第12話 貴族には関わりたくないのに
お坊ちゃんを連れて騎士の待機所まで歩いてくる。すると身なりのいい女の子と従者っぽい男性が騎士の待機所の前で言い争いをしているのが聞こえてくる。
「こんなところで待っていても仕方がありませんわ! 早く探しに行かないと!」
「お待ちください! 只今騎士が探しに向かいましたから! お嬢様はここでお待ちください!」
「何を言っているの! 今この瞬間もあの子がどこかで――「おねえちゃん!!」」
その様子を見たお坊ちゃんが走り出していった。どうやらあの二人が探し人だったようだ。
「ディルク!!」
「うわあぁぁ~!」
お姉さんらしき女の子に抱き着いて泣き出す男の子。あー良かった良かった。これで終われる?
なんて思ったけどそんなことは当然なく。男性が私たちに近寄って来た。
「あの、あなた方は……?」
「ただの通りすがりですよ。彼が道に迷ってしまっていたようなので、こちらまでお連れしたのです」
「そうでしたか……! なんとお礼を言ったらよいか」
「いえ、お気になさらず」
胸に手を当てながら何度も感謝の言葉を伝えられる。いきなり『お前らが誘拐したのか!』とか言われなくてよかった。
父と男性が話をしていたら、女の子がお坊ちゃんの手を引いてこっちに近づいてきた。
「ディルクを連れてきてくださり、誠にありがとうございます。お礼に我が家へ招待し存分にもてなしたいのですが」
「いえ、そのような……我々のような平民には分不相応でございます」
父が一生懸命断ってる。私も行きたくない。相手は私とあんまり年の変わらない子だぞ、頑張れ父!
余計な口出しをしないために私はずっと黙っています。
すると、お坊ちゃんが私に近づいてきた。嫌な予感しかしない。
私のすぐ近くに落ち着かない様子で立ち、じっと見つめながら大きな声で言う。
「ぼ、ぼくのおうちに、き、きてください!」
手で顔を覆って『ジーザス!』とか叫びたい気分である。どうしてこう、人生とはままならないのか。私にショタコン趣味はない。
「ふふ、弟は娘さんのことが気に入ったようですわね。やはりお食事だけでもご招待させてくださいな」
「……わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」
心なしか肩を落としたような父。
背後から父を撃った気分だ。事実そうなんだけどさ。もう明日にはガリナに帰るのに……。
近くに馬車が用意されていたので、それに乗せられて彼女たちのお家へ向かう。
なんてきらびやかで広い馬車なんでしょう。姉弟と父と私の四人が座っても余裕があるよ。
おいくらなんでしょうね!
「自己紹介がまだでしたわね。シャーロット・エヴァンズと申します」
「ディルク・エヴァンズ、です」
「ジェームズと申します」
「リア、と申します」
シャーロットと名乗った少女はまさにお嬢様って感じの見た目である。美少女でドレスだもの。金髪のウェーブのかかった髪型してるもの。言葉遣いが丁寧だもの……。
「今日は従者とともに街中を見学していたのですが、いつの間にかこの子がいなくなっていて……見つけてくださり本当にありがとうございました」
「大事に至らずよかったです」
次からは護衛もつけてね。それともいたのかしら。それで見失ったっていうのもなんだかな。
そういえば合流してから危機察知が反応しなくなったな。諦めたってことならいいんだけど。
その後もお話……といっても主にお嬢様と父が話をしているだけだけど、お家とやらに着くまで話は続いた。彼女は私と同い年らしい。私よりしっかりしてるんじゃないかなこの子。
私にはたまにお坊ちゃんがじっと見つめてきたり、目が合うとそらされたり、顔が赤くなったりとせわしない様子を見せるくらい。なつかれちゃったなぁ。
「ここがエヴァンズ家の屋敷です」
うーん。豪華! どう見ても貴族様のお屋敷です帰りたい。
「おかえりなさいませ」
門の前にメイドさんが立っていて姉弟を出迎えている。
「こちらのお二人は客人です。案内してあげてちょうだい」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
メイドさんに連れられて屋敷の中へ。ヤバい緊張してきた。
綺麗な廊下に見るからに高そうな置物や絵画が置いてある。あれ一つだけでも目玉が飛び出るくらいの価値があるんだろうな。転んだりしたら大惨事かもしれない。
「こちらでお待ちください」
そう言って案内された部屋は応接室らしく、高そうなソファーが置いてある。前世でもこんな高いやつ座ったことない。
メイドさんは案内した後部屋から出て行った。束の間の平穏だ。
「リア、大丈夫かい?」
「全然大丈夫じゃないからなるべく喋らないようにしてるね」
父が私の頭を撫でながら慰めてくれるけど、本当に大丈夫ではない。帰りたい。胃が痛い。
「ふふ、そうだね。それがいいかもしれない。大丈夫さ、悪いようにはされないだろうから」
「うーん……」
だといいけど……貴族ってだけでいいイメージがないからなあ。偏見だろうけど酷い目に遭いそうで不安だ。
しばらくするとメイドさんがお茶とお茶菓子を持って戻ってきた。わー高そうなお菓子だわ。紅茶も美味しい。美味しいと思う。私の喉を潤してくれる。味はわからない。
お菓子も一つだけつまんだ。クッキーみたいなやつだ。クッキーは割と好きなんだけど、今だと喉を通らない。口の中がパッサパサです。
さらにしばらく待つと、父と年の近そうな紳士服の男性が入って来た。
父が立ち上がって一礼するのに倣って、同じことをする。
「楽にしてくれていい。座ってくれ」
「失礼します」
慎重に音を立てないように座る。私は緊張でガチガチである。
「エヴァンズ伯爵家当主、スコット・エヴァンズだ。今日は息子が世話になったらしいな。感謝する」
「恐れ入ります」
伯爵だって! すごいんじゃないですかね。貴族についてはあんまり詳しくないけど。
「礼として昼食を用意させた。食べていくといい」
「ありがとうございます」
そういえばお昼だなあ。よかったすぐに解放されそうだ。
「それから息子たっての願いでな、そちらのご息女と一緒に食事を取りたいというのだが」
そんなことはなかった。




