第13話 もう帰りましょう
断ることもできずにみんなでお食事になりました。マナー? なにそれおいしいの。
食事をする部屋まで案内されたら、ご丁寧に六人分のお食事が!
どうやらご当主と奥方とお嬢様とお坊ちゃんと一緒らしいです。泣きたくなるね。
「この度は息子のディルクがお世話になりました。妻のリリー・エヴァンズと申します」
わあ。奥さんもきれいですね。さすが貴族、美形度が一般人とはかけ離れていますね。
挨拶もそこそこに、食事を開始する。
前世の食事マナーとそんなに違いはなさそうなので、見様見真似でなんとか乗り切った。
滅多に食べられないお貴族様の食事、できればゆっくり味わいたかったけど、緊張が邪魔して気が付いたら食事が終わってた感ある。
その後のお茶の時間に少しお話をしたが、主に冒険者である父への興味が大きいのか、私に質問が来ることはあまりなかった。
でもお坊ちゃんが私に興味があるらしく、チラチラと私を見ては口をパクパクさせてて気になる。
ただまあ、向こうはお貴族様、私は平民。
万が一にも何もない……と信じたい。まだ子供だからね。これが大人だったら無理矢理妾になれとか言われてたかもしれないけど、今なら大丈夫でしょう。
「ありがとうございました」
「ああ、有意義な時間だった。こちらこそ感謝する」
ようやく解放され、今はお別れの挨拶の時だ。
するとお坊ちゃんが私に近づいてきてもじもじしだした。やめろ。
「あ、あの、リア、さん」
「……なんでしょうか」
嫌な予感しかしないんですが……。
「お、おとなになったら……」
遮りたいけどそんなことはできない。眉間にしわを寄せないように集中してるところだから。
「ぼくとけっこんしてください!」
うわぁ。お父さん助けて。今まで保ってた笑顔が消え去りそう。
「ええと……」
落ち着け、向こうはおこちゃまだ。四歳くらいらしいから、大丈夫。一過性のものだ。
「こらディルク、リアさんが困っているでしょう」
「で、でも」
どうここを乗り切ろうかと悩んでいたら、シャーロットちゃんが助けてくれた!
貴族の名前なんて覚えていたくなかったけど、シャーロットちゃんの名前は覚える!
そのままいい感じになんとかしてください!
「ディルク様、リアは僕にとってとても大事な娘です」
父が参戦した。何を言うつもりなんだ。
お坊ちゃんは父の真面目な表情に思うところがあったのか、じっと父を見つめている。
「なので、リアを誰かに渡すときは、僕より強い人にだけと決めているのです」
「……わかり、ました。ぼく、つよくなります」
「そう簡単には負けませんよ?」
「ぼくも、です」
いいのかこれ。
私の将来を勝手に決めないでくれないかな……。私の意見も聞こう?
いや、断ることってできるのかなこれ。うん。大人になったらここには来ないことにしよう。そうしよう。
「ふふ、ディルク、お勉強もしなきゃダメよ?」
奥方様。止めてください。身分差を考えて。
「全く……」
ご当主も呆れてるよ。
まあ、子供の言うことだし、大人になったら忘れてるでしょ。伯爵家の跡継ぎだろうから、そのうち婚約者とかもできるだろうし。
……大丈夫だよね?
「疲れた」
「そうだね。僕もこうなるとは思ってなかったよ」
伯爵家を後にし、大通りまで戻って来た。
でももう買い物したい気分でもないけど……。
「早めに帰るかい?」
「それもいいかも……」
王都の観光に来ただけなのに、こんな目に遭うなんて。私何か悪いことしたかな……。迷子の横を早足で通り過ぎようとしたからか。うん、いいことではないな。
ああ、そういえば危機察知の件をすっかり忘れてた。父にそれとなく聞いてみるか。
「ねえお父さん」
「なんだい?」
「なんていうか……どうして一人で迷子になってたのかな。護衛とかいなかったのかな」
「うーん、そうだね……いたと思うけどね。その辺りは僕たちが首を突っ込むことではないよ。それに、それとなくご当主に話しておいたからね」
おお、父抜かりない。そういえばこっそりご当主と話しをしてたな。あの時か。
護衛の中に裏切り者が――とかだったら大変だろうね。告げてあるなら大丈夫かな。まあ、もう私には関係ない。
その日はもう疲れてしまったので、軽く買い物をしてから日がくれる前には宿に戻って休んだ。明日の早朝、馬車に乗ってガリナへ帰る。
図書館も学校も気になったけど、貴族がいろんなものを全部かっさらっていった気分だった。
もうしばらく王都には来たくないかな……。
「おかえり」
「ただいまお母さん」
「ただいまハンナ。何もなかったかい?」
「何もなかったわよ。平和だったわ」
今日ようやくガリナにある自宅へと戻って来た。
帰りの馬車では父と二人だったけど、なんだか疲れてしまったので静かに過ごしていた。
父も同じか、私を気遣ってか物静かだったので、父に構い倒されることもなく無事にガリナに到着した。
母が出迎えてくれて、なんだかホッとした。何とも濃い旅行だったな。
「そっちは大丈夫だった?」
「だいじょうぶではなかった……」
「え?」
「はは……いろいろあってね」
まだ夕方にもなってないけど、疲れたから少し休もうかな。やっぱり自宅というのは落ち着くね。
ああ、そうだ。
「お父さん、お土産出して」
「ああ、そうだね。ハンナ、これお土産。リアと一緒に選んだんだ」
魔道袋から取り出したのは可愛らしいリボンだ。母はそれを嬉しそうに受け取った。
「あら、可愛いわね。私には可愛すぎるんじゃないかしら」
「きっとよく似合うよ。ハンナはいつだって可愛らしいからね」
あーラブラブ。私の両親は仲良しですね。
母は今つけている髪留めを外し、渡されたリボンで髪をまとめた。
「どう?」
「よく似合ってるよ」
「うん。かわいいよお母さん」
「ふふ、ありがとう二人とも」
母がギュッと私を抱きしめてくれる。いつの時だって母親というのは安心するなあ。
王都での出来事が濃すぎたから尚更だ。
「リアのお土産はこれだったね。何に使うんだい?」
「実験」
「あら……ハチミツ? この辺じゃ売ってないわよね」
「ああ、リアが欲しいっていうから……食べるわけじゃないみたいだけど。せっかくだから食べる用も買ってきたよ」
そう、王都を回っていたときにハチミツを見つけたから、おねだりしたのだ。
食べるためではなくちょっと試してみたいことがあるので、食用じゃないと事前に伝えておいた。
怪訝な表情をされたけど、私に甘い父はちゃんと買ってくれた。ハチミツだけに甘い。
何に使うのかというと、髪の毛に使いたいのだ。
この世界にもちゃんとシャンプーはあるのだが、前世の物と比べるとやっぱり少し髪がゴワゴワするし、トリートメントの類は無いようだ。
なので、ハチミツでヘアケアをしてみようと思い立った。試したことはないのだが、ハチミツには保湿効果があると聞いたので、やってみようかなと。
椿油も良いらしいけど、この世界に椿があるかはわからない。材料があったら、いつかつげ櫛でも作ってみたいものだ。
早速その日のお風呂でハチミツを使ってみる。髪に塗りこみ、しばらくした後洗い流してシャンプーをする。これだけでいいと思うんだけど……。
「おお! しっとりしてる!」
これは……なかなかの仕上がりになったんじゃないでしょうか。
ハチミツがすごいというか、この世界のシャンプーが微妙過ぎるのかもしれないけど。
「いいねこれ……毎日……はちょっとあれかな。量も限られてるし、一週間に一回くらいの頻度でいいかな」
ハチミツはまだまだ量があるし、ゆっくり長く使おう。うん、いい買い物をした。
そして風呂上りに母に髪の毛について問い詰められた。どうやら傍から見てもだいぶん違うようだ。
母にもやり方を教えてあげたところ、早速試した母の髪もしっとり艶々になっていた。
週一での使用と言っておいたけど、二人で使えば無くなるのも早いかな。




