第137話 釣りの時間だ!
翌日、宿は午後からじゃないと入れないので、午前中は予定通りに四人で川まで向かう。
『魔物の海』の活性化は終わったとはいえ、森の中はまだそれなりの数の魔物が潜んでいる。
「ほっ、よっと、うりゃ」
「相変わらず避けるのが上手いよね」
「得意だからね」
危機察知のおかげでだけど。
森の中を私が先行して歩く。襲い掛かる魔物を避け、避けた魔物を剣で斬る。とどめは他の誰かに任せて、次の魔物の意識を私に向けるために小石を投げる。歩く先にいる魔物はこれでどうにかなる。
問題は仲間を狙う魔物だけど……その辺は長年の経験のおかげか、みんなそれくらい自分で気が付ける。
それに、私の危機察知は周囲にいる人達の危険も察知してくれるらしく、近くの仲間に危険が迫っていれば気が付ける。だから危ないときは助けられるし、教えられる。現状では必要ないけど。
本当に便利だね、これ。今度有効範囲の確認くらいはしておかないといけないかな。
便利な力をくれてありがとう女神様。
森を歩くこと一時間以上。ようやく川が見えてきた。
前にアシュミードに向かうために渡った川だけれど、アシュミードまで向かう気はないので、もっと下流の方の港町からそう遠くない場所にある川だ。川幅も深さもなかなかのもの。
「魔物いるかな」
「多少大きめでないと魔石も役に立たないからな」
魔物が小さすぎると魔石もそれに比例して小さいものばかり。多少大きめの魔物……いるかな?
ぱっと見ではいなさそうだけど、魔物の影響か少し濁っているからわからない。
「釣りでもしよう」
「釣り道具なんて持ってるんですか?」
「ふっふっふ、こんなこともあろうかと港町で買ってきました」
水系の魔物を狩るのにどうやって捕まえればいいのかと考えた結果、釣ればいいのではないかと思い至ったので、釣りに使う道具を準備してきた。
さっそく釣り糸に、おもりと針と、先ほど狩った魔物の生肉を餌として取り付ける。魔物釣りなんだから生肉でいいだろう。
「うりゃあ!」
川の真ん中に向かって肉を投げる。手で釣りなんてしたことないけど、まあなんとかなるでしょ。
「のんびり待ちましょー」
「のんきだねぇ」
エルシーナが川辺に座り込みながら呟く。まあ、急ぐこともないしね。他二人も座り込み、気長に待つことにしたようだ。
ここに来るまでに疲れたし、私も気長に待つか。釣りがダメそうなら障壁魔法を使って上から探してみよう。
肉の塊なので川の流れに流されることなく沈んでいるようだけど、これちゃんと食いつくかな? なんて思いながら待つこと暫し、いきなりグンッと糸が引っ張られる。
「うわ!」
油断していたのと、想像よりも強い力に驚いて身体が引っ張られる。慌てて下半身に力を込めて踏ん張る。
「引いた?」
「むむむ……!」
後ろで見ているエルフたちが立ち上がり武器を構える。危険な魔物の場合もあるし、助かる。
急いで糸を巻いているけれど、バシャバシャと川の中で暴れていてこのままだと糸が切れそうだ。どうしよう。
重いけど、身体強化があればそこまででもないから、このままイケルだろうか。
「どうやって獲ろう」
「あれは……私が仕留めるから、その後ゆっくり引き上げてくれ」
「わかった」
セレニアが杖を構えて未だに暴れている獲物に向けて硬い土の塊を放つ。着弾し水の跳ねる音がすると同時に獲物がおとなしくなっていく。
引っ張られる抵抗も少なくなったので、ゆっくり糸を巻き上げる。川岸まで引き上げると獲物の全容が見えてきた。
「何これナマズ?」
ヌメっとした皮膚、長いヒゲ、平べったい体と長い胴体。見たことありそうな特徴だけど、全長は大きい。1メートルは超えているだろうか。
セレニアの攻撃は体に直撃したのか、ピクピクと痙攣している様子がわかる。とりあえず殺しておいた方がいいだろうか。
「ヒレに毒があるから気を付けろ」
近づこうとしたところでセレニアに忠告された。
毒か。勢いに任せて引き上げたりしなくてよかった。毒があるなら食べられないのかな?
とりあえず剣で頭を突き刺して殺しておく。目的は魔石だ。それ以外は二の次でいいだろう。
「とりあえず一匹目だけど、これじゃ時間かかるね」
食いつくまで時間がかかるし、釣り上げられても一匹だけ。一日かけても何匹釣れるか。
「そうですね……いっそのこと餌をばらまいて集まってきたところを一網打尽にしては?」
「いいね。楽そう」
「一網打尽は楽なの……?」
クラリッサの提案にエルシーナが困惑した様子だが、少なくても一匹一匹釣り上げるよりは楽なんじゃないかなーと思うんだけど。
網で漁をする感覚でやれば……網を食いちぎられそうだな。集まってきたところを魔法で一気に倒すとかすればいいんじゃない?
「やるだけやってみよう」
そんなわけで早速準備だ。
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