第145話 美味い飯は疲れに効く
朝、冒険者ギルドに行くと受付の人に話かけられる。正確には、話しかけられたのはエルフ三人の方だ。
「エルシーナさん、セレニアさん、クラリッサさんのお三方はBランクへの昇格試験を受けられますが、いかがいたしましょうか?」
そういえばそうだったなぁ。『魔物の海』の活性化で戦い続けた成果だね。
「実は、ちょうど同じようにBランクへの昇格試験を受けようとしている方々がいらっしゃるので、数日の内に受けられますよ」
冒険者はBランクから高ランク扱いになる。その昇格試験ともなると、それなりの難易度の試験になるのは当然だ。受験するってなっても、ギルド側もいろいろ準備とかしないといけないから、基本的に受けられるまで時間がかかるそうだ。
でもタイミングよく他にも昇格試験を受ける人たちがいるそうで、すでに準備が進められている状態らしい。
「そういうことなら受けてもいいかもしれんな」
「うーん、まあいいんじゃない?」
「そうですね。しばらく滞在する予定ですし」
エルフ三人も承諾し、Bランク昇格試験を受けることになった。
詳しい話は三人だけにしか教えられないとのこと。受けられない私には教えられないようだ。仕方ない、話が終わるまで待っていよう。
「ちょっと外でお昼ご飯見てくる」
「あんまり遠くに行っちゃダメだよ」
「はーい」
エルシーナに釘を刺されたので適当に返事をしておく。
せっかく美食の街なんだし、このギルドの前にも露店はあった。ちょっと覗くくらいいいだろう。
「冒険者のみなさん! うちの飯で体力つけてってよ!」
「うちのサンドイッチは腹持ちいいよ! お昼にどうぞ!」
「いやいや、冒険者といったら肉でしょう! うちで良いお肉食べてってよ!」
「賑やかだねぇ」
ギルドの前ではたくさんの露店が並んでいて、冒険者をターゲットにしているのが客寄せの言葉でわかる。
肉が挟まったパンとか、肉が乗ったご飯とか、体力がつきそうなメニューが多い。
どれも美味しそう。何をお昼ご飯にするか迷うね。
これだけ露店が多いと滞在期間中に毎食食べたとしても、全体の半分にも届かない気がする。
「お?」
順番に何が売られているか見ていくと、麺類を売っている露店があった。太めの短い麺、うどんっぽいね。スープにはお肉や野菜が入っていて、これはこれで美味しそう。でもお昼には伸びちゃうよね。
「嬢ちゃん一杯どうだい?」
「うーん、美味しそうだけど……」
「器さえ用意してくれるなら、麺とスープを分けて売ってもいいぞ。自分で火を熾して温めて食べてくれや」
「おー」
そんなことできるのか。確かに分けてくれるなら麺も伸びないし、好きな時に食べられる。お昼はこれにしようかな。
こういう時のために、蓋付きの器が役に立つ。魔道袋から器と食材を入れる袋を出して、露店のおじさんに渡す。
「じゃあこれに入れてくれる?」
「まいど!」
おじさんが器にスープを入れてくれるので、ゆっくり待つ。昼食あれだけじゃ足らないかな、他にもいろいろ見てみよう。どれもこれも美味しそうだから迷っちゃうなぁ。
街の外、四人で魔物を狩る。ここには東大陸や中央大陸で見たウルフやベアー系の亜種のような魔物が多い。他にも豚やサルなどがいて、動物系の魔物が生息しているようだ。肉には困らなさそうだね。
猪のような魔物の顔に石をぶつける。怒りを露わにした猪が私目がけて突進をしてくるのを、避けずに待ち構える。
そこへ横からセレニアが魔法を放ち、猪の胴体に空気の塊が直撃する。ズザザザと砂利の上に勢いよく倒れていく猪にとどめをさし、次の魔物へ。
熊のような魔物が私に爪を振り下ろす。それを躱しながら付かず離れずの距離を保つ。しばらくその状態のままで避け続けていたけれど、準備が完了したら、少しだけ熊から離れる。
すると、熊の後ろをとったエルシーナが剣を振り、熊を大きく斬りつける。ほとんど致命傷だけれど、隙だらけになった熊にとどめをさし、次へ。
朱色の毛並みをしたウルフの突進を避け、剣を振り下ろす。亜種とはいえ、所詮はウルフ。これくらいなら一人で問題ない。
「いい具合だね」
周りに魔物の気配がなくなったので、ちょっと一休み。
特にケガをすることもなく、安定して魔物を狩ることができている。『魔物の海』でたくさん戦ったおかげだね。
「そうだな。安定はしてきた」
「はい、回復魔法の出番がないのは良いことです」
「リア怪我してない?」
「してないよ。心配しなくても平気」
エルシーナ的には私が回避盾をしているのがお気に召さないらしい。心配性だなぁ。危機察知があるんだから大丈夫だよ。
ちょうど時刻がお昼くらいなので、休憩ついでに朝に買ったうどんみたいなものを食べる。スープを鍋に移し、火にかける。麺を入れて煮えれば完成だ。
出汁が効いていて、結構美味しい。
「さすが美食の街。美味しい物が多いね」
「どんなものでも、大抵外れはありませんね」
クラリッサも自分で好きな物を買ったらしく、サンドイッチを食べている。各々好きな物を食べ、お茶を飲みながら会話をする。
「昇格試験はいつ頃なの?」
「明後日の朝からだ」
「急だね」
事前準備はしてあると言っていたけれど、そんなに間近だったのね。結局どんな内容なのかは私には話せないようだし、大人しく待っているしかないな。
大人しくはないな。出かけると思う。
「結構時間かかるの?」
「数日かかるって言われましたね」
「リアは大人しく留守番しててね」
「はいはい」
相変わらず過保護で心配性なエルシーナに言われるけど、三人が帰ってくる前に宿に戻っていればバレはしないだろう。数日間いないなら大丈夫。こっそり出かけよう。
依頼も受けたいし、食べ歩きもしたい。ひとりの時間は久々だし、楽しませてもらおう。
「イマイチ信用できないんだよね……」
「食べ歩きでもして待ってるよ」
相変わらず信用がない。エルシーナにジト目をされながら言われ、とりあえず予定の一つを告げながら誤魔化す。嘘はついてないからいいでしょう。
「そろそろ次の魔物を探すぞ。数日分の宿代を支払っておきたいからな」
「途中で追い出されたら困るからね。たくさん稼ごう」
三人がいない間にお金が足らなくなって宿代が……なんてことにならないためにも、今日と明日でたっぷり稼がないと。
それにしても四人部屋を一人で使うっていうのはなかなか贅沢だな。それも楽しみの一つにしておこう。
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1600pt超えました!
今後も皆さんに楽しんでいただけるような小説を書いていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。




