第136話 港町に到着!
馬車に揺られること五日。港街がようやく見えてきた。道中で魔物に襲われても、『魔物の海』の活性化を乗り越えた私たちの敵ではない。
ただ、五日間も生肉を保存しておく方法がない。だから道中の食事は肉に偏りがち。
「せめて冷蔵庫ほしいよね。魔道袋に入れておきたい」
「冷凍庫もいいな。両方作るか」
肉は好きだけど、毎日毎日肉ばかり。街から街への移動中は新鮮な野菜はほとんど手に入らないから、なんとも油っぽい食生活を送ることになる。肌が荒れそうだ。
冷蔵庫があれば多少は食材も長持ちするだろう。冷凍庫の方が便利だろうけど魔石の消耗も激しいから、もう少し余裕がでてきてからの方がいいかもしれない。
「魔石を用意しないと。冷蔵庫なら水の魔石? ちょっと海に飛び込んでくる」
「やることが極端ですね」
「ちょっと落ち着きなよ……」
クラリッサが呆れ、エルシーナに止められる。水中戦の心得もないから飛び込むのは無謀なのはわかっているけど。
いやでも、水の魔石は買うと高いんだよ。目の前に海があるんだし、暑いし、飛び込みたいじゃないか。
「これから水の魔石って大量に使うんじゃない?」
「そうだな。冷風を出すにも必要だし、これから暑くなるから必須だ。冷蔵庫を作るなら消費量を考えてもかなりの数がいる。いちいち買っていたら金が足らなくなるぞ」
だよね。やっぱりここで集めておいた方がいいと思うんだけど。水系の魔物は倒すのが大変な場合が多いし、できればみんなで協力したい。
「水の魔石ってどうやって集めてるんだろ」
「水場の付近にある『魔物の沼』では水の魔石を持つ魔物が多いからな。普通ならそういうところを狩場にする」
この付近にあるかな。海辺の近くにもあるだろうし、なんなら海の底にもあるだろうけど。
川や湖などの水源と『魔物の沼』が混ざり合うことはない。水と油のように反発し合い、『沼』の泥が川などに入り込むことも汚染することもなく、『沼』自体が周りに影響を与えることはない。
それ故、水の底に『沼』が出現することがあっても、その『沼』の泥が水を汚染することなく魔物だけが生成される。
海に魔物がいるのは、海の底に『魔物の沼』があるからではないかと言われているが、実物の確認はできていない。
物凄く大型の魔物が海で発見されたことがあるから、『魔物の海』レベルの大きさかもしれないと推測される。
海の中に『海』とは皮肉なことよ。
「都合よく近くに規模の小さい『沼』があるわけないよね」
やっぱり海に潜るなり、誘い出すなりして魔物を狩らないとダメか。釣りとかできるかな。エサは生肉でも食いつきそうだけど、糸が切られそうだ。
港にそういう便利な道具がないか探してみよう。
港に到着、馬車を返却してひとまず船の出航状況の確認をしに行く。南大陸行きの船はあるかな?
「やっぱり冒険者多いね」
この大陸での大仕事を終えた冒険者たちが、次なる大地を求めて船へ……という状況なのか、船のチケット売り場は冒険者が多い。
町中にも冒険者の姿が多かったので、船の状況次第ではすぐに宿屋を探すようかもしれない。
受付に並ぶこと数十分。ようやく私たちの番になったので、南大陸行きの船がいつ出るのかを尋ねる。
「南大陸行きの船はついこの間出て……次のはすでに満員。その次だと十日後だな。この船もすでに大部屋がかなり埋まっている。四人部屋の個室ならまだ空いているが」
受付のおじさんが疲労感を隠しもしないで告げる。この行列だし、忙しくて疲れているんだろうな。しかもみんな同じようなことを聞くだろうし。
船はやはり混んでいるらしい。でも個室が空いているならそこにすればいいんじゃないかな。
「全員その個室で構わないか?」
セレニアが尋ね、私たちも了承。無事に乗船券を手に入れた。
個室は大部屋に比べたら高いけど、正直むさくるしい冒険者たちばかりの大部屋で、すし詰め状態は無理。お金はこういう時に使うものだ。
チケットが買えたら宿を探さないといけない。何せ出航は十日後だ。その間滞在する場所を決めておかなければ。
「うーん。やっぱり手頃な宿はどこも埋まってるね」
「これだけ冒険者がいるんですから、そうでしょうね」
この港町は結構大きな町なのだが、それでも今の人の多さだとどこも満室になってしまっている。
途中冒険者ギルドで魔物を売りに行ったついでに、宿の場所を聞いたりしてみたけど成果はない。
「ここに来て野営は嫌だけど……最終手段よね」
「宿のグレードを上げればなくないけど……お金大丈夫?」
「個室代が意外と高かったな」
船の個室の料金が高かった。おそらく、冒険者が大移動を開始するのを見越して料金が割高に設定されているのだろう。
『魔物の海』の活性化の際は強制徴収するくせに、移動費が安くなるようなことはない。酷い話だ。
「船に乗る人がいるだろうから、長期滞在する人はいないと思うのよね。待っていればどこかしら空くとは思うけど」
みんな船が来るまで宿にいるだけだ。翌朝に引き払う客もいるだろうし、そういう宿を事前に予約とかしておけばいいんじゃないかな。
というわけで、それ込みでもう一度宿を探し、翌日の午後からなら使用可能な部屋があると言われたので、そこにすることに。手頃なお値段の宿で、お財布にも優しい。
「結局のところ、今日は町の外で野営ですけど」
「馬車も返却しちゃったし、テントでも張るしかないね」
まだ日は高いので、明るいうちに野営できる場所を探しておこう。
ああでも、お風呂は大衆浴場があるからそこを利用してからにしよう。食事もまともな物が食べられるだろう。いつもの野営よりは全然マシだね。
港町の外で、野営できそうな場所を探している。結構私たちのように宿が取れなかった冒険者たちは多いみたいで、野営の準備をしている集団がチラホラと。
「もう少し宿を増やしてくれればいいのになあ」
「ホントですね」
『魔物の海』の活性化だって今回が初めてじゃないんだから、もっと宿を増やしてもいいんじゃないかな。でも活性化の起きていないときは、こんなふうに人で溢れかえることなんてないのか。そう考えると宿を増やしても人が減ってくれば経営が成り立たなくなるのかも。
うーん、難しいね。
他の集団から離れた位置まで移動し、そこにテントを張る。四人全員入れる大きなテントだけど、見張りを立てないわけにはいかないので、実質使う人数は四人にはならない。
「あ」
「どうしました?」
少し遠くには森がある。私がアシュミードまで突っ切ろうとした森だ。そういえばあの森には川があったな。でも魔物はいなかったんだよね。今思えば活性化が起きていたのに何にもいなかったのは不思議だ。
もしかしてロック鳥の棲み処が近くにあったからかな。いなかったのはあの辺だけかも。
「川にも魔物っているよね?」
「まあ、いることが多いな」
だよね。じゃああの川にも行けば魔物はいるのかも。
「川に行って魔物狩りしようか」
そうすれば水の魔石が手に入るはずだ。
三人とも水の魔石の重要性は理解しているようなので、反対はされなかった。手放しで賛成もされなかったけど。
「水の魔石を集めるためには仕方ないか」
「リア一人で行かせるわけにもいかないしね」
「身体を鍛えるのにいいでしょう」
と、三者三様ではあるが行くことに決定した。
今日はゆっくり――野営だけど――休んで、明日から水の魔石集め開始だ。
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