第140話 悪天候な船旅 <エルシーナ視点>
エルシーナ視点です
日差しが強く、眩しく感じる日が増えてきたけれど、今日は生憎の雨。しかも風が強く、嵐と言ってもいいほどには船がよく揺れる。
船旅も後半、南大陸まであと数日といったところなんだけど、初めての悪天候だ。
クラリッサは読書、セレニアは魔道具作り、リアもいつもなら魔道具作りだけど……今日は珍しく、ゆっくり寝ている。
わたしはお昼寝したり、クラリッサから本を借りて読んだりして過ごしているけど、正直退屈だ。
本格的に趣味を考えないと、この先も暇を持て余すことになる。だからといってやりたいことがあるのかと言われると、思いつかないけど。
バサリ、と音がしてそちらを見ると、リアが起き出していた。そのまま軽く身だしなみを整えて、部屋から出ていく。
この部屋は四人用個室だけど、置いてあるのは四人分のベッドと机と椅子、鏡と洗面台くらいだ。
トイレやシャワーは船内にはあるが、ここにはない。なので、使いたいなら部屋から出ないといけない。
わたしたち以外の人が部屋にいないというだけで、大分快適だけどね。
出航するときにこの船は満員だと聞いたので、おそらく大部屋は大変辛いことになっていると思う。
「はぁー……ひま……」
「エルシーナさんも趣味を作るべきですよ」
「わかってるよぉ……」
クラリッサから突き放すような返事が来る。セレニアは集中しているのか、こちらを見もしない。
思い浮かばないものは仕方ないんだよぉ。ひとまず、クラリッサから本を借りて時間を潰そうかな、でもこんな揺れの中で本を読んだら酔ってしまいそう。クラリッサはよく平気だね。
リアとお話でもしたいな。彼女は毎日魔道具作りに励んでいるので、なかなか話しかける隙がない。
あの子が同性愛者だとわかってからも、まともにそういった話は何一つできていない。どんな話をするんだと言われたらわかんないけど、もう少し詳しく聞いてみたいところ。
ベッドでゴロゴロしながら窓の外を眺め続けて数十分。リアが戻って来ていないことに気が付く。
何してるんだろう。寝起きだからすぐに戻ってくると思ったんだけど。シャワーでも浴びにいったのかな。いつもなら一言くらい告げてから行くんだけど。
なんて思っていたら部屋の扉が開く。
ああ、戻って来たんだなと、扉の方を見る。すると明らかに顔色が悪いリアがふらついた様子で部屋に入ってきた。
「ちょ……大丈夫?」
ベッドから立ち上がり、リアの傍に駆け寄る。前かがみになりながら、口元を抑えているリアの背中をさする。
「船酔いしちゃった?」
「う……」
頷くことも返事をすることもできないらしく、呻くような声だけ聞こえる。これは相当酷いね。
今日は船がかなり大きく揺れているから、船酔いになるのは仕方ないかも。ベッドで横にでもなれば楽になるかな。それとも……。
そんなことを思案していると、突然船が大きく揺れた。
「わっ……!」
あまりの大きな揺れに、捕まっていないと立っていられないほどだ。
咄嗟に壁に手をついたところで、リアが身体を支えられずに壁に激突していくのが見えた。
「リア!?」
返事は聞こえなくて、慌ててリアに近づこうとしたけれど、まだ船は揺れている。自分まで倒れては元も子もない。壁に手をつきながらゆっくり床にしゃがみ込み、少しずつリアの方へ向かって行く。
机の上にあったものが音を立てて倒れていくのが見えたけど、椅子に座っていたクラリッサとセレニアは大丈夫みたいだ。
「平気? ケガしてない?」
壁にもたれかかるようにしゃがみ込んでいる彼女に声をかける。微かに頷いたように見えたので、ケガなどはしていないようだ。
リアを抱きしめながら背中をさすっていると、ようやく揺れが治まってきた。ホッと息をつき、再度リアの様子を確認する。
「う、ぶ」
「わわわ……トイレまで運ぶね!」
今にも吐き出しそうなリアを見て、さすがにここで吐かれてはマズイと思い、急いで抱え上げる。
無抵抗のリアを連れて、部屋を飛び出した。
次もエルシーナ視点の予定です!




