第127話 ここまで来たら仕方がない
元々フードはずっと被ってたけど、ここに来て更に深く被る。
ここはスラム街だ。私のような美少女が来ていい場所ではないんだけど、今回ばかりは仕方がない。
武装はしてないけど、脚も腕も身体強化が使える。腰にナイフは携帯しているし、魔道袋からすぐに武器を取り出せる。うん、大丈夫。
女の子に連れられて更に奥へと進む。臭いがキツイなあ。服が臭くなりそうで嫌。
「ニナおねえちゃん!」
「エリン!? そいつ連れてきたのか!?」
女の子が走り出し、その先には顔を赤く腫らしたニナが座り込んでいた。ニナの周りには案内してくれた女の子と同じくらいの年齢の子供たちが五人ほどいる。
「ニナおねえちゃん、顔が腫れてるよ」
「うっせぇ! 気持ち悪い呼び方すんな!」
女の子に倣っておねえちゃん呼びをしたらお気に召さなかったらしい。相変わらず口が悪いな。
「何しに来たんだよ」
「この金は私の金じゃないな?」
そういって先ほど渡されたお金をニナの足元に放り投げる。ガシャンと硬貨がぶつかる音がして、ニナが俯く。そこにはさっきのような吠える犬っころの面影はない。
「盗んだ金か?」
「なんだよ……金は金だろ!?」
否定はしないのか。最悪だなあ。
「お前らが盗んだ金で日々の食い扶持を稼ぐのは自由だ。それで被害に遭った人に酷い目に遭わされて殺されても、それは私の知った話じゃない」
ぐっと押し黙るニナ。被害者に危害を加えられる可能性があるのは理解しているみたいだ。
それ以外の生き方がわからないから、仕方のないことなのかもしれないけど。私にできることはその場しのぎの同情くらいだ。
「恩を感じて謝罪とお金を返す精神は、まあ、素晴らしいよ」
きっとお金を盗られなければ、この子はちゃんと私のところへ来て勉強をしたんだろうな。
子供数人抱えて食い扶持を稼ぐのは大変なはず。その上私にお金を返そうとするなんて、なかなか見どころがあるよ。
「でも、盗んだ金を私に渡すな。その金が原因で私に迷惑がかかったらどうするんだ」
盗んだ金を持っているなんて、気分のいいもんじゃない。私は悪いことのできない小心者なんだ。
「お前……ホントに自分勝手だな……」
「お互い様でしょ」
呆れた様子でつぶやくニナにニヤリと笑いかける。
力なく笑うニナを見るに、ケガは問題なさそうだ。それじゃあどうしようかな。
「ニナを殴りに来たんだけど、もう殴られてるみたいだからやめとくか」
「ニナおねえちゃんに酷いことしないで!」
わーわーとニナの周りにいた子供たちが、私とニナの間に立ちふさがる。微笑ましいね。
「慕われてるねぇ」
「ふん、オレがいないと飯にありつけないからだろ」
逸らした顔は腫れとは別に赤くなっていて、照れ隠しであるのがバレバレだ。
この子たちに免じて、殴るのはやめておこう。殴る相手は別にいるし。
「で、その例の威張り散らした男の子とやらはどこ?」
「あいつのところに行くつもりか?」
「お金そいつが持ってるんでしょ? 取り返しに行こうかと」
ニナからそのままお金を持って行ったんだったら、私のお金を盗まれたと言っても間違ってないでしょう。
「シドはケンカつえーぞ」
「私は冒険者だけど」
私よりも強いとは思わないけど、強かったらそれはそれで楽しみだ。
そういう悪ガキって殺したら罪になるのかな。さすがに殺す気はないけど、向こうが剣の扱いに長けた戦士である可能性が全くないわけじゃないし。
「あんた冒険者なのか。それなら案内してやるよ」
「ボロボロの身体で根性あるね」
「一言多いんだよ!」
よろめきながらも立ち上がったニアに、子供たちが声をかける。
「ニアおねえちゃん、シドのところに行くの?」
「あぶないよ!」
「へーきだよ、そいつと一緒に行くからな」
そいつ呼ばわりされた私に子供たちから視線が集まる。不安そうな目から敵意をむき出しにした目まで様々だけど、ニナを心配しているのは確かなようだ。
「ニナねーちゃんに何かしたらおこるからな!」
「はいはい」
子供が相手でも、敵意を向けられるのは嬉しくない。ひらひらと手を振って返事をする。
さっさと行こう。
「早く行こう。腹が減る前に帰りたいし」
「お前ほんっとにむかつくな」
偉そうにしておかないと、舐められるからね。子供相手なら尚更。相手を手玉に取るくらいがちょうどいい。




