第144話 料理大会開催中!
この街が賑やかなのは、お祭りが開催されているかららしい。この人の多さはホントにお祭り騒ぎだったようだ。
厳密にはお祭りではなく、大会らしいが。
世界で一番美味い料理は作るのは誰だ! みたいなコンセプトの料理大会がこの街で開催中なのだと、その辺の屋台の人が言っていた。
この大会は毎年この時期に開催されているので、この人の多さは今だけだそうだ。もちろん小さい街ではないので、普段からそれなりに人は多いみたいだけど。
今は予選の最中らしく、街中で料理人が露天で料理を出して、売り上げ上位者たちが本選に参加できる仕組み。
いつもはお高い料理屋を営んでいる料理人が、この大会中だけは手ごろな価格で料理を提供しているということで、一般市民にとってこの大会はなかなか好評のようだ。
ただまあ、こういう場合って大体困ることが一つある。
「賑やかなのはいいけど、宿が無いのがねぇ」
これだけ人が多ければ、滞在する人も多いわけで。そうなると必然的に宿もいっぱいだったりする。
所持金はまだあるけど、余裕があるってわけでもない。でもこの街で食事を楽しむのなら、お金に余裕は持っておきたい。
無駄遣いはしたくないんだけど。
「宿代が高くついてしまいましたね」
「エルゲルは今賑わっていると聞いてはいたが、ここまでとはな」
そんな思い虚しく、少しお高めの宿屋に泊まることになってしまった。エルゲルの情報を集めてから来るべきだったかな。
「ひとまず明日から依頼を受けに行くぞ」
セレニアが締めて話は終わり、その日は休むことに。現在時刻は夜で、街も昼間の賑やかさは鳴りを潜めている。
露店では酒類の提供は禁止らしく、夜になれば全ての露店が閉まる。大会に参加している間はそういう決まりなんだそうだ。
大会の予選が終了したら本選が始まるそうなので、まだまだこの賑やかさは続くだろう。
活気があっていいけど、お金が無いと楽しめない。たくさんの料理を食べるためにも、明日からのお仕事頑張ろう。
翌朝、四人で冒険者ギルドへ向かう。人込みをかき分けながら街中を歩き、ギルドの中に入る。
中も外と変わらず人が多い。この街には観光客ばかりではなく、冒険者も多いみたいだ。
それでも建物内は結構広いので、歩くのに不自由はしない。四人で壁に貼られている依頼書を見に行く。
「魔石、魔石、魔石……魔石ばっかりだね」
「人が多いと魔石の消費量も多いからな」
「そうなんだ」
依頼の中で一番多いのが魔石の納品だ。とりあえず数さえあればどれでもいいらしくて、常設依頼ばかりだ。
今この街にはたくさんの人がいる。言わずもがな、料理大会が開催されているからだ。
そのため魔道具の消費が激しいそうで、魔石を欲しがっている人が多いみたい。
食材を保存するための冷蔵庫に使ったり、料理のためのコンロに使ったり、一般人が大衆浴場を利用するから、頻繁にお湯を沸かすため火の魔石が必要になったりするらしい。
中央大陸でもっと水の魔石を集めてくれば、お金になったかもしれないなぁ。この街で売られている魔石はどれも高額になっているようだし、集めてきて良かったよ。
さすがに今持っているものを売ってしまうと、自分たちで使う分が無くなってしまうから売れないけど。
「あれは?」
離れた位置に大きな依頼書が貼られているのが見えたので近づいてみる。どうやらこれも常設依頼のようで、料理大会に関する依頼が書かれている。
「料理大会本選で使用する食材を納品……?」
「お嬢さんもそれが気になるのかしら?」
「んぇ?」
後ろから知らない声に話しかけられて振り返る。結構な軽装備にマントを羽織ったおねえさんが話かけてきていた。マントがあるとはいえ、その肌の露出はどうなんだろう。杖を持っているし、魔法使いなのかな?
私の変な声を返答だと思ったらしいおねえさんが勝手に話を続ける。
「今開催されている料理大会の本選では、毎回珍しい食材なんかを使うらしいのよ」
「そうなんだ」
どうやら本選出場の料理人は、その食材を使ってすごい料理を作らないといけないらしい。
高級品を使う時もあれば、癖のある食材だったり、あまり美味しくない食材をメインに使用させたりする時もある。それを上手く切り抜けた人物こそ世界一の料理人と言えるだろう、ということらしい。
で、この依頼書はその食材を見つけてきてほしいって書かれているわけね。なるほど。
「上手く採用されれば、かなりの報酬が手に入るらしいわ。腕が鳴るわね!」
「はあ。頑張ってくださいね」
「ありがとう。お嬢さんも頑張ってね」
「マチルダ! 行くぞ!」
気の良い人なのか、私の気の抜けた返事にも笑顔で返してきた。
マチルダと呼ばれたおねえさんは、私に「じゃあね」と言い残して三人の男性の方へと歩いて行った。四人パーティなのかな。
一攫千金ねぇ。でもこの料理大会……。
「どうかしたの?」
向こうで依頼書を見ていたエルフ三人がこちらにやってくる。結局魔石の納品くらいしかお金になる依頼は無かったみたい。
「そう簡単じゃないよねって思って」
「ああ、これですか」
クラリッサが料理大会の目玉食材納品の依頼書を見ながら呟く。
年に一度開催されているこの料理大会。すでに今大会で32回目になるそうだ。
珍しい食材探しを大会側は毎回冒険者ギルドや商業ギルドに依頼をしているようで、それを探し出して売り込めば結構な額の報酬金がもらえる。
ただまあ、そんな一攫千金みたいな話みんな狙っているのも当然のこと。その上この周辺で獲れる食材なんて、ほとんどの物は今までの大会で使用済みだろう。
そんな状態で更に珍しい物なんて……余程のものじゃないと、とてもじゃないが無駄足になるのが目に見えている。
それ目当てで行くよりも、堅実に依頼をこなしていく方が稼げるでしょうね。運よく見つかれば嬉しいけど。
「夢はあるけど、地道が確実よね」
「ああ、私たちは堅実に魔石の納品をしていくぞ」
「はーい」
そんなわけで私たちは、魔石集めをしてお金を稼ぐことになった。
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