第151話 贈り物って良いよね
次の日は晴天だった。暑さが戻ってきたよ。
昨日塗っておいた油だけど、特に肌や髪に異常は見られない。
それどころか肌がしっとりしていて、髪もいつもより纏まっている気がする。一日じゃよくわかんないけど、これは本物かもしれない。
「よし、つげ櫛を作ってみようかな」
つげ櫛、椿油を染み込ませた櫛だ。そうと決まれば木製の櫛を買ってこよう。四つ分。
きっとランクを上げて帰ってくるであろう、あの三人にプレゼントしよう。お祝いとして。
喜んでくれるといいな。
朝から買い物に行き、四つ分の櫛を探す。
櫛自体はいろいろ売っているけど、できれば丈夫で長持ちするものが良い。油を染み込ませるから木製のものじゃないとダメだ。
「うーん……」
よく行くような道具屋で櫛を見てみるけど、微妙な感じ。
もっと良い物ないかな。贈り物なんだから、良いやつが欲しい。でもそうなると、お金もかかるよね。
「残高に不安が」
昨日稼いだから無いわけじゃないけど……物によってはスッカスカの財布になりそうだな。美味しいものがいっぱいあるのに買えなくなりそうだけど、妥協はしたくないから仕方ないか。
ひとまず値段だけでも見たいよね。
そんなわけで、ちょっと奮発して富裕層向けのお高めの店に足を運んでみる。こういう場所ってすごく緊張するんだよね……。
門前払いとかされないよね、一応身だしなみは整えてきたけど。
冒険者の身分証明になるCランクの冒険者プレートを見える位置につけておこう。多少は効果があるかもしれない。
「いらっしゃいませ」
店員さんが丁寧に出迎えてくれるけど、一瞬にして全身をジロリと見られたのがわかった。品定めをされたようだ。
「どのようなものをお探しで?」
この反応は……セーフ、なのかな? まあいいや、聞くだけ聞こう。
「木製の櫛を探しています。贈り物なので、良い物を」
一瞬思案顔になった店員さんだけど、すぐに店の中へと案内してくれた。
そちらに向かうと、ブラシがズラリと並んでいて、その中に少しだけ木製の櫛が置いてあった。どうやら主流なのはブラシの方らしい。
櫛も木製ではあるのだけど、色が塗られていたりするものもあって、木製かつ何も塗られていないものは少なめだ。
「こちらのものでよろしいでしょうか」
「はい。ありがとうございます」
そんなに数はないので、迷うこともないな。
どれも形は同じようだけど、花の模様などが彫られているものもある。それぞれ一つずつ買っていこう。値段は……どれも似たような金額。ケース付きみたいで、持ち運ぶのにも良さそう。
あー、三つは買える。四つ……四つは……むむむ……ちょっと無理そう。
まあ……いっか。私の分は諦めよう。あの三人に渡せればそれで十分だろう。欲しくなれば、今度お金が貯まってから買えばいい。
そんなわけで高級櫛を三つお買い上げ。
お財布スッカスカですね! 宿代をすでに支払っていなければ野宿になっていたところだ。
「ありがとうございました」
店員さんに見送られてお店を出る。
無事に購入できたので宿に一旦戻り、買った櫛を磨く。ニスなどが塗られていたら落とさないといけないからね。歯の部分も一本一本丁寧に磨いていく。三つ分なのでかなり時間がかかるな。
それが終わったら蓋ができる器に油と櫛を入れて放置。油の量が足りるか心配だったけど、なんとかなった。
確か一週間くらい浸けておくんだったかな。魔道袋の中でこぼれることはさすがにないと思うけど、ちゃんと蓋が外れないようにしておこう。
出来上がる前にあの三人は帰って来ちゃうかな。
やることは終わったので、腹ごしらえを済ませたら昨日行けなかった密林に行こう。お財布スカスカになっちゃったし、魔石を集めてお金稼ぎしないとね。
でもその前に、もう一度冒険者ギルドに寄っていこうかな。この前のおじさんがいたらあれだけど、覗いてみていなかったら依頼書を見て行きたい。
冒険者ギルドに着き、中を覗き込む。……うん、いないね。大丈夫そう。全く、なんで私の方がコソコソしないといけないのか。
今日はあんまり人がいないな。いるにはいるけど、一仕事終えた雰囲気の人達ばかりだ。何故か壁際に突っ立っている人達が何人かいるけど、ああいう人達は一体何をしているんだろう。
ひとまずギルド内に入り壁に貼ってある依頼書を見に行こうとしたら、受付のおねえさんに話しかけられた。
「リアさんですよね。少しよろしいですか?」
「ん? なんでしょう」
受付の方へと向かい、おねえさんの言葉を待つ。
受付のおねえさんって人間種が多い気がするなぁ。ドワーフとの違いって胸の大きさくらいしかないから見分けつかないけど。エルフは見たことないかも。
「エルゲルから北東へ向かうと密林があるのはご存じですか?」
「ああ、うん。一昨日行ってきた」
「え、お一人でですか?」
「そうだけど」
目を見開いたおねえさんだったけど、すぐに真剣な表情に戻る。何かあったのかな。
「密林で巨大なマンイーターが目撃されましたので、注意喚起をしているんです」
「へー。討伐したら報酬あるの?」
「あ、ありますけど、さすがにお一人では難しいかと……」
「そうねぇ」
普通のマンイーターでも結構面倒くさいからなぁ。巨大なマンイーターってなると一人じゃしんどいかも。
でも、それならなんで私に話したんだろ。私以外にも話しているのかな?
「注意喚起ってみんなにしてるの?」
「注意喚起は皆さんに。貼り紙もしてあります。Cランク以上の方にはそういう依頼があるとお知らせする目的もあります」
「誰も受けてないの?」
「人数にもよりますがCランクでも少し難しい相手なので……」
できれば高ランクの冒険者に依頼をしたいんだけど、今この街にはBランク以上の冒険者っていないんだって。
その素質がある人達は、現在昇格試験の真っ最中だし。
「Bランクいないんだ」
「今滞在しているという話は聞いていません。そもそも、高ランク冒険者ってそんなに多くないですし」
「そうなの? 結構いるもんだと思ってた」
「そんなことありません。なかなかなれないから高ランクと呼ばれているんですよ」
それはそうだけど。中央大陸には結構いたから、どの街にも一つ二つくらいパーティがいるものかと。あれは『魔物の海』が活性化して強制徴集されていたからなのかな。
「高ランクの人達が真面目に依頼を受けてくれることは少ないですから。お金も持っている方々なので、ギルドに顔を出さないまま街に滞在しているなんてこともありますし」
「へぇー」
そう考えると、あのエルフ三人ってBランクに上がったらたくさん仕事押し付けられそう。根が真面目だもの。
「とりあえず、密林に巨大なマンイーターがいるってことね」
「はい。密林に行かれる際はお気をつけください」
話が脱線してきたので、そろそろ切り上げて出かけよう。
壁の依頼書はあんまり貼られていないので、今日はもう大した依頼はないみたいだ。このまま密林まで行こう。
受付のおねえさんにお別れを告げて、ギルドを出た。
たぶん次回から暗くなっていきます




