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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第5章 中央大陸・自己分析編
142/212

第141話 もどかしいけど <エルシーナ視点>

引き続きエルシーナ視点です

生理に関する記述が少しだけあるのでご注意ください

 トイレにしばらく籠り、ようやく落ち着いてきたリアを連れて部屋まで戻ってくる。

 部屋ではセレニアとクラリッサが散乱した物を片付けていたが、ほとんどが本や紙などの二人の私物なので、放っておいてリアをベッドに寝かせる。


「ごめん……」

「大丈夫だよ。ゆっくり休んでね」


 多少の会話ができるようになったリアが申し訳なさそうに謝罪してくるけど、これくらいなんてことない。

 揺らさないよう優しく頭を撫で、タオルケットをかけてあげる。他にも何かできることはないかな。


「そういえば、回復魔法は船酔いには効かないの?」


 クラリッサの方を見ながらちょっと期待を込めて尋ねる。効くならこの子も少しは楽になるかも。

 そうですね、と思案顔のままクラリッサが答える。


「多少は楽になるかもしれませんね」

「今も船が揺れているから全快とはいかないだろうが、身体に害悪があるわけでもない。使ってみても良いんじゃないか」


 セレニアからの後押しもあり、クラリッサが回復魔法を使ってくれることに。

 クラリッサが杖を取り出し、リアに向けて魔法を行使する。優しい光がリアを包み込み、少しずつ顔色が良くなっていく。よかった、効果があったみたい。


「ん……ありがと。ちょっと楽になった……」

「どういたしまして。あとはゆっくり休むくらいしか方法はないですね」


 横になったままリアがクラリッサにお礼を言う。その声は眠そうで、今にも瞼が閉じそうだ。回復魔法って眠くなるんだよね。


「眠れそう?」

「うん……」

「何かあったら遠慮なく言ってね」


 その後しばらく静かに過ごしていたら、次第にリアの寝息が聞こえてきた。

 彼女を起こさないように椅子に腰かけ、二人に話しかける。


「寝た?」

「寝ましたね」

「肝が冷えたな。病気になっても海の上ではできることも限られているから」


 そう、ここは海の上、船の中だ。

 急病で倒れたとしても、医者がいるわけでもない船内では出来ることなど限られている。

 もし、リアの不調が病的なものだったら……。


「やっぱり船は怖いね……それにたぶん、リアって『アレ』が来てるみたいだし」

「ああ……月のモノですか?」

「それでか。この悪天候と『アレ』では体調も崩すだろう」


 おそらく、リアは今日人間で言う『月のモノ』が来ている。朝なかなか起きなかったのも、それが原因と考えていいだろう。さっきリアを抱えて運んだときに、血のニオイがしたからおそらく間違いない。

 そう、人間で言うと、だ。エルフには月のモノなど来ない。

 来ない、というと語弊があるかな。正しくは月一では来ない、だ。


 エルフのそれは、十年から二十年くらいに一回の周期で来る。おそらく長寿に合わせた身体のつくりとなっているのだと思う。

 わたしだって前に来たのがいつだったか、もう覚えていない。忘れた頃にいきなり来るから非常に困る。

 ちなみに前にリアにそれを言ったら、お酒みたいとか言ってた。あとズルいとも。

 お酒って。


「人間は不便だな」

「まあ、仕方ないよ」

「リアさんって、ちゃんと人間種なんですね」

「あー……確かに」


 見た目や魔力量なんかを考えると、ハーフエルフって言われても信じるほどなんだよね。でもご両親の見た目は人間種だと言っていたし、ハーフではないみたい。四分の一くらいのエルフの血が流れている可能性ならあるかもしれないけど、それだとあまり人間種と変わらない。

 ハーフエルフの『月のモノ』も月一では来ないらしい。ハーフエルフも結構長生きするからね。個人差があるだろうけど、五年くらいじゃないかな。


「やっぱり人間なんだなぁ……」


 寿命。これはエルフと他種族では大きく違う。わたしたちとリアの間にもある、直視したくない現実だ。


「まだ若いんですから、そんな顔しなくても」

「そうだけど……」

「リアの場合、ケガとかの方で死にそうだがな」

「否定できない」


 無茶が過ぎるんだよね。いつかアッサリいなくなっちゃうんじゃないかと思うと、胸が苦しくなる。なんであんなに生き急ぐんだろう。


「身近に大事な人がいれば多少は自分の身にも気を遣うんじゃないですか? さっさと告白すればいいんですよ」

「んぐ……それは……その……」


 クラリッサの的確な言葉に思わず口ごもる。言いたいことはわかる、わかるけど……。


「そ、そんな簡単な話じゃないもんっ」

「エルシーナさんみたいな人をヘタレというらしいですよ」


 本に書いてありました、と言ってクラリッサが手元にある本を見ながら言う。どうやら恋愛関係の本らしい。ヘタレ……良い言葉じゃないことだけはわかる。


「お互い同性愛者だとわかったんだから、そこまで障害があるようには思えんが」

「それは、そう、だけど」


 だからってその、そう簡単にいく話でもないでしょう。仲間をそういう目では見ていないとか言われたら、このパーティ崩壊するかもしれないよ。


「うまくいかなかったら嫌だし……」

「確かにそんなことで仲間割れされても困りますからね」

「リアは胸が大きい人が好みらしいから、そういうところは不利かもしれんな」

「なにそれ初耳なんだけど」


 え、リアって巨乳好きなの!? 不利とか言うレベルじゃないんだけど!?

 エルフのぺたんこ具合は唯一の欠点とかいう人がいるくらいなのに!


「ドワーフの国に行くのが楽しみだと言っていた」

「一気に行きたくなくなったんだけど」

「行くのはもう決定事項だ。諦めろ」


 どうしよう……どうしたらいいんだろう!? で、でもすぐに告白はちょっと……今まで女性と付き合ったことは無いって言ってたから、リアも戸惑うかもしれないし……。

 そもそもなんであの子はあんなにも遊び人気質なの。誰でもいいの? 男じゃなければ誰でもいいの? ならわたしでいいじゃない!


「いろいろしたいお年頃なんでしょうね。好奇心旺盛な感じがします」


 好奇心旺盛か、確かにそうかも。特に目的はないのに旅に出るっていうのは好奇心からだろうし、魔道具作りだってそういった欲からきているはず。まだ若いもんね、いろいろ体験したいんだろうな。

 でも遊び人にはならないでほしい。


「あーもう、恋愛ってうまくいかないなあ……」


 テーブルに突っ伏しながら溜息ともどかしさを含ませながら呟く。

 でも、こうやって相手のことを考えている時間が一番楽しいって言葉もあるよね。あんまり焦らない方がいいのかも。余裕がなくなると上手くいくものもいかなくなるから。断じて言い訳ではないです。


「エルシーナさんが人に恋をするなんて、本当にそんなことあるんですねえ」


 何故か感慨深そうな目でこちらを見てくるクラリッサ。なによ。


「わたしだってそれくらいするよ」

「今までは寄ってくる人全員拒否していたじゃないですか」

「それはだって、見た目しか見てない感じだったし。リアはそんなことないもん」


 ちゃんとわたしの内面を見てくれているはず。外見も好きになってくれて全然かまわないけどね。わたしもリアの外見とか好きだから。


「まあ頑張ってください。応援はしてますよ」

「ありがとう」

「パーティ内不和の原因にならないようにしてくれ」

「わかってるよ」


 難しいよね、生活範囲が近い人との恋愛は。慎重にいこう。でも遊びには行ってほしくないから頑張ろう。

 さすがに恋人になれば行かないよね……?



次はリアの視点に戻ります。

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