第134話 妹分との別れ、そして旅立ち
借りた馬車を受け取り王都の門まで向かう。
ここを出たら港までまた五日ほど馬車を走らせることになる。お風呂に入れないのだけが嫌。タオルで身体を拭うだけではスッキリしないんだよね。こればっかりは仕方がないけど。
「ねーちゃーん!!」
「おあ?」
門の近くまで行くと、聞き覚えのある大声が聞こえる。もしかしなくてもニナだろうな。
エルフ三人に謝って馬車を一旦止めてもらう。
「ニナ」
「エリンに今日出るって聞いたから。この門でよかったよ」
王都の外に出る門はいくつかあるが、港に一番近い門がここだ。特に詳しく話した覚えはないけど、よくわかったな。
「どうした?」
「どうしたってわけじゃないけど、見送りぐらいしてやろうと思ってよ」
「ふーん」
威嚇ばかりしていた犬っころが懐いてきた感覚、悪くない。
「シドと仲直りしたんだろ? 良かったな」
「ああ、ねーちゃんのおかげだ。いろいろありがとな」
「私は殴っただけだけどな」
殴って水かけて説教しただけだ。シドが根っからの悪人になれなかったから結果的にこうなっただけ。いつかなるようになってた……かもしれない。
「オレさ、字が書けるようになったら冒険者になるぜ! 自力でつよくなってやる!」
「そうか。まあ、無理はしないようにな」
ここで餞別に何かくれてやれば印象がもっとよくなるんだろうけど、生憎そんな都合の良いものはない。下手にナイフとか渡すと却ってケガでもされそうだし。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
「ニナ、手を出してみ」
「なんかくれんのか」
「やらねーよ。おとなしくしてろ」
ニナの右手の手のひらに私の手を乗せる。やり方はわかる。やったことはないけど……ニナだし、いいかな。
「魔力があるか調べてやるよ」
「魔力! ホントか!?」
「おとなしく、感じ取れ」
サイラス先生にやってもらった時と同じように、ニナの手のひらから魔力を流していく。
手のひら、手首、腕……と少しずつ奥へと進ませる。やがて胸へとたどり着き、心臓のすぐ近くにある魔力の溜まっている袋に触れる。
ニナは……魔力はあるな。量は、魔法が使えなくはないかな。魔法使い一本は難しいかも。
それにしても……魔力に微かに色を感じるな。こういうものなのかな。ニナの魔力は黄色っぽく見える。目で見てるわけじゃないから見えるという表現もおかしいけど。
とりあえず、その魔力袋から少量の魔力を引っ張ってくる。来た道を戻るように引いていき、やがて手のひらまで戻ってくる。
そんなに難しい作業じゃなくて良かった。ここで失敗してたら格好悪すぎる。
「これがお前の魔力だ。掴んで離すなよ?」
あの日言われた言葉を、ニナにも伝える。
「あ! 戻っていっちまった」
「はは、これが魔法使いの最初の関門だ。手のひらまで自由に動かせるようになれば、もしかしたら魔法使いになれるかもな」
「ホントか!」
「ああ、でも……」
杖がないと魔法が使えないとか、人によって適性があるから使えない魔法もあるとか、一応ぬか喜びにならないように伝えておく。
「ちぇー。これだけじゃ魔法使いにはなれねぇのか」
「それが上手く動かせるようにならないと何にもできん。まずは練習」
「わかったよ。やってみる」
ぐぬーっなんて言いながら四苦八苦してるニナが微笑ましく見える。手のかかる妹でもできた気分だ。
もう少し時が経ったら、この子に会いにまたこの街に来てもいいかもしれない。その時は魔法や戦い方を教えられるだろうか。
「じゃーな、ニナ。これから先も大変だろうけど、努力すれば今よりはマシな生活になれる日も来るだろ。頑張れよ」
「おう、ねーちゃんも気を付けてな!」
ポンポンとニナの頭を叩きながら別れの言葉を告げる。エルフたちに馬車を進ませてもらおうとしたところで、ニナがエルフ三人を見つけたのか、言葉を続ける。
「ねーちゃん美人と旅してんだな」
「おうよ」
聞こえてるからね、あの三人にも。言われ慣れてるだろうけど。あと私も美人の仲間だからね。顔面偏差値的には負けず劣らずだから。
「美女が好きって言ってただけあんな」
「ばかやろう」
余計なことを! ほらちょっとあの三人の視線が私に集まった!
「なんか違うのか」
「色々違う。それだと仲間を顔で選んだみたいになるだろ」
違うって。命の恩人なんだよ。信用できるし、優しいから。決して顔に惚れたとかそんな話じゃ……ない、ないです。顔は好きだけど。
「だってどーせーあムガッ」
これ以上余計なことを言われたら困るので、ニナの口を手で塞ぐ。手遅れだった気はするけど。
「何すんだよ」
「もういいだろ。さっさと子供たちのところに戻んな」
「わーったよ。じゃーなねーちゃん。またいつか会おうな」
「ああ。またな」
手を振りながら走り去っていくニナに手を振り返して、馬車に戻った。
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