第123話 新しい街で何をしよう?<エルシーナ視点あり>
前半がリア視点、後半がエルシーナ視点になります。
馬車を走らせて五日。ようやくギデイ王国の王都にたどり着いた。
『魔物の海』があるからか、立派な外壁に囲まれた堅牢そうな都だ。
「おっきいねぇ」
中に入ればアシュミードと違い、物々しい活気ではなく明るく朗らかな雰囲気がしていて、『魔物の海』の活性化が終了して住民たちの安堵した様子が感じ取れる。
馬車はアシュミードで借りた商会と、同じ商会が王都にもありそこで引き取ってくれる。
「これからどうする?」
「宿を取って魔物を売りに行って昼食を買って……どれからにします?」
「のんびり行けばいいじゃない。急いでるわけじゃないし」
「それもそうですね」
そんなわけで、のんびりと観光をしながら宿を探して歩き回る。
『魔物の海』があるからか、はたまたそういう一画なのか、武器や防具のお店が目立つ。
宿よりも先に冒険者ギルドが見つかったのは、ある意味必然なのかもしれない。
王都に来るまでに討伐してきた魔物をギルドで売り払い、そのお金で宿を取る。
アシュミードの時よりはランクが下がるが、それでも良い宿だ。お風呂もあるし。
途中で買った昼食を食べ、五日分の汚れをお風呂で流す。
「いつでもどこでもお風呂に入れればいいのになぁ」
「持ち運びできるシャワー室なら作れなくはないだろうがな」
湯船に浸かりながら呟くと、セレニアからの返事が来る。そうだよねぇ。作れはするんだよねぇ。
「でも無防備が過ぎるよねぇ」
外で全裸でシャワーを浴びてるとか、襲ってくださいって言ってるようなものよね。魔物でも、人でも。
「いっそ家を持ち運びたい……」
「大きな夢だね」
「持ち運べたら便利でしょうね」
魔道袋に家とか入んないかな。さすがに無理かな。もうちょっとこう、快適な旅にならないかな~。
前世ではキャンプなんて娯楽としか考えられなかったのに、今世じゃ街がなければ野営が当たり前だもんなぁ。
「はあ~。不便で危ないけど、自由な世界だなあ」
「どうしたの突然」
「なんでもなーい」
素直な感想を呟いたら、エルシーナに不審がられた。当たり前か。まあ、特に突っ込まれもしないけど。
旅を快適にするための何かをこれから探してみてもいいな。
まだまだたくさんの楽しみが待っていると考えると、生きるのも悪くないね。
●
「リアと二人っきりになったことがほとんどない気がするんだけど、なんで?」
リアが一人で買い物に出かけていったので、セレニアとクラリッサとお茶をしながらお悩み相談をしてみる。
リアを一人で出歩かせるのは不安があったけど、王都からは出ない、夕暮れ前には戻ってくることなどを約束させたので、渋々送り出した。
信用がない! ってぶー垂れてたけど、それは仕方のないことだと思う。
「お前が私との仲をちゃんと否定しないからだ」
「……してなかったっけ」
して……ないね。そういえばしてない。というか、わたしは彼女と恋の話を何もしていない。あれ、おかしい。
セレニアやクラリッサの方が余程リアと仲が良くなっている気がする。
「お前のせいで私はリアの中で、エルシーナの想いに気が付けない鈍感女にされているぞ」
セレニアがお茶を飲みながら、不服そうに文句を言ってくる。
それはそれで面白いけど、わたしがセレニアに気があると思われ続けているのは困る。ちゃんと否定しておかないと。
でも全然二人っきりになる時が無いんだよね。もう少しわたしとの時間も取ってほしい。
「リアさんと恋の話をしましたよ」
「え、な、なんて言ってた?」
クラリッサが有益な情報を手に入れてきたらしい! 教えて! でもズルい! なんでクラリッサばっかり! セレニアもだけど!
「好きな人はいない。恋人を作る気もないそうです」
「よ、喜べない……!」
好きな人がいないのはともかく、恋人を作る気もないっていうのが……!
い、いや、チャンスはある。あるよね。
「理由は?」
「旅先で恋人作られても困るでしょって言ってました」
「それはそうなんだけど……!」
そうじゃなくて!
あれかなあ、仲間内恋愛とか……もしかして、全く意識されてない?
「女性には告白されたことも付き合ったこともないから、平気かはわからないそうです。たぶん大丈夫とは言っていましたけど」
リアは男性から好意を伝えられるのは苦手だ。それなら女性は? と思っていたけど、そういった経験が無いためわからない、でも本人的には大丈夫だと思う、と。
それならもっと積極的になっても大丈夫かな。加減がわかんないな~。
「……そうなのか」
「セレニア?」
「……いや、なんでもない」
セレニアが何か言いたそうだったけど、何も言わなかった。どうしたのかな。
まあいっか。
「あと何か言ってた?」
他に情報無いかな〜。相手が手強過ぎて、こうやって情報収集しないと勝てる見込みが全然湧かないのよね。
「今まで会ったエルフの中で、エルシーナさんが一番美人って言ってましたね」
「と、当然じゃない」
「嬉しそうですね」
リアがわたしを美人だって!
他の人に言われても何とも思わなかったのに、リアが言ってたって聞くだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて……恋ってすごいなぁ。
「お前に足らないのは行動力だな。もっと積極的になる必要があると思うぞ」
「う……わ、わかってはいるけど……」
踏み込み過ぎて嫌われるんじゃないかって想いが前に来ちゃって、なかなか最初の一歩が踏み出せない。
でもいい加減今のままじゃ何も始まらないし、このままだとセレニアやクラリッサの方に好意を抱かれてしまいそうだ。
「よし、明日二人で出かけてこよう」
「断られないといいですね」
「何でそういうこと言うの!」
縁起でもないこと言わないで!
夕方に帰って来たリアに、明日一緒に出掛けないかと申し出たところ。
「んー………………明日は用事があるから、ごめんね」
大分長考された上で、断られた。膝をつかなかったのは日頃の鍛錬のおかげだと思う。
後ろで聞いていたクラリッサが噴き出して笑いを堪えている音が聞こえたので、後で殴ろうと思う。
理由を聞いても先約があるの一点張りで、詳しく教えてくれなかった。泣きそう。
もう明日はふて寝していよう……。
セレニア「(女ドワーフの胸に飛び込みたいとか言ってた気がするが……?)」




