第139話 ついに出航、魔道具作りに専念!
港町に来てから十日。ようやく船が出航した。
少しずつ熱くなってきた日差しを浴びながら、離れていく中央大陸を見送る。
「はやーい」
「速いですねぇ」
クラリッサと一緒に船の甲板で出航する様子を楽しむ。
ギュンギュンと船が進んでいき、どんどん陸が小さくなっていく。あっという間に港町が見えなくなった。船ってこんなに速いんだなぁ。
これから三週間ほど船の中で過ごすことになる。今回は身体を動かすスペースはないようで、剣を振ることはできそうにない。
でも今回の船旅は四人用の個室なので、筋トレくらいならできるだろう。魔道具作りに専念してもいい。
船が出るまでの十日間で水の魔石を大量に集められたから、今年の暑い時期の心配はしなくてもいいだろう。
「部屋に戻ろっか」
「そうですね」
しばらく甲板にいたけれど、やることもないし日差しのせいで暑いので、部屋に戻る。海面の反射も眩しいからね。
部屋に入ればエルシーナとセレニアが休んでいる。エルシーナはベッドで横になっていて、セレニアは机に向かって熱心に何かをしている。
室内は空調が効いていて、割と快適に過ごせるのが助かる。この空調は備え付けの物で、私たちが作ったものではない。
「しばらくのんびりできるねぇ」
「水の魔石集めがなければ港でものんびりできたはずだけどね……」
エルシーナが起き上がりながら愚痴る。エルフってのはのんびり屋だなぁ。長生きするんだからそういうものなのかな。
「いいじゃないの。船の中でできることなんてあんまり無いんだから」
四人がけのテーブルに座りながらそう返し、セレニアの手元を見る。どうやら術式を紙に書き起こしているようだ。何かを作る予定なのかな? 邪魔しないように、私も魔道具作りでもしよう。
兼ねてから作りたかった振動やかんを作る。振動でお湯を沸かすだけのもの。
テーブルの自分のスペースに布をひき、この前購入した硬そうな素材でできたヤカンに、これまた新しく買った硬めのナイフで術式を削る。
超音波レベルの振動を作り出すには、それなりの素材じゃないと耐えられないだろう。これでできるかな。
ヤカン作りが終わったら車の設計図でも書いてみようかな。
ガタガタガタガタガタ……
「ふっははは……」
思わず笑いが漏れる。
ヤカンが激しく揺れている。そりゃあうるさいし、動きもするだろう。テーブルから落ちそうだし、これだと中の水もこぼれそうだ。
何より、こんな大きな振動ではお湯にはならないだろう。もう少し細かく振動させないとダメだね。
それから、固定するための土台も作るかな。革なら上手く振動を吸収してくれるだろうか。こっちのクラフトの方が先みたい。魔道具作りは難しいね。
「すごい揺れているな」
「まだまだ失敗作だよ。先に土台から作らないとね」
セレニアが興味深そうに見ている。ヤカンの魔力回路のスイッチは切っておこう。
振動ヤカンに関してはセレニアに話していないので、一体何を作っているのかわからないかもしれない。
でも、きちんと完成してから説明しよう。実物があった方が説明も楽だし。これができれば火がなくてもお茶くらい飲めるだろう。
この世界のお茶は結構美味しい。紅茶が主体だけど、緑茶もある。青茶やら黒茶やらいろいろある。あとコーヒーもあるし、少ないけど炭酸飲料もある。シャンパンとかね。飲み物は豊富。
振動ヤカンができたらお茶の葉を買おう。あれは意外と長持ちしてくれないから、必要量しか買えない。
このヤカンが手間のかからない便利なものになってくれれば、お茶を飲む機会も増える。火を使わないからどこでも使えるはずだ。
「車、車……車体はともかく、問題は車輪かな……」
「木の車輪では心もとないな」
ヤカン作成はひとまず休み、セレニアと一緒に車の設計図を描いている。
そう、車で走る場所は街から街への移動中。つまりオフロードを走る。木の車輪なんてすぐにダメになるかもしれない。かといって、金属製のタイヤというのも……どうなんだろう?
でもさすがにゴムタイヤを作る技術なんて知らないし、この世界にあるかもわからない。もしかしたらドワーフの国に近いものがあるかもしれないが、それ込みで今設計図を描くのは不安だ。
だから他に方法を考えて――
「浮かせればいいんじゃない……?」
突然の閃き。
この世界には重量を軽減する魔法がある。浮遊の魔法がある。重い荷物は魔道袋に入れればいい。何なら重力に反転するように浮かせたり、地中にある鉱物の磁力との反発で浮かせても……もっと単純に、プロペラで浮かせてもいい。
プロペラで浮かせたらヘリコプターになりそうだけど。
「できなくない、のでは?」
「ふむ、確かに浮かせてしまえば車輪はいらないな」
どんな悪路でもこれなら揺れもしないだろう。構造にもよるだろうけど、水面を走ることだってできるかもしれない。
そうすればこうやって船に乗ることも無くなる日がいつか来る。
「うん、アリといえばアリ」
自由な発想は大事だ。何が光明になるかわからないからね。
タイヤが見つからなければ浮かせてみよう。飛行機とかヘリコプターとか、空飛ぶ乗り物を作るときに使ってもいい。移動手段が楽になるなら何でもいいさ。
「なかなか難易度は高そうだが……できなくはないだろう」
「セレニアと一緒ならできる!」
「はは、光栄だ」
今のは純粋な本音だ。セレニアの知識と私の前世の知識さえあれば何とかなると思っている。浮かせるだけじゃなく、浮かせた後どうやって操作するかも考えないと。
こういう新しい物を自らの手で生み出せるっていうのが物作りの醍醐味だね。
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