護衛しよう。




