第15話 冒険者登録
修行を始めてから二年。レオとフィンレーは戦闘スタイルが確立してきた。
魔法の使えないレオは父から教わる剣術を懸命に習得し、私たち三人の中では一番剣の扱いが上手くなっていた。
フィンレーは魔法を使えるため、それを活かした戦い方をしたいと考え、行きついた先が魔法剣士というスタイルだ。
父のパーティメンバーに魔法剣士として戦う人がいるので、その人と連絡を取り、フィンレーに魔法剣士としての戦い方を指導してもらっているようだ。
まあ、魔法剣を手に入れるのはまだ先だろうけど。
その指導に関しては私も聞いてみたいので、フィンレーから内容を聞かせてもらっている。
私は知識を得られる、フィンレーは復習ができる。まさにwin-winである。
私はというと、正直まだ決まっていない。
剣よりも魔法の才能の方があるのだ。それはわかる。なにせ女神様がくれたのだから。
ただ剣が下手くそかと言われると、そういうわけでもない。
ちゃんと剣の才能があると父に言われている。
父はこういう命に関わることで嘘は言わないから、きっと本当なんだと思う。
じゃあどっちがいいかと言われると……悩む。
まだ実戦経験はないので今決めなくてもいいのだけれど、どっちも楽しいのでどっちも極めたいところだ。
そんなわけで十歳になった私とレオとフィンレーは、冒険者としてギルドに登録することになった。
冒険者に年齢制限はないけれど、あまり幼い子供がなるのは危険なので受付で止められる。
だから最低でも十歳以上であるのが暗黙の了解だ。
もちろん父には反対された。そこまでは容認していないと。これに関しては母も賛成しかねるようだった。
冒険者になるということは、明確に危険に飛び込む可能性があるからだ。優しい両親が簡単に了承してくれるわけがないのはわかっていた。
薬草集めをしていたら魔物に襲われたという話はよく聞く。冒険者の仕事に絶対安全という言葉はない。
私が冒険者になりたい理由は、お金が欲しいからだ。それからあわよくば魔物と実戦をしてみたいという下心からでもある。
私は未だに魔力回路について学ぶことを諦めていない。今からでもコツコツお金を貯めればいつか学校にも入学できるのではないかと思っている。そのためにはお金が必要なのだ。
それに、身を守るための杖を買うお金だってない。
魔法使いは杖がないとただの筋肉のついた置物でしかないのだ。今の私にはまだ大層な筋肉などついていないが。
そんなわけでまあ、お金が欲しいとか学校行きたいとか杖を買うためだとかいろいろな理由を挙げて両親を説得した。
数日かけて説得したかいがあったのか、母は折れた。
さらに数日後、依頼を受ける時は父と一緒に受けること、一人では依頼を受けないことを約束させられて、ようやく冒険者になることが容認された。
最善ではないけど、現実的な落としどころかなと思っている。
「ついに冒険者になれるぜ……!」
「うん。まずは登録しないとね」
「混む時間はずらしたし、この時間なら空いてるだろうから、きっとすぐだよ」
レオ、フィンレー、私と父の四人で冒険者ギルドの前に来ている。
レンガ造りの頑丈そうな建物は、何度も通り過ぎていた場所だったが、今日初めて中に入る。
「リア、本当に一緒に入らなくていいのかい?」
「親同伴で登録はさすがに恥ずかしいからやめて」
この後すぐに依頼に行く可能性を考慮して父もついて来ているが、さすがに何でもかんでもやってもらうわけにはいかない。
登録ぐらいは一人でしたい。三人だけど。
「よし、行くか」
父の過保護っぷりにはもう慣れた二人は、私たちの会話を気にすることなく中に入った。私も二人に続いた。
予想通り中は閑散としていて、受付の人が暇そうにしている。これならすぐに登録できそうだ。
私たちはそれぞれ別の受付に向かい、登録の申し込みを開始した。
「こんにちは。今日はどのような御用でしょうか」
私の向かった受付には綺麗なお姉さんが対応していた。やっぱりこういう受付嬢は美人さんが多いよね。
他は行ったことないから知らないけど。物語の中ではそういうのが多い。
「冒険者登録をしたいんですけど」
「失礼ですが年齢をお聞きしても?」
「十歳です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付のお姉さんは机に仕舞ってあったらしい紙を取り出してこちらに渡してきた。どうやら申込用紙のようだ。
「字は書けますか? 代筆することも可能ですが」
「大丈夫です。書けます」
ペンを受け取り紙に記入をする。名前、年齢、性別、出身地、得意な武器等々……そんなに多くはない個人情報を書き出し、お姉さんに返す。
受け取ったお姉さんは紙を見直し、少々お待ちくださいといって席を立った。
すぐに戻って来た後、注意事項について説明を始めた。
「冒険者として守っていただく規則というものがあります。これを守っていただかないと、最悪冒険者の資格をはく奪することになってしまいますので、ご注意ください」
いろいろ説明されたが、悪いことをしたらダメとか、理由なく人殺しはダメとか、冒険者同士のいざこざにはギルドは関わらないとか、ずっと活動しないままだと資格を取り消すとか、緊急時はギルドの招集に応じるとか、そんな感じ。
明確に害意をもって近づいてきた相手を殺すのは正当防衛なので咎められないと。
人殺しかぁ、私にできるかな。そういえば私、他人のために死んだことになってるんだっけ?
勇敢って言われただけだったかな。
この世界で人殺しをしたとして、女神様に怒られたりしないよね?
「次に冒険者のランクについてご説明します」
この登録が終わればGランクの冒険者として活動していくことになる。
ランクを上げるにはたくさん仕事をこなして評価を上げていかなければならない。
一つ上のランクの依頼を複数回受けることも必須だ。
たくさん仕事をこなしていけばランクが上がり、失敗ばかりしているといつまでも上がらない。
それから自分よりも上のランクの人と一緒に仕事をした場合、一人でその依頼を成功させることができなかった可能性があるとして、評価が通常より低く判断されて大したポイント稼ぎにならないので注意が必要と。
父と一緒に仕事をすると全然ランク上がらないかもなぁ。
「依頼に関してですが」
依頼は壁に張り出されている。
Gランクの場合、GとFランクの依頼を受けることができる。
常設依頼もあり、これはわざわざ依頼を受けますって言いに来る必要はないそうだ。
勝手に行って、依頼品だけ持ってきてくれればいいと。
「あと、パーティを組んだ場合の評価について」
依頼によって評価のポイントはある程度決まっているので、パーティを組んで依頼達成した場合は平等に分散されるそうだ。
だからランクが上がるのに時間がかかる。
「何か聞きたいことはありますか?」
「依頼以外で討伐した魔物、採取した薬草などはここで買い取ってくれるのですか?」
「ギルドで買い取り致します。受付までお持ちください。解体などをこちらで請け負う場合、手数料が差し引かれますのでご了承ください」
「わかりました」
解体か……これも父に教えてもらうか。解体なんて嫌だけど、知っていて損にはならないだろう。
「他にはありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「それでは少々お待ちください」
また席を立ったお姉さんは、一枚のプレートを持って戻って来た。プレートには私の名前が彫ってある。
「こちらがGランクの冒険者プレートになります。冒険者の証でもありますので、失くさないようにお気を付けください。再発行にはお金がかかりますので」
「わかりました。ありがとうございます」
「それでは頑張ってくださいね」
再度お礼を告げ、受付を後にした。これで私も冒険者デビューだ!




