第152話 発見!?
エルゲルを出て密林へ。今日も着いたのが午後なので、あんまり長居はできそうにない。
すでに一昨日戦ったマンイーターと同種の魔物を二体仕留めた。巨大なマンイーターはまだ見つかっていない。見つけたらどうしようかな。さすがに戦うのはやめた方がいいとは思っているけど。
ただでさえ無断外出なのに、ケガまでしようものならどれだけ怒られるかわかったものじゃない。
今日は少し魔石を集めて、椿の種を集めたら帰ろう。巨大マンイーターは、エルフたちが帰ってきたら一緒に討伐に向かう方がいい。
そんなことを考えながら歩き回っていると、また椿に似た木を見つける。
「やったね。これも持っていこう」
落ちている種を拾い集めて魔道袋に入れていく。
つげ櫛を作るのに油はほとんど使ってしまったので、新しく作っておきたい。油を採るのは結構手間だけど効果はちゃんとあるから、できればたくさん欲しい。
ずっと屈んでいると疲れるよね。たくさん集まったし、これも帰ったら油にしよう。
ぐっと身体を伸ばしてから歩き始める。すると、遠くの方で声が聞こえた気がした。
「んー? 声? 人がいるのかな」
これだけ広い密林だし、エルゲルには人が多いから冒険者ももちろん多い。私以外に人がいてもおかしくはないだろう。
鉢合わせして魔物の取り合いになっても困るな。向こうに行くのはやめておこう。
きゃああああ……
「声っていうか……悲鳴?」
うーん。遠くてよくわかんないな。ちょっとだけ行ってみて、面倒そうだったら引き返そう。
なるべく音を立てないようにしながらも、急いで声の方へ向かう。
移動中も悲鳴が何度か聞こえていたけど……生きてるかね。
方角的に、密林のかなり奥の方まで来ているようだ。
そのまま進んでいると、密集していた木々が少しずつ減っていって、更に奥に向かうと開けた場所が見えてくる。
どうやら、声はあの開けた空間から聞こえてきていたようだ。なんでここだけ木が無いんだろ。
木の陰に隠れながら声の方を覗き見ると……。
「!!」
思わず声が出かけたが、なんとか飲み込む。酷いなここは。
「きゃああああ!!!」
「クソ!!」
「おらああああ!」
おそらく冒険者と思われるパーティが、大きな魔物と対峙していた。
あれが噂の巨大マンイーター?
魔物はハエトリグサに似ているけど、今まで倒してきた個体とは大きさが段違いで大きい。高さが二階建て一軒家くらいありそう。
腕を食いちぎれそうな大きさだった花は、人を丸呑みできるサイズにまで大きくなっている。それが四つも。
太くてまるで丸太のような蔓が二本、細いけど数の多い蔓が十数本以上ある。
根本は大きく膨らんでいて、あの部分だけでも小さな小屋が入りそうだ。四本の花は茎をたどってそこへと繋がっている。
きっとあそこに魔石があるんだろうけど、今までのように真っ二つにはとてもできそうにない。
明らかに今まで倒してきたハエトリグサの上位種だ。ここら辺に木々が無いのはあれのせいかも。
そんな大物に狙われているのが、冒険者……何人? 七人?
一人すでに頭から喰われている状況だ。まだ生きてはいるみたいで、花の口から出ている脚をバタつかせている。
悲鳴は魔法使いの女性が、蔓に掴まって宙吊りになっているせいみたいだ。あんなに叫ぶと他の魔物が寄ってきそうだけど、来てないっぽいな。さすがに虫系魔物もあの大きなマンイーターとは共存できないのかね。
他にも一人捕まっているけど、こちらは静かだ。気絶しているのか、すでに事切れているのか。
悪態をつきながらも蔓を防ぎ、雄叫びを上げながら攻撃を加えている者が四人。なるべく死角を作らないような陣形で戦っているのが見て取れる。
そして太い蔓に捕まっているのが二人、花に喰われたのが一人。
攻撃を加えている四人は迫りくる蔓を防御したりするので精一杯らしく、まともに攻撃はできていない。そもそも本体にほとんど近づけておらず、近くにある蔓を攻撃してばかりだ。あれでは仲間を助け出すのは無理だろう。
これは放っておくと全滅するな。
でもあの大きさの魔物……さすがに難しいかな。
私なら攻撃は避けられるだろう。目で追えない速さでもないし。ただ、倒すとなるとちょっと……。
魔石は大きそうだから、お金にはなるんだろうな。欲しい。
動き回れる個体ではなさそうなので、逃げるくらいは問題ないだろう。あの蔓を潜り抜けられればだけど。
私一人なら余裕だけど、ちょっと実力に不安のある人達を七人、いや六人か。あの人達をまさか担いで運ぶわけにもいかない。
私が囮になって時間を稼ぐ。面倒だけど、無難で助かる可能性も高い。
あれを一撃で倒せればカッコイイんだけど、さすがに今の私には難しい。エルフたちと一緒にいれば、きっとあまり苦労しないで倒せるんだろうなぁ。




